【第19話】アイドル3
「だりぃ・・・」
体育の授業でジャージに着替えて体育館に来ると、男子はバスケをすることになった。女子は卓球らしい。
俺も女子側に行っていいかな?バスケより卓球の方がいい。
そっちがいいという目線を向けていると遥さんに、おいでーと目線を返されたけど、流石になぁ・・・
うちの高校では体育については2クラス合同となっている。だから隣のクラスも一緒に体育館にいる。
俺は今は休憩中。正直動きたくない。太らないように代謝は良くしたいけど、筋肉付けたくはない。
うちのクラスの奴らよく動くなぁ・・・
「あっ!?」
一人ドリブル中に自分でコケた。
あらら、右膝擦り剥けてる。隣のクラスの人だ。長めの髪で目が隠れてるから見えずにコケたんじゃねぇかな。
「先生、保健室連れて行ってきますね」
「あぁ、頼む」
折角だから、バスケしたくないし保健室連れていく口実で抜け出させてもらおう。
「えーと、「岡崎です」岡崎君立てる?」
「すみません。肩貸してください」
「どーぞ」
*
「しみるぞー」
保健室で消毒液とかと借りて岡崎君の手当をする。
養護教諭は授業でいない。そんなに保健室を使ったことがないから分からないが、うちの高校だといないのがデフォらしい。
『消毒液と絆創膏はこちら。自由に使ってOK』と書かれていた紙があったから勝手に使わせてもらう。
一応、使用者の名前を書く必要があったから岡崎君に書いてもらう。その間に俺は手当てだ。
「すみません。書けました」
「了解。もう少しで手当て終わるから、少し動かしてみて」
軽くガーゼを当ててその上から包帯を巻いていく。範囲が広すぎて絆創膏じゃ無理だった。
「すみません。ありがとうございます」
「いいって、俺はバスケサボりたかったし」
卓球ならしたかったんだけどなぁ。
書いてもらったバインダーを机の上に置く。
「ん?」
ふとバインダーに挟んだ紙に書かれた岡崎君の名前が目に入った。
「茜って女の子っぽ・・・あっ、失言だったらごめん」
つい思ったことを口に出してしまった。
女っぽい名前を嫌がるのはよくあることだし、失言だったな。ごめん。
「いや、確かに女っぽいけど嫌じゃないから別に大丈夫です」
そう。無理してない?
*
「ライブー!!いぇいっ」
放課後、急いで家に帰ってリンと遥斗に着替えてからハイテンションな遥斗と一緒にライブハウスに入る。チケットはアカネ君から貰った。
あの後も自宅でわたしがサンプルとして渡した声と録音した声を比べながら調整して、ある程度出るようになったとは連絡をもらった。
見に行こうかと言ったら折角だからとライブの電子チケットをくれた。競争率の高いチケット争奪戦をせずに入ることが出来た。
平日なのはただ単に最近土日がわたし達の方が忙しいだけだ。
ライブは楽しみだ。今日もサイリウムは持ってきた。あとコールも覚えてきたから踊れる。
まぁリンの性格じゃないから踊らないけどね!!
遥斗は踊る気満々で動きやすい服装できている。うん。動きやすいのは分かるけどジャージはどうなのかな?
「みんなー今日も来てくれてありがとう!!」
確かナギサさんがステージ上で一気に視線を集める。
ナギサさんの隣にはアカネ君・・・いや、今はアカネさんにしておこう。
アカネさんがにこやかな笑顔で皆を見ている。わたしと今、目が合って手を振られた。小さく持っていたサイリウムを振り返しておく。
「集まってくれて皆には先に謝っておこうと思いますっ!!
アカネがコケて怪我しちゃったので今日はあまり激しく動けません。ゴメンナサイ!!」
「ゴメンナサイ!!でも精一杯歌おうと思います!!」
確かにアカネさんの右膝には包帯が巻かれてい・・・んん?なんかあの包帯見覚えが・・・
いや、そうそう女装した人がうちの学校の人のはずがないし!!いやただの偶然、偶然!!ぐ、偶然だったらいいなぁ・・・
「じゃぁ今日の一曲目いっくよー!!」
ひとまずっライブを楽しまなきゃ!!
*
「はい」
まだ寒いにも関わらず動いて汗をかいた遥斗にタオルを渡しておく。
一応持ってきておいて良かった。
「ありがと」
遥斗が流れる汗を拭く。
ジャージの中まで拭く・・・お腹まで見えてますけどいいんですか?
拭き終わったタオルを返してもらって持ってきたリュックに片付けて、関係者入り口から裏に入る。
アカネさんが事前にスタッフには連絡してあったらしくスムーズに入れた。
「あれ?リンちゃんと彼氏くんこんなとこでどないしたん?」
相変わらず知り合いの遭遇率が高い。伊佐美さんがそこにいた。
「友達に会いに来た。伊佐美さんは?」
「うちは次のライブの下見やでー、麻美と一緒にライブやー」
リンちゃんにもチケットやるけんなー、あっ今あんまり時間に余裕ないねん。とさっさと移動していった。まぁここのライブスタジオ中々の規模ですからね。
姉さんナギサさんと舞台が違うって言ってたけど、アイドルみたいな事してません?もろ被ってません?まぁこれはまた今度会った時に聞くようにしよう。
*
「どうぞー」
おっ、前わたしがサンプルとして渡した声そっくりだ。
扉を開けて中に入ると、中にはパロメロの二人がいる。
こうやって楽屋を訪れる人がいるみたいでまだアカネさんはウィッグにメイクでアイドル状態のままだ。
「おつかれさまー」
「ライブ良かったよーアカネちゃんも怪我してるのに結構踊れてたし!!」
「「ありがとうございますっ!!」」
わたしはリュックに入れて持ってきていた差し入れを渡して、遥斗は買ってきて物販を見せながらライブの感想を言った。元々遥斗はパロメロのファンだからね。
「で、怪我どうしたの?」
「体育の授業で転んじゃって擦りむいちゃって・・・あとが残らないかが心配なんですが」
まぁまだ若いんだから残らないように治るんじゃないかな。
残っちゃった場合はニーソで隠すことも出来ることだし。
でも、体育か・・・何か引っかかる・・・
「ど、どうしました?」
「・・・アカネさんの名字って岡崎とか言わない?」
ピキッとアカネさんが固まり、ナギサさんが何事とわたしとアカネさんを交互に見て、遥斗はんー?とアカネさんを覗き込む。
「あー、なるほど」
ぽんっと遥斗で手をうった。
「が、学校のか、方ですか・・・?」
アカネさんが不安そうな顔でおろおろとしている。
反応で分かってしまった。アカネさんはわたしが学校で手当した隣のクラスの岡崎君だ。
「えっ茜!?リンちゃん達同じ学校なの!?」
「し、知らない!!リンさん達みたいな人学校で見たこと無いし!!」
まぁそりゃわたし達この姿で学校行ってないですし。
「あっ!?」
ありゃ何か思い出したのかな?
「遥斗さんって去年の文化祭で異装喫茶してませんでした」
「んー、まぁいっか。してたよー」
一度こっちと目を合わせてから、この人達ならまぁいいんじゃないかなと頷いて、さっそくばらした。
こっちも相当でかい秘密を教えてもらってるしね。
次にわたしの方を見てくる。わたしはニヤリと笑って地声に戻して。
「今日手当てしてあげたのに忘れるなんて酷いなぁ」
アカネさんがピシリと固まる。
「えっ!?えっ!?えぇぇぇぇぇぇ」




