【第2話】疑念
「今日は文化祭の出し物を決めたいと思います」
イベントが目白押しだった夏休みも終わり、そこそこ遥斗と遊びつつ10月。
いよいよ俺の学校にも文化祭の季節がやってきた。
今1年生の俺たちにとっては初めての文化祭だ。
まぁ俺は姉の代で遊びに来たことはあるけど。
「模擬店!!」
「メイド喫茶!!」
「お化け屋敷!!」
「喫茶店!!」
「メイド喫茶!!」
「ジュース屋!!」
「メイド喫茶!!」
「誰ださっきからメイド喫茶連呼してるやつ!!」
なんともまぁ、ノリの良いクラスだことで。
俺はクジで勝ち取った窓際の席で頬杖をつきながらその様子を眺める。
部活にも入ってないし、クラスで決まったことを手伝うのは吝かではない。
祭りはいつだって楽しんだもの勝ちだ。
「はいはい。決まらなそうだから多数決にしましょ」
女子のクラス委員である飯島 遥さんが、壇上に立って今幾つかでた案を黒板に書く。
さらっとメイド喫茶も書かれている。
そして多数決。
男子多数によりメイド喫茶になる。
俺はジュース屋に表を入れた。だって簡単そうだし、安くジュース飲みたくね?あと衛生管理も簡単そうだ。
「それだと女子だけ忙しいじゃん!!」
まぁメイド喫茶だとホールは女性陣にまわしてもらう必要が出てくるからなぁ。
「じゃぁ衣服逆転喫茶店とか?」
なんか飯島さんがえげつない提案をしてきた。
普通男子に女装させても・・・いや、そこまでごついクラスメイトはいないからメイク次第でなんとかは出来る。
あらっぽい動きを抑えて、女声を仕込めば・・・1ヶ月あればできそうだなぁ。
「いいねそれ!!」
女子の大半がその衣服逆転喫茶つまりは男装・女装喫茶に賛同してしまう。
まぁ女子は男装しても見苦しくはならないからなぁ。
男子からはブーイングだ。
「じゃぁそれで出しましょうか」
ふふ腐腐腐と担任の華岡先生が怪しく笑いながら男子のブーイングを無視した。
えっと・・・華岡先生を夏の祭典で見かけた記憶がある。確かBLサークル・・・?
腐っておいでですか?
*
「おー、鈴木君似合うねー」
着れる女物があれば持ってきてと言われたので、衣装確認として姉の制服を持ってきた。
身長も大して変わらないし、何度かリンとして着て出かけたことはある。
理由?制服限定のサービスデー狙いだ。モンブランが最高なんだ。
ちゃんと姉には借りるとは連絡しているし、着た写真欲しいと言われたので送ってある。
女装は家族公認なわけでして・・・服を隠さなくていいっていいよね。
メイクはしてないが、眼鏡を少しシャープなものには変えてある。いつもは野暮ったい黒縁メガネですがね。
「ちょっと丈短いなぁ・・・」
「えーそれぐらいだよー」
いやリンとしては膝丈ぐらいを基本としているから膝上15センチは正直慣れてない。
姉の制服は折ってあるだけでなくちゃんと縫ってあるから伸ばすことも出来ない。
ウィッグは持ってる人は持ってきてと言われたので持ってきた。
リン仕様ではないロングの黒髪だ。これでリンと言われてしまったら他人の空似で通す。
声を変えなければバレないはず!!まぁそもそもクラスメイトにリンの知り合いは居ないわけだが。
あとなるべくリンの人格は出ないようにセーブ、セーブ・・・
今日は女装ということを押し出すから下着類は全部男物。へ?リンのときは徹底しますがなにか?
服がない男子は先生の伝手でどこからかコスプレの姫衣装などが来ていた。
先生・・・そこまでして女装させたいんですか・・・
着方に四苦八苦しながらも、意外と乗り気になってうぇーいとはしゃいでいた男子をおいて一人先に更衣室から出てきたが大丈夫だろうか?
