【第183話】事情
「なんでここ?」
「まぁまぁ、リンちゃんもついてきて」
社長から電話がかかってきて事務所に行くとそのまま車で指定された住所まで移動して、社長と一緒に建物の中に入る。先に連絡していたのか受付で社長が少し話すだけで中に通された。
出ていた看板はわたしも見覚えがある事務所の名前で、確かKB18が所属している事務所だったはず。
事務所規模的にはうちのほうが大きいけど、アイドルが多い事務所だったと記憶している。うちはあっちこっちに手を伸ばしてるから、アイドルはそんなにいない。
「前はここじゃなくてうちのビルの近くにビルを持ってたんだけどね。なんか最近厳しいみたいだよ」
社長がエレベーターの中で教えてくれる。
なぜそれをわたしに教えてくれるのか分からないけど・・・
「さ、ついたよ」
*
「この度は本当に申し訳ありませんでしたっ!!」
会議室に通されて少しだけ待っていると現れた大藪さんが社長に向かって頭を下げた。
ん? どういうこと?
「本当にご迷惑をおかけして申し訳ありません!!」
少し頭皮が寂しくなってきている男性も頭を下げている。多分、この事務所の社長さん? 分からないけど。だって見たことないし。
「前のあの週刊誌、話題作りのために見つけた記者から見えるように角度つけたんだってさ」
へぇ・・・馬鹿じゃないですか。そんな話題なくても人気なくせに。あと、その炎上商法は長く続きませんよ。飽きられて見捨てられるだけだと思いますが。
「すみません!! 最近ファンクラブの人数も減ってきて・・・つい・・・」
そんなに炎上商法したいなら別の姿を作るから、素とリンと悠里の姿は巻き込まないでもらいたいですね。
言ってくれればその場限りの実在しない姿を作りますよ? 仕事としての依頼なら、お金はもらいますが。
*
「ところで遠藤社長、隣にいらっしゃる方は・・・」
気が付かれていなかった感じですか・・・まぁ変装してますからね。
「あぁ、この子が大藪君が勝手に使ったリンちゃんだよ。
誤解は解けたけど、何かあるんじゃないかって事務所に記者が張り込んでるから変装してもらってるんだ」
そうなんですよね。まだ事務所前にスクープ狙いの記者がいるんですよね。ネットだともう下火の話題なんですけど。
そうそう今あの週刊誌を出した出版社は今までのガセネタまとめ的なのができて、それで出版社はネットで炎上中です。あと編集者や取締役が暴力団と関係があることが別の週刊誌から流れて警察込みでさらに炎上中です。
「リンさんでしたか!! この度は本当にご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません!!」
私こういうものです。と今更ながらに名刺を渡される。予想通り社長さんでしたね。
「えっ!? リンちゃんなの!? 別人じゃん!!」
大藪さんはわたしの全身を見ながら言う。
声は変えてないんだから、声で気がついてくれればいいのに。今はリンの変装としての姿ですからね。どこか一致する点を作ってるんですよ。
「大藪!! 誰のせいでリンさんが変装しないといけなくなっているか分かってるのか!!」
「あっすみません!! 申し訳ありませんでした!!」
まぁ最初から変装するのが目的なら大したことはないのでいいですけど。リンからまた変えるとなるとちょっと面倒ですが。どのみちメイクはしますからね。
「リンちゃんはこう変装得意な子だから生活には困ってないらしいけど、一応どうして撮られたか教えておこうと思って今日は一緒に来てもらったんだよ」
「別にメールでよかったのに」
ガソリン代だってそんなに安くないんですよ?
*
「リンさんって彼氏いる?」
大藪さんが聞いてきた。気になります?
「俺のせいで彼氏さんと何かあったら・・・」
そこに思い当たるなら、最初からやめておけばいいのに。
「彼氏いる」
「そうそう同棲するぐらいの相手が居るよね」
本当、二人とも仲良くて良いよなぁ。と社長はわたしに茶々を入れてくる。
もう社長仕事モードじゃなくなりましたね。仕事モードなら茶々いれないですし。
「えっ・・・大丈夫でしたか!?」
「大丈夫。全然気にした様子はなかった」
まぁわたしが実は男と知っているからだとは思いますが。あと、遥斗は実は女子ですし、浮気したしてないはネタでしかいわないですよ。
「二人が別れるのは考えられないなぁ・・・」
二人とも趣味一緒だから二人で行って楽しめるでしょ? と言われる。まぁ確かにイベント会場までは一緒に行くけど・・・
「会場だとバラバラのときもある」
いつも一緒ではないです。
「そうなのか!? いつも一緒にいると思ってたんだが!!」
「少しだけ違う推しはある」
特に成人向けはバラバラで買います。読ませてもらうことはあるけどね。
「まぁ仲良くてもプライベートは大事だよな。うん」
はい。親しき仲にも礼儀あり・・・って違いますね。一人の時間も大事ですよね。




