【第17話】アイドル1
「あっ、取れた」
俺の家で遥さんとだらだらしていると、スマホを見ていた遥さんが声をあげた。
「何が取れた?」
「パロメロのライブチケット!!」
やっと取れたぁーとスマホを手ににやにやとする遥さん。
パロメロってどういった感じのだったかなぁ。パロディメロディーというのが正式名称だったはず。
確か大学生と高校生の女性二人組のグループで、名前のわりにパロディーネタはなくて正統派アイドルと言えるグループだ。この前地下アイドル特集でテレビに出ていた。
「というわけで行こう!!」
「はい?」
「ペアチケ取れたから行こう!!」
おーけー。お付き合いしますよー。
*
「みんなー今日は来てくれてありがとー!!」
おぉ。可愛い。
ステージの上に立つ二人組のパロメロを見て、ライブイベントの癖で持ってきていたサイリウムを振っておく。
周りにも同じようにサイリウムを振っている人がいる。というか横にいる遥斗が思い切り振っている。
ショートとロングの髪で目は大きく二人共顔が小さくて可愛い。おそろいの制服風の衣装に身を包み、スカートから覗く足は白くほっそりとしている。身長はあまりないが、バランスで言えば相当整っている方だろう。あと身長があればモデルでも全然いけそう。
「今日の一曲目いっくよー!!」
アップテンポな曲が始まり、二人が歌い出すと周りが沸いた。沸く気持ちも分かる。
歌も踊りも上手いし、声だって透き通るようによく通る。
声優ライブは行くけど出ている声優が知り合いということもあって、中々テンションが上がらないけど、パロメロのライブは結構テンションあがる。
高いテンションの二人が場を引き上げていくのが感じ取れる。
「リン楽しそうだな」
「ん」
遥斗にサムズアップ!!結構楽しい!!
「頑張って取っただけあるわー」
遥斗も楽しそうにコールしたりしている。
これはこれは・・・物販でCDまだ売ってるかな?
*
「リンちゃん。こんなところで会うなんて珍しい!!」
なんで物販の傍にあった関係者入り口から姉さんが出てくるんですかね。
急に出てきたそこそこの有名人に物販の一部の人が止まっちゃったじゃないですか。
遥斗もいい加減声優にあった時に取り乱すか、固まるかやめない?いずれ貴女の義姉になるかもしれないんですが。
「なぜここに?」
「えーとねーパロメロのナギサ、あーとリンに言っても分からないか。大学生の方が私の同級生でね」
今日は進行のお手伝い。とさっきまで会場でスピーカーを通して聞いていた声を思い出す。
確かに姉さんの声だった気がする。
「えっ!?お姉さんナギサさんと友達なんですか!?」
急に現れた姉さんを見て固まっていた遥斗が復活した。
「そ。同じ芸能界に片足突っ込んでる者同士仲良くやってるよー」
舞台が全く違うから蹴落とし合いとは無縁だしねー。と姉さんがほんわかと言って、「あっ」と声を出した。
「ちょうどいいや、リンおいで」
「へ?」
「遥斗君もおいで」
「な、何でしょうか?」
「まーまー」
と姉さんはわたしと遥斗の肩を押しながら、関係者入り口に引き返した。
*
「なんか最近遭遇率高い気がする」
わたしは姉さんに押されるように連れてこられたパロメロの楽屋で目をぐりぐりと押さえた。
「あはは。確かに多いかもしれないな」
遥斗も隣で頭を押さえていた。
「え、えっと、鈴木さん?」
ロングの髪の子が姉さんに向かって聞いている。まぁわたしまだ名乗ってないですし。
ロングの髪の子の声はさっきのステージの声そのままだ。
「この子、リンって言うんだけど、多声類でね。アカネちゃんも色々な声出せるようになりたいって言ってたでしょ?覚えてみない?」
アカネと呼ばれたロングの髪の子がわたしを見てくる。
えっと、どういう状況ですか姉様?
「麻美。そっちのリンちゃんが戸惑ってるけど」
ショートの子が多分姉さんの同級生なんだろう。気さくな感じで姉さんに聞いてくれた。
こっちの声は女子のローテンションの声だ。一応観客だったわたしたちを前にして一気に普通のテンションまで下げるとはアイドルはそれでいいんだろうか。
「あー、何も説明してなかったわね。
アカネちゃん男の子、声切り替え一つしか出来ない。別の声仕込むOK?」
「おけ」
大体把握。
ステージの上では堂々としていた上に光でごまかされていたけど、楽屋のような普通の蛍光灯のところで見ると、このアカネちゃん?くん?は所々男だと判断出来る材料があるのが分かる。あと気を抜いているのか動作も荒っぽい。
「ちょっ、鈴木さん!?」
「どうせこの子にはバレてるわ。この子女装鑑定士だから」
「そんな資格ない」
姉さんに喋らせてたら変なことまで喋られそうだ。
「あながち間違ってないと思うけど・・・」
遥斗まで・・・確かに女装した人はだいたい見分けられるけど、本当に化ける人だったら分からない。
リンだってまだ妥協してる部分があるし。
「へ?」
「楽屋入った時に遭遇率とか言ってたのは女装した人の遭遇率」
「あの時からっ!?」
あっ、多分地声に戻った。地声もハスキーだ。
「でもステージでは気が付かなかった」
本当にステージでは見事に騙された。
「で、リンはアカネに声教えてくれる?」
「おーけー」
こっちも地声といこうか。
どうせ地声だと信じられないし。今までの経験的に!!
「「えっ!?」」