「あっそうだ。しばらく女子側に混じってて!!気付かれないかも!!」
ノーメイクで気付かれるか見てみたいのもあるから、その提案乗った。
声は・・・リンの声でなければいいんだ。
なら、姉の声を真似して・・・
「おっけー」
へっ!?と何人かの女子がこっちをみる。
ここに残っている女子はホールには出ずに裏で準備する人たちだ。
料理できる人たちを選別したらこうなっただけで、ホールでたくなーいという意味ではない。
男子は揃って料理できない組だった。
俺は出来るが、一人だけ裏方というのもね。別に女装はパートタイムでやってるからどっちでもいいし。
「ちょっと、鈴木君!?声!?」
「姉の声真似ですよー」
今時、別に両声類なんて珍しくもないでしょー。
いやいや珍しいから!!というツッコミを受けつつ、女子の輪に入ってどんなメニューにするかの相談を初めから居ましたよ?感で始める。
でも普段出し慣れてない声って出しにくい。
「うぁ・・・鈴木君が女子にしか見えない・・・」
ふふん。パートタイムで女子やってるからねー。
===>
「どう?」
私は執事風のコスプレ衣装を着替えて教室に帰る。
普通男子の服しか持っていなかったからどうしようかと思っていると華岡先生が持ってきた。
華岡先生、腐っている上にコス大好きなんですよね・・・
イベント会場でよく見かけるし。
危うきに近寄らずで話したことは一切ないけどね。先生BLサークルだし。
それにしても、まさかネタで言ったのが決まるだなんて思ってなかったし!!
男子陣は女子全員でメイクすればなんとかなるんじゃないかなとは思ってるけど。
「おーかっこいい!!」
料理担当の千里が入ってきた私にパタパタと近づいてきて全身を見回してくる。
今日はウィッグもメイクもしていない遥を表に出した男装なわけで・・・男装の貴人風かな?
教室を見回してもまだ男子は着替えてきていないようだ。
まぁ慣れてないだろうから仕方ない。女子組はまぁ普通にパンツルックだからね。着替えるのも慣れてるわけです。
ウィッグは持ってきているものの遥斗仕様なわけで・・・一度私という印象を与えてから被ればいいかな。
どうせ知っている人はクラスにはいないし。
あれ?なんか遥としては見覚えのない、遥斗としては見覚えのありすぎる子が料理組に混じって何か談笑してる。
髪型は違うけど、あの横顔は・・・リン?
「あっ気がついた?」
千里がにやにやしながら私に聞いてきた。
「あの子は・・・?」
「鈴木君だよーすっごい違和感ないよねっ!!」
へー鈴木君なんだー・・・えっ!?
「ちょっと、ちさっ!!それ秘密って言ったでしょ!!」
鈴木君?から声が上がる。鈴木君の声じゃない。リンに近い声だ。
「え?秘密なんて話ししてたっけ?」
「あー、柊さんチョットぐらい乗ってくれてもいいじゃん・・・」
「あっ、そういうことかー。ごめんごめん」
即興の演技だったっぽい。今の声は鈴木君の声だ。
「えっ鈴木君なの?」
「いぇす」
と鈴木君はリンがたまにするしてやったぜ感の顔でVサインをしてきた。
もう私の頭の中は混乱でいっぱいだ。
こんなに似てるってことは親戚か何か?同じ鈴木だしあり得るかも・・・
<===
飯島さんが着替えてきた。
おー似合ってる。宝塚に居そうな雰囲気だ。
俺の全身を見てくる。
珍しいと言った感じの視線じゃない。よくわからない視線だ。
しばらく見つめられた後、飯島さんは自分の鞄をあけてウィッグを取り出した。
「じゃー鈴木君もウィッグ付けてるし、私もつけようかな」
といって飯島さんは短髪のウィッグをいかにも被り慣れた様子で着用した。
「んー?」
なんか飯島さんって遥斗に似てるなぁ。
親戚か何かかな?
「どうよ!!イケてね?」
姫服を着た男子生徒が教室に入ってきた。
うーん・・・
「「地毛はしっかりウィッグに入れる!!」」
姫服に合わせて金髪の長いウィッグを被っているが、地毛がはみ出てんだよ!!
なんか飯島さんと声が被った。
*
文化祭当日、女子数人と俺で男子達をメイクして外見だけは整えた。
声と動き方でモロバレだけど!!
