【第15話】オシゴト2
「はい。皆さんこんにちわー!!」
伊佐美さんが司会として場を盛り上げる。
SNSを見てたらトレンドに上がっていた。内容をみてみると『謎に包まれた声優悠里が出演』等とあった。なんでわたしがメインやねん。
あの時着せられたゴスロリにロングの黒髪のウィッグをツインテールにして舞台袖までは来た。
メイクは姉に言われたように少しだけ男っぽくメイクを・・・いや、わたし男ですし、メイクでわざわざ男っぽくする必要はないのでは?
「リンちゃん行くよー」
なんで姉さんは平気なんですか!!あんなに人がいる前に出れるんですかぁぁぁ!!
引きずられるようにステージに出ると客席がわいた。「可愛い!!」という声があがる。
わたしじゃないよね。ね。今日は可愛いメイクしてないし!!
「今ステージに現れたのは皆さんもご存知、鈴木麻美さん!!この前は私のラジオに出てくれてありがとー!!」
「呼んでくれてありがとねー!!」
なんで姉さんは慣れてるんですか。
「で、今麻美に引きずられているのが、皆が待っていた!!悠里ちゃんだ!!」
わぁぁぁぁと会場がさっきの入場よりもわいた。
うぐっこのまま引きずられているのも癪だ。
少しいつもより荒い動きで自分の足でしっかり立つ。もうここまで出されたら腹をくくるしかない。
「どうも悠里です!!今日は楽しんでいけよな!!」
前半はアニメ内の女性の声、後半は同じくアニメ内の男性の声だ。
どちらも地声でないし、リンの声ではない。その声の移り変わりに会場は一瞬静かになり、わっとわいた。
どうやらわたしが悠里というのが半信半疑で、声の移り変わりで確信に至ったらしい。
会場を見渡してみると、遥斗がいた。ただそれ以外の人は・・・多すぎて知り合いがいるか確認できなかった。
「はーい。じゃあ今日の公開収録メンバーも揃った事だし収録始めようか!!」
といっても一応ここでも収録はするが、観客の音が入る可能性があるから、入っていた場合は、スタジオで撮り直しだけど。
*
特に何もなく収録が終わった。
思えばここに来る人たちは、アニメが好きな人だ。声優が好きな人だ。邪魔は自分からはしないだろう。
今日のわたしの収録キャラは4キャラ。男女の警備員と子供。何気に今のアニメの最終回で回想で出てくる重要なモブだ。
「では、事前に書いてもらったアンケートをここにいる私達で回答していこうと思います!!
あっ、でもネタバレはしないからねっ!!」
そういいながら、スタッフから伊佐美さんが箱を受け取る。
「じゃあ、適当にいきましょうか!!」
一発目はこれだっ!!と伊佐美さんが箱から取り出したのは一枚の二つ折りにされた紙だ。
事前アンケートはインターネットの特設サイトでしていたやつとこの会場で先着で出来ている。
どのくらい入っているんだろうか。多分全部は入ってないはず。
「おぉ!!初っ端から悠里ちゃんへの質問だぁ!!」
まじですか。
「悠里さんへお聞きします。性別はどちらですか?とのことですっ!!両声類にはよく聞かれる質問ですねっ!!」
でも、もう見た目で分かるんじゃないかなーと伊佐美さんが言ったところで、会場から悠里ちゃん可愛い!!と声が上がる。
「見た目の通りじょせ「男の娘です。男に娘で」、へっ!?」
この質問が来ることは分かっていた。
事前ネットアンケートの2割がこの質問だったから、既に伊佐美さんとは打ち合わせ済みだ。
女性と思わせておいてからの男の娘発言で混乱させる。
なぜ女性といいかけたところで客席は納得しようとしたんですかね。今日は男っぽいところを強調しつつのメイクのはずなんですけど。
「男の娘・・・?冗談ですよね?」
「さぁ、どうでしょうか?」
地声とも違う、アニメでも使ったことのない男声で返答。観客席も混乱中だ。
「僕の性別なんてどっちでもいいじゃないですか。設定男の娘ってことで」
今度は女声で。もちろんリンの声は使わない。あえて口調と声色はバラバラだ。
「え、えーと、悠里ちゃんの性別は悠里ってことで、次の質問行きたいと思いますっ!!」
ちょっ、伊佐美さん!?それ打ち合わせと違うんですけどっ!?
わたしの目線での抗議は無視された。
いいですけど!!いいですけど!!打ち合わせと違うことしないでもらえますかっ!?こっちが焦ります!!
答えた人が次引く段取りだったのでわたしがアンケートを引いて読み上げる。
「恋人は居ますか?これは誰に当てた内容でしょうか?」
宛先欄には誰の名前も無い。
「ちなみに僕は恋人いるんで!!」
最初から隠さない。後からこじれたくないからさっさと暴露するに限る。
「この中で恋人がいる人挙手!!」
まぁ誰もあげないっ!?姉さん!?なんで姉さんあげてるんですか!?相手いるんですかっ!?
「えーと、今日ここにいるのはわたしと麻美さんだけっぽいですね。なんで伊佐美さん爪噛んでるんですか」
「だって悔しいし。うちも彼氏ほしー」
「愚痴は楽屋で聞くんで今は抑えてください」
そこで会場から笑い声があがる。楽しんでもらって何よりです。
「では、次は麻美さんですねー。どぞー」
その後もいくつかわたし宛の質問が色々出てきたが、口調と声は一切固定せずに当たり障りないように答えていく。
口調と声を固定しないのは、どれが素かわからないようにするためだ。その中に俺の声とリンの声は絶対に織り交ぜない。声を変えるたびに客席からおぉっと声が漏れる。
こうして最後にわたしがアンケートを引いて・・・
「伊佐美さん宛ですね。んー東京都在住の30代男性から。
ゴホンッ『伊佐美さん!!付き合ってください!!』とのことです。」
あえてイケメンボイスに変えて、伊佐美さんに伝えておく。というかこの筆跡どっかで見たことある。
ツーと目線をずらして舞台袖を見るとそこにはスーツ姿の男性が目に入ってきた。あの人は伊佐美さんのマネージャーさんだ。祈るように手を握っているが・・・
「えっ!?で、でもゴメンナサイ。今はお仕事で一杯で・・・」
あーあー、マネージャーさん肩落として意気消沈しちゃったよ。
ここ数話、ためしに段落を意識して書いてみましたが戻します。数話も元の書き方に戻しています。
個人的に短い文でスクロールしていくのが好きなので…




