【第178話】夏休み~二日目~
「鈴木君ってリンさんなの!?」
寝起きドッキリを仕掛けてきた登坂さんと大崎さんに素顔を見られて問い詰められる。
えぇーっと・・・
「その顔はリンさんだよね!?」
ね!! と大崎さんが俺に詰め寄ってくる。
「素顔リンさんってどういうこと!?」
登坂さんは混乱している。
「あーあ、素顔見られちゃったんだ」
横のベッドで寝ていた遥さんが起きて、今の状況を察したのか俺の肩をぽんぽんと叩いてくる。
これはもう教えたほうがいいのでしょうかね・・・
*
「まじで、リンさんも鈴木君だったんだ・・・」
眼鏡をかけていない素顔と声だけで、二人はわたしがリンだと認識した。今回はリンのウィッグは持ってきてないから里奈用の茶髪ウィッグだけど。
「鈴木君いくつ顔あるの?」
「んー、大崎さん達に会ったことあるのはそれで最後かなぁ・・・」
というかそれ以外の姿って何かあったっけ?
時々その場限りの格好することがたまにあるから、いくつ姿あるかわからないんですよね。
「というかリンさんが鈴木君ってことは・・・」
登坂さんが遥さんの方を向く。
「遥斗さんってもしかして・・・」
「私~」
にしし。と遥さんはしてやったりといった感じで答える。まぁ遥さんはリスク低いですからねぇ・・・女装と男装じゃ男装のほうがリスクは低いですし・・・
「ってことは、あの本は飯島さんが描いてるってこと?」
「そだよー」
本当に!? と登坂さんは目をキラキラとさせる。え? どうして?
「新刊の確保お願いしますっ!!」
「あ、うん。いいよ」
ただの新刊の融通をしてもらいたいという依頼だった。
*
「リンさんが鈴木君ってことは・・・もしかして私のお父様の会社のことも・・・」
大崎さんが、ふと気がついたように聞いてきた。
まぁわたし達勝手に大崎さんのお父さんの会社のことは知ってただけで、大崎さんからは教えてもらってないですからね。
「あーうん。最初から知ってたよ」
「私隠す必要なかった・・・?」
「というかさ、別に隠す必要なくない?」
「小中高でちょっと色々あってね・・・」
と大崎さんが目をそらす。何かあったんだろうか?
「工場のお膝元の街の学校だったから結構な人数の親が工場に勤めてて、社長の娘ってことで色々ね」
大崎さんの代わりに登坂さんが教えてくれた。
有名企業の社長の娘とバレてたら色々忖度されてきたんだろうか。
「お願い!! 黙ってて!!」
「それはこっちも言えることなんだけど・・・」
むしろ、わたしのほうがバレたら困るんですけど。
「私も秘密にしておくからお願い!!」
「こっちも秘密にしてね?」
*
「ところでさ、里奈さんってどれが素の性格なの?」
鈴木くんも、里奈さんも悠里さんもリンさんも全然性格違うよね? と聞かれる。自分でもそれぞれでよくそこまでキャラがかわるなぁってのは感じてる。
「一応、佑樹が素だよね?」
一応って言ってる感じ遥さん半信半疑ですよね。
「ちゃんと男が素だからね。性格は作ってるから」
「作ってるって・・・作ってるふうじゃないんだけど・・・もう二重人格どころじゃないよね」
よく言われるから、何も言い返しませんがね・・・気持ちの持ちようでそれぞれの演技は出来ますし。
*
「わぁっおいしそう!!」
炭火を用意してバーベキューコンロでお肉を焼く。
遥さんが目の前で焼ける肉を見ながら目を輝かせる。
「大崎さん提供で結構いいお肉だからね」
いつももそんなに高いお肉は使ってないからね。節約しているわけじゃないけど、ちょっと高いお肉には手が伸びないんですよね。
「遥さんも焼く?」
焼くぐらいなら遥さんもできるようになったよね?
「いや、焼いて? 絶対私がやるよりいい感じに焼いてくれるし」
私レアねー。と遥さんは箸を手に待っている。
あっはい。変わってくれないんですね。まぁいいですけど。
「里奈さーん。私のもー」
「はいはい」
大崎さん提供のお肉ですからね。焼きますよ。
*
わたし達がココに来る途中で買ってきておいた手持ち花火を別荘の庭でする。
ちゃんと消火用のバケツは用意してる。
「あー、落ち着くわー」
登坂さんが線香花火を手につぶやく。
「ほんとほんと。なんか今日一杯驚かされたよね」
まさか私と鈴木君大学の前にあってるだなんて思いもしなかったよ。と大崎さんも線香花火の火花を見ながら言う。
「ほんと二人共びっくり箱みたいに色々あるよね」
他にもなにか私達に関係することなにか隠してたりしてない? と登坂さんに聞かれたけど・・・
「なにかあったっけ?」
「んー、ないんじゃない?」
二人に関係するようなことはもうないと思うけど?