100均の化粧品と綿棒でやったけどまぁ形になったと思う。化粧品なんて若いうちは安い奴で十分。
安すぎても怖いから自分の使うのは激安ってわけじゃなくて比較的安い部類を使ってる。
これが俺。とかいう男子もいてやってて楽しかった。
メイク技術を突っ込まれたりもしたが、姉のをみて覚えたとしておいた。自分でやらないと覚えれないと思うけどな。
どうせ気付きやしないからそのままだ。
「3番、パンケーキと紅茶!!」
「はいっ!!」
うーん。見た目は女子なのに声が男子なのが残念だ。
「4番、お会計でーす」
女子の男装姿はうん。まぁいいんじゃない?
飯島さんがカッコよくメイクをしてあげていた。俺はかっこいい系のメイクは分からないから飯島さんに少し教えてもらった。
「いらっしゃいませー」
俺は席に案内して軽く注文を取ってから裏へ。
異性装というキワモノの割に可愛い、かっこいいと評判で盛況だ。既に廊下には待ちが出ている。
休憩から戻ってきた男子共のメイクをしてやらないといけない。
あー忙しくなりそうだ。
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どうよ!!私の作品!!という感じで男装女子をメイクしてホールに出していく。
横では、手際よく男子にメイクしていく鈴木君がいる。
まさか男子でここまでメイク出来るとは思わなかったけど、全員を私がメイクするってことにならなくて良かった・・・
鈴木君のメイクした男子は普通に可愛い。そしてメイクする鈴木君も高校の女子制服にも関わらず可愛い。
男子から、これが俺・・・という定番の言葉も頂いて、私はとても満足です。
「おしっ、ちょっと休憩行ってくる」
鈴木君が今からシフトの男子のメイクが終わって休憩に立った。
着替えるのも面倒だしこのまま行ってくるといって鈴木君は教室から出ていった。
ま、まぁ鈴木君のクォリティなら誰も気が付かないと思うけど、鈴木君全く女装に抵抗ないのね・・・
私もあと二人メイクしたら休憩に行くんだ・・・
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「あの、すみません。2-Bってどう行けば・・・」
休憩に入って中庭に抜けようとしたら多分女子中学生に声をかけられた。
持っているのは周辺の小中学校に配ったうちの高校の文化祭のパンフレットだ。
意外と大々的にやっているうちの高校の文化祭は地域の祭りの一つとして小中学校を招いたりしている。
この子もそんな中学生の一人だろう。
周りには男子もいたが、俺に声をかけてきたというのは・・・あぁ今俺女装してたんだったな。
「2B?」
「お姉ちゃんがいるはずだから・・・」
流石にこの姿で外部の人に男声で話すわけにはいかないし、癖でいつものリンの声で話してしまったがまぁいいだろう。
「なら、あっちの建物の二階。真ん中らへん。
分からなかったら周りの人にでも聞いてみて」
「ありがとうございますっ!!」
「ん。楽しんで」
そしてパタパタと走り去っている女子中学生。
若いっていいね。まぁわたしと1,2年しか変わらないけどね。
おっと・・・リンが出てきてた。
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私も休憩に入って着替えるのも面倒だから今の執事服のまま出かける。
意外とお祭りということでコスプレの子もいるから大丈夫だと思う。
で、中庭に抜ける近道をしようとしたら、女子生徒が私服の多分中学生?から教室の場所を聞かれていた。
んん?女子生徒じゃないあれ鈴木君だ。
「なら、あっちの建物の二階。真ん中らへん。
分からなかったら周りの人にでも聞いてみて」
リンの声!?口調も抑揚もリンだ。え?鈴木君からなんでリンの声が!?
つい私は物陰に隠れてしまった。
「ありがとうございますっ!!」
「ん。楽しんで」
リンの声に違いない!!
えっと、ちょっとと混乱しているとリン(?)はそこから居なくなっていた。
<===
休憩から戻ってきてまた男子共のメイク崩れを直したりしていると、飯島さんも休憩から帰ってきた。
「鈴木君今さっき道聞かれてた?」
「ん?あぁ。中学生っぽい子に聞かれたな」
それがどうしたんだろうか?
なんでまた俺は飯島さんに全身を睨まれるように見られているんだろうか・・・
そんな中、ホールの方から声がかかった。
「鈴木君!!飯島さん!!ホールお願い!!」
「「はーい」」
そんなこんなで俺達のクラスの男装・女装喫茶店は大盛況のまま終わりを迎えた。