【第150話】冬の祭典2
「リンちゃん。準備できた?」
わたしがブースの奥でメイクと着替えをしていると伊佐美さんから声がかかった。
「もう少し」
まだわたしこのブースに入ってから10分も経ってないですよ。わたしのメイク時間短いと言っても悠里用のメイクはほんの少し時間かかるんですから。慣れてないので。
今日はというか一日目は事務所の方のブースで売り子の予定です。遥斗はオリジナルなので三日目になります。
着替えとメイクが終わってブースの奥に用意されたスペースから出ると、わたしと同じような衣装に身を包んだ伊佐美さんがじろじろとわたしのほうを見てくる。今日はですね・・・
「リンちゃんコスプレ初めてやったっけ?」
「初めて」
はい。コスプレなんです。前にアテレコしたアイドルアニメのキャラのコスプレです。今までコスプレはやらない主義と言ってましたが、気がつけば両親がOKを出して押し付けてきました。まぁ露出があるタイプのキャラじゃないだけましですけど。仕方ないのでコスプレでアルバイトです。
「結構似合ってるで」
「ありがとう」
褒められて悪い気はしませんね。
「で、今日は何する?」
「売り子やね。別に売れんでもバイト代は出るで」
まぁその辺りは特に気にはしていませんが。
「リン、可愛い!! 普段もこういう格好したら良いのに!!」
今日のコスプレをすることになった元凶(姉さん)がわたしに抱きついてきた。
「わたしの素でこういう格好しろと?」
「そうそう!! それで大学行けば注目の的ね!!」
・・・それはどっちの格好のことを言ってるんですかね。大学ということは男の格好ということですか?
そもそも・・・
「注目されるつもりはない」
目立つのは悠里の格好だけでいいです。悠里は一応こういった場面で表に出るための恰好なので少々目立つのは構いませんが。
「えー目立ってモテそうなのに」
「麻美、リンちゃん彼氏おるんやけん。モテんでもええやん」
「そういやそうか」
それで納得しちゃうんですか。
*
「悠里さん!! セット一つお願いします!!」
「はい。セット一つー二千円になります」
眼の前の男性から千円札を二枚受け取って、紙袋入りのセットを渡す。
「あじゃしたー」
「こらっ」
ちょっと遊んでみたら隣りにいた姉さんに小突かれた。いいじゃないですか。ちょっとぐらい茶目っ気だしても。
そんなことをしながらもずらりとうちの企業ブースに並んだ列を眺めつつ・・・
「長い・・・」
うちの列どこまで並んでるんですか? 最後尾はどこに有るんでしょうか・・・ただ皆さん本当にきれいに並んでますよね。いつものことですけど。
「今回はいつにもまして多い気がするわ」
いつもはわたしこっちにいないので比較できないんですけど。
「多分悠里がいるからよねー」
「なんで?」
「だって、悠里がここに出てくるの初めてでしょ?」
結構知名度あるのに、表に出てこないし。と姉さんに言われても、最近はわたし結構出てると思うんですけど。
「ほとんど顔出ししないじゃん」
「声優は声勝負」
顔出さなくたっていいじゃないですか。
「これだから、声全振りは・・・」
「悠里ちゃん声だけじゃないですよ!! 絵師だってやってますよ!!」
むしろ私はSNSに上げる絵から入った人です!! と購入してくれた人から声が上がる。わたしのSNSのフォロワーでしたか。
「ありがとうございます。そういえば、このグッズの一つって僕が描いた絵から起こされたやつもあったような・・・」
「あー、そういやラバーストラップがそうだっけ?」
頼まれて一枚絵を描いて渡したら、サンプルとしてラバーストラップが送られてきたんですよね。
まじですか!? とさっきわたしのSNSのフォロワー宣言した人がガサガサと袋を開けてあさり始める。まぁちゃんと邪魔にならないように横にずれてからですけど。
「他にも公式で同人誌が入ってたり」
「あー、うちの原画班が盛り上がって作ってたやつね」
「企業ブースなのに個人サークルみたいなラインナップなきがするのは気の所為?」
「さぁ? 社長もコスプレしにいってるし、ゆるくていいんじゃない?」
それに、似たり寄ったりだと面白くないじゃん? と姉さんは次々と人を捌きながらわたしの言葉に返してくれる。
意外とイベントに出てくる公式って個性的な気もしますけどねぇ・・・
*
「1セットください!! あと悠里さん!!握手お願いします!!」
ん? 知り合いが来た。
「彩芽、テンションがおかしいよ」
「あはは」
登坂さんに大崎さん、遥さんだ。この長い列並んだのか。言ってくれれば後から渡すんですけどね。今回については遥さんは事務所から1セット貰ってますから確保してないんですよね。登坂さんと握手して、紙袋を手渡しする。
「応援してます!!」
「ありがとうございます」
早く他のところ行かないとなくなっちゃいますよ?




