【第171話】VR
「社長。これなに? 間違えてない?」
わたしは社長から送られてきたダンボールを開けてみると、ヘッドマウントディスプレイが入っていたから社長に直接電話をかけて確認を取る。少し興味があって調べたことがあったけど、そう事前連絡もなく送ってくるものでもないし、確か売り切れ続出というのも聞いた覚えがある。
『今度の麻美のネット生放送で使おうと思ってね。リンちゃんもよろしくね』
「まじ?」
Vチューバーやるの? 少し興味はあるけどさ。わたし技術系の人しか見てないですよ。
*
「はーい。今日はVRでやるよー」
姉さんのライブのバーチャル空間にアクセスして画面に映らないところで待機する。ちょっと配信前に色々試してみたけど楽しかった。姉さんと二人でキャラを変えながらアニメの再現とかね。
姉さんはそのアニメのキャラのままやってますけどね。わたしはもですけど。
うちの事務所で作っているアニメのキャラでやって、アニメの宣伝兼ねてますけどね。前から声だけとか姉さんのみの映像とかでネット生放送はしていたけど、VRは初。これで頑張ればアニメ作れそう。
「今日のゲストは!! いつもどおりでーす」
「いつもどおりって何ですか!!」
打ち合わせどおり画面の外から映る位置に移動する。
「だって悠里はもうレギュラーじゃん」
「まぁ結構な頻度で出てますけど、レギュラーじゃないと・・・」
「皆さんどっちだと思いますか?」
姉さんが視聴者へ問いかける。
コメントが流れる。レギュラーとか準レギュラーとか書かれてる。え? わたしレギュラーじゃないと思うんですけど。
「諦めよ?」
「えぇー」
「はい。悠里はレギュラーということでけってーい!!」
むぅ・・・
*
「これね!! これね!! すごくてね!! 悠里アバター変えて?」
「りょーかい」
メニューを操作して、先に取り込んでおいた今放送しているアニメの宣伝も兼ねてそのアニメのアバターに変える。もちろん声も。
「おぉぉぉぉ!! そこにいる!!」
「どやぁー」
白衣を着ているキャラだから振り回してみる。ちゃんと部屋は片付けたから大丈夫。
「そんなキャラじゃない!!」
「知ってる」
もっと落ち着いた感じのキャラですからねぇーこれから演じますよ。
*
「んじゃっ機能としてあるし、凸待ちしよっか!!」
「台本にないけど?」
というか元々台本という台本はなかったんですけどね!! というか打ち合わせもしてなかったんですけどいいの?
「社長いいですよね?」
「おっけ、おっけーやっちゃって」
「社長!?」
姉さんの方のマイクから社長の声が聞こえてきた。というか社長そこにいるんですか!?
コメントも社長!?と流れてくる。わたしもそこにいるのは予想外だった。
「社長の許可も出たしやっちゃうよー。来れる人おいで~」
ポチッとなと姉さんがメニューを操作したのかすぐに別のアバターが入ってくる。わたしそういうの初めてなんですけど。
「どうもこんばんは!!」
「はい。こんばんは!! まずお名前聞かせてもらってもいいですか」
「カンナです!! よろしくおねがいします!!」
んん? わたしこの声聞き覚えあるんですけど。
何してるんですか木村君・・・その声、わたしの教えた女声ですよね。ヘッドマウントディスプレイって結構するんですけど、持ってたんですね。
「声的に女性? ごめん。悠里みたいな例もあるから声で判断できないんだった」
ごめんごめん。と姉さんはわたしの肩を叩きながら言う。
「どうせ。わたしは声で性別わかってもらえないですよー」
一人称もバラバラにしてるからもっとわかりにくいと思いますけど。一応男の娘とは公言してますけどね。
「えぇーっと、ご想像におまかせします」
「おぉーどっちだったとしても可愛らしい声!! どう声優にならない?」
「えっ!? 私なんか無理です!!」
んー、まぁ演劇やってるから演技力はあるからできそうですよね。
*
「ふぅ・・・」
「お疲れ様」
放送が終わってヘッドマウントディスプレイを外すと遥さんがお水を渡してくれる。わたしはその水を受け取って喉を潤す。
「ありがと」
本当なんで今日はわざわざVRでやったんだろう。確かに色々なキャラのアバターを変えて声変えて演じれるっていうのは中々に面白かったけど。
「あの乱入者って木村君だよね?」
「ん」
乱入に来るのは良いけど、まさかの木村君っていうね。しかも女声の。もしかして腕試し中ですかね?




