【第153話】年明け
「うわっびびったぁぁぁ」
マンションから出てお寺の方へ向かう道にインターホンのモニタで見た鶴丘さんが張っていたけど、ちらりとこっちを見ただけですぐに視線は外されましたね。先生がバレるかもというので恐る恐るというのを後ろを押しながら通過しました。
「ばれない」
相当先生変わってますからね。堂々としていた方がばれないものですよ。
「流石は女子に交じる男子・・・説得力が違うわ」
確かによく女子に混じってますけど、わたし男の姿で女子に混じっているわけではないですからね。そこは間違えないように。
「そういやなんでリンの姿なの?」
防寒着に身を包んだ遥さんがわたしに聞いてくる。わたしもしっかりダウンは着てますけどね。寒いので。
「着替えるタイミング逃した」
えぇ、先生が来るという予想外の事と、先生のメイクで着替えるタイミング逃しました。別にどっちでもいいんですけど。
むしろ男性一人と女性二人より、女性三人のほうが見栄えがいいじゃないですか。
「まぁリンがいいならいいんだけど」
はい。別にいいです。どっちも自分なので。
*
――ゴーンゴーン
除夜の鐘が鳴らされていく。今はまだ年は越していない時間。確か年越し前までに百七回鳴らすんでしたっけ? で、年明けてから一回鳴らすのだったと記憶してます。
「あー浄化されていくー」
・・・先生。煩悩は払うのであって浄化されるわけでは・・・いや、まぁいいです。わたしも詳しいわけじゃないですし、諸説あるようなので。
「あっ、でも先生の煩悩全部払われたら本描けなくなりますよ」
先生の描く本はあれなんで・・・と遥さんが言葉を濁しつつ先生は煩悩払わない方がと言う。まぁ先生の描く本の内容を公衆の面前では言えないですからね。教師以前にR18の同人誌を描いているとは、公衆の面前では言えないですよね。
「描けなくなるのは困る!!」
まぁここで煩悩払っても正月中には煩悩まみれになるんじゃないですかね。
「「「30、29、28」」」
年越しカウントダウンが始まる。30秒前からなんですね。わたしの腕時計も大体カウントダウンとあってる。電波時計じゃないので微妙にずれがあるんですよね。たまに合わせていますけど。安物なので。
「「「10、9、8、」」」
いよいよですね。
「リン飛ぼ!!」
「はい!?」
今更女子高生っぽいことするんですか!? いや、年越しでジャンプするのは小学生でしたね。
「「「3、2、1」」」
「はい!! ジャンプ!!」
飛びますけど!! 意味は特に無いですよね!? 遥さんがわたしの手を握ってせーのっとジャンプして、わたしもジャンプする。ほんの少し遥さんとはタイミングがずれたけど。
「「「ゼロっ!!」」」
「「「あけましておめでとぉー」」」
これで年が変わる時に地球上にいなかったとかいうやつですよね。実はわたし今までそういうのやったことないんですよね。基本的にカウントダウンのテレビ見ながらコタツでみかん食べてました。
*
「あ、やば」
お参りしてわたし達の家に帰っている途中に先生が声を上げた。わたし達朝からイベント行ってて徹夜する元気はもう残ってないので早く帰りたいんですけど。
「鶴丘の奴まだいる」
「ばれないから帰る」
わたしは早く帰りたい。というかあの鶴丘って人、電柱に隠れてるんですかね? 何人かわたし達を同じ方面の人が鶴丘という人を見てひそひそと話している。まぁこの辺り家族用のマンションとか戸建てがあるので、不審者がいると不安ですよね。視線はわたし達の住むマンションに向かってますね。何も知らない人からみると完全に不審者ですよね。
あれ? あれってパトカーですか? 赤色灯は光っていませんけど、あの特徴的なシルエットはパトカーですね。不審者がいるとでも通報がありましたか?
「あっ」
職質された。
「今のうちに家に入ろう」
こっちに向いていないうちにね。バレていないとは思いますがね。
*
――ピンポーン
メイクとか落として寝て少し遅めに起きてから、少量のおせちを用意しているとインターホンがなった。
前みたいに俺と遥さんは一緒に寝ていない。先生がコタツで寝たからな。一応ベッドは勧めたけど、コタツで良いって言ったからな。
「はーい」
『おけおめー』
ん? 早乙女さんだ。実家には年明けてから帰るって言ってたっけ。お年玉貰いに帰るのさ!!と言ってた。そういや俺はお年玉貰ってないな。十分すぎるほど給料もらってるのも有るし。鍵を開けて早乙女さんには入ってきてもらう。
「外寒いわー」
でしょうね・・・今まで家から外を見てないので気が付かなかったけど薄く雪が積もってる。
「うわっ、何で先生?」
リビングに移動した早乙女さんがコタツで寝ている先生を見つけたようだ。
「なんか実家から逃げてきたみたい」
親に強制されたお見合いから逃げたんだってさと、まだ寝ている先生の横でSNSを確認していた遥さんが答えている。とりあえず、昨日の頒布した本の評価は上々らしい。
「先に相手紹介して親を黙らせればいいじゃん」
別にその相手と付き合っている必要ないし、誰かに手伝ってもらえば? と寝ているはずの先生に早乙女さんが言うと、
「その手があったか!!」
先生起きてたんですか?




