【第200話】タイムカプセル2
「声優って・・・夢叶ってんじゃね?」
「ん?」
長門、今なんて?
俺は後ろから覗き込んできていた長門に振り返る。俺一度も今声優してるだなんて言ってないよな。
「マジなのか?」
「マジかマジじゃないかで言ったらマジだが・・・」
どこで俺が声優だと思った? 声を変えずに声優だと言われたのは初めてかもしれないんだが。
「その写真なんか似てるなーって思ったけど、違うだろうなーと思って話のネタにしようと思ったんだが、マジだったとは・・・」
名前は言わないけど、あの両声類の声優だよな? と長門が言う。長門も知ってるってどんだけ俺知られてんだ・・・名前を言わないのは助かる。
でも、この子供の頃の女装写真から繋がるとは思わなかった。
「間違ってないが・・・なんで知ってんだ?」
声優を知ってるなんて結構コアになると思うんだけど、有名所は知っているにしても悠里はそこまで露出してないから、知っている人は知っているといった感じだと思うんだが。
「前にダチにイベント連れて行かれてな。そのときに見たんだがあの声に衝撃を受けて調べたんだよ」
一時期履歴がほぼその検索ワードだった。と長門が言う。興味をもってもらうのは良いんだけど、それは調べ過ぎな気がする。大体悠里の開示している情報は事務所のホームページにあるのがほとんどだし。
「全然出てこない情報にむしろムキになって調べてたんだよ。
性別スレなんか、1スレ目で女って断言されてて、誰も反論しない感じだったな」
まさかまじで男の娘だったとは・・・と長門に全身を見られる。
「あーうん。なんかお前がああいう格好するのも分かる気がするな」
華奢でなで肩。あと眼鏡外したら結構女顔じゃね? と言われる。女顔とはあまり言われたことないんだよなぁ・・・眼鏡外したらリンとは言われるけど。
「まぁ黙っとくから」
から?
「あとでサインくれ。イベント誘ったやつに見せつけてやる」
くくく。と悪どい顔をする長門。本当に昔と変わったよな。昔はこういった事を言わなかったクソ真面目だったのに。
*
「そういや、長門は今なんの大学行ってるんだ?」
「一応教育学部だな」
完全に親が推してきたからどうしようもなく。と長門は言う。本当に大変だな。
「教育学部でよく金髪でいけてるな?」
「あー、学校じゃウィッグ被ってる」
下手したら親に連絡行くから学校じゃ優等生演じねぇとな・・・と疲れたような感じで長門は言う。放課後だけかよ。
「鈴木はどこ行ってんだ?」
大学名と教育学部ということを伝える。
「そこの理事長爺ちゃんだわ」
・・・なんかそんな予感してたけどやっぱりか。
「なんでこっちの大学じゃないんだ?」
「あー、理事長の息子ってことで贔屓目があるかもしれないからって理由つけて遠くの大学にしたんだよ。一人暮らししたかったし」
あー、なるほど、親元から離れたかったのか。ここからうちの大学もまぁ通学圏内といえば通学圏内だからな。結構掛かるけど。
*
「来てる人には渡ったか?」
掘り出してタイムカプセルの中身を配っていた人が声をかける。掘り出した土の埋め直しも終わっていてあとは帰るだけといえば帰るだけだ。
さっき少しだけ長門と皆から離れてスマホケースの裏に悠里のサインを書いておいた。もう正直俺がここにいる理由はない気がする。
「全員に行ったみたいだな。
とりあえずタイムカプセルの開封は終わったが、このあと時間あるやつはどっか遊びに行こうと思うがどうだ?」
そういえばこのタイムカプセルの開封は委員長だった長門じゃなくてこいつの発案だったな。
「鈴木はどうするんだ?」
長門が聞いてきた。さっき遥さんからこっちもそろそろ終わりそうという連絡が来たから迎えに行くのもいいけどどうするか。迎え来れないようなら実家に歩いて帰るから、旧友と親睦を深めてくるが良いっとか芝居がかった感じで言ってたけど。
「んー今日は帰るよ」
ぼっちだった時期のクラスメイトよりも遥さんといた方が明らかに楽しいし。
「そうか。お疲れー」
「お疲れー」
何人か先に帰るらしく、そこに混じって俺も移動する。小学校の来客用駐車場に車は停めてある。移動する途中で遥さんに迎えにいくよ。とメッセージを入れておく。遥さんの方は元クラスメイトと話すことは多そうなんだが、いいんだろうか?
*
遥さんの通っていた小学校に来ると、遥さんが車に駆け寄ってきた。そんなに急がなくても良いのに。
「あーもうめんどくさい」
遥さんが駆けてきた方向に向かって睨みながら言った。
何があった?




