【第20話】アイドル4
「ところで、アカネさんはなんでアイドルを?」
「今更!?というか今聞く!?」
叫び、わたし達を見てイヤイヤといいながらも混乱していたアカネさんに今更ながら聞いてみる。
そういやなんで女装してアイドルなんかしてるのか聞いてなかった。
「えっと、アカネは私が誘ってね。アカネとは従姉弟でね。
昔から仲良くて一緒にカラオケ行ってて、歌上手いから誘ってみたの」
ナギサさんが、わたしが差し入れたお菓子の箱を開けながら答えてくれる。
皆が取りやすいように机の上に広げられた。
あっ、わたしにも下さい。
「へー従姉弟だったんですね。あっ、お茶頂きます」
急須に茶葉を入れてポットからお湯を入れた遥斗が人数分の紙コップにお茶を淹れて準備してくれる。
「最初は男女コンビと思ってたんだけど、させてみたらこれじゃん?だったらもうこっちで行こうかなーって」
可愛い方が人気出るでしょ?とわたし達に聞いてくる。
「可愛い方が得」
可愛く作って色々特典を貰っているわたしにしてみたら得だらけだ。
最近は男の方が肩身が狭いまである。なんでメンズデーってそんなに無いんだろうか。
ずずーと、遥斗が淹れてくれたお茶を飲んで、持ってきたお菓子の小分けの袋を開ける。
言ってしまえば饅頭だ。同じ県に住む人に何を差し入れればいいだろうかと考えたら結局有名メーカーのものに落ち着いた。
「なんで、ナギサ姉達はそんなに自由なの!?」
とかいってるアカネさんも女声維持してるじゃないですか。
あと、全然素とキャラ違いますよ。わたしが言えることじゃないですけど。
「いやいやいや、ほんとにっ?えっ、えーと鈴木だっけ?」
そういや、今日名乗ってないですね。
「わたしの名前鈴木リンなので、わたしも鈴木ですね」
「えっ、いや、違うっリンさんじゃなくてっ」
いやー見事に混乱してくれてますねぇ。
「リンって人のことからかうの好きだよな」
「面白い」
そういいながらわたしの自由な言動にのってくれた遥斗とナギサさんもよくわかってるじゃないですか。
「何ヶ月一緒にいると思ってんだ」
「正式に付き合いだして一ヶ月も経ってない」
ただ、リンと遥斗という組み合わせなら・・・約半年じゃないですかね。
「へー二人ってそれぞれの事知ってて付き合ってるの?」
「はい!!俺から告白しましたっ」
えぇ、遥斗からされましたけど、その前に正体を問い詰められた方が記憶に残ってる。
ようやく混乱から戻ってきたアカネさんが椅子に座ってわたしをじーと見ている。
まだ信じられませんか?
ちょうど、楽屋には鏡があるし、一度ウィッグ外そうかな。
あと予備として持ってきていたいつもの眼鏡を取り出してかける。コンタクトの上から眼鏡は調整してないからあまりかけたくないけど仕方ない。
「どう?これで・・・ゴホン、分かってもらえるか?」
そのままリンの声で答えようとして途中で地声に戻す。
「うあっ!?まじっ!?」
「まじ」
眼鏡を外してウィッグをかぶり直す。
どうにもスカート姿でウィッグなしは落ち着かない。
「なんで声だけで信じてもらえないのか」
「そりゃぁ・・・リンが多声類だから声真似ぐらい簡単だと思われてるからじゃない?」
「声は同じのを出せる。でも癖までは時間がかかる」
本当に声真似で同じ声を出すというのは問題ない。
そこからの喋り方とか方言、イントネーションまで合わせようとすると中々難しいんですよ。
特徴だけ掴んでそこだけ合わせるというのは出来なくはないですが。
「・・・リンさんが女の子で、リンさんが鈴木君で鈴木君は男の子、あれ?リンさんは?」
ちょっ、なんでまだ混乱してるんですか。
教えて一番悩んでると思うんですけど!!
「アカネ、あんたも似たような事してるんだから受け入れなさい」
ナギサさんがアカネさんの肩をぽんぽんと叩く。
「意外とナギサさんは落ち着いてますね」
「いや、だって私、君達の地を知らないからね。あと二人がウィッグなのは最初から分かってたし」
ウィッグを見破れる人でしたか。
別にウィッグというのを隠すつもりは無いけど。
*
「す、すみません。お待たせしました」
「別に待ってない」
「そーそー、リンと話してたらすぐだから、気にしないで」
アカネ君がライブハウスから出てくるまで、この前使った喫茶店でケーキを食べながら遥斗と次のイベントの話していただけだし。
帰る方向も同じだしということで、一緒に帰ろうとなって着替えるアカネ君を待ってた。
ナギサさんは別方向とのことだ。
会計してから駅に向かって進む。
「二人はいつごろからそれしてるんですか?」
んーいつごろだっけ。
「俺は1年ぐらいかなぁー」
遥斗はそれくらいなんだ。
あれ?でもイベントとかもっと前から行ってる風だったけど。
「あぁ、母さんがね。サークル参加してたからそれについて行ってたんだ。
その時は一応身バレ防止で帽子被ったりはしてたけど、女子の装いだったんだよ。
本は委託で母さんのサークルで並べてもらってたけど」
一人でサークル参加しだしてからは男装だけどね。とまさかの英才教育だった。
「わたしは・・・んー3年?」
確か始めはレディースデイでスタンプ2倍だったからだと思う。
どうしても特典のサイン入りポスターが欲しくてレディースデイとメンズデイでスタンプを貯めたのが初めだった気がする。
あの時はお母さんがわたしにメイクとかしてくれていた。息子にメイクするぐらいなら代わりに買ってくれればよかったのに・・・