【第149話】冬の祭典
「んー」
遥さんがリビングで机に紙を広げて何かを考えている。
「どうした?」
「いやね。ラストのコンテが中々しっくりこなくて作り直してるの」
でも、そろそろラスト描かないと入稿間に合わないし・・・と、遥さんは原稿用紙に鉛筆で色々と書き込んでいっている。
遥さんがここまで悩むのは久しぶりな気がする。
「んー、この二人の葛藤を描きたいんだけど、物足りない」
「どれどれ」
俺も今まで描いてきた原稿は見させてもらっているが・・・んー俺としては、これで問題ないと思うんだけど。
「なんかもう一声ほしいんだよね」
パンチが弱いっていうか。と遥さんは目頭を抑える。んー。俺は分かんねぇや。
――ピンポーン
インターフォンが鳴った。モニターを見てみると大崎さんと登坂さんが映っている。あれ? 今日来る予定あったっけ?
「入れても良い?」
「ちょっと待って」
机の上に広げていた原稿用紙を遥さんが片付ける。あの二人には遥さんが同人誌を描いていることはまだバレてないからな。
「オッケー。それにしてもどうしたんだろ?」
「さぁ」
本当に急にどうしたんだろうか。
*
「急にごめんね」
「うん。それはいいけど急にどうしたの?」
遥さんが聞くと、登坂さんがリビングの本棚に入れてある共有している同人誌を指さして。
「飯島さん達ってこういった本があるから冬のイベント行っていったこと有るよね?」
「ん? まぁあるよ」
「私達冬のイベントは初めてだから一緒に行ってくれないかなーって」
私達いつも年末年始は家の用事で忙しくて行けてないの。と登坂さん。まぁ登坂さんはいまいちわかりませんが、大崎さんは年末年始は色々ありそうですよねぇ・・・
「今年は?」
「今年は正月だけ帰ればいいから、年末のあのイベントに行けるの!!」
ものすごく楽しみといった感じで登坂さんが言ってくる。言葉には表してないが、大崎さんも楽しみといった雰囲気を隠せてない。何? 大崎さんもヲタ業界にきたの?
「『ブレンド』の新刊出るらしいので楽しみなんです!! あそこの本は面白いので!!」
遥斗が遥さんだとしらない登坂さんからの素直な称賛に遥さんがポリポリと頬をかく。きっと嬉しいんだろう。忖度なしの素直な感想だからな。
「あー、声かけてくれたことは嬉しいんだけど、もう先約があって・・・」
サークル参加してるからなぁ・・・
「そっか。ごめんね急に」
「というか俺達誘わなくても行くだろ?」
「まぁ、そうなんだけどね。はじめての冬だし、経験者が居てくれたらいいなーって思っただけだし」
*
「鈴木君これ読んでもいい?」
本棚に入れてあった『ブレンド』の同人誌を指さして聞いてきた。
「どうぞ」
その棚にあるのは、部屋に来た人に見られても問題ないものばかりだし。BLとか年齢制限かかっているのはそれぞれの部屋に隠してる。まぁ両方共隠し場所知ってるけど。というか二人で隠し場所の加工をしたし。
「これって『ブレンド』が今まで出している本の全部揃ってる感じ?」
「どうだっけ?」
少なくとも俺と遥さんが付き合い始めてからの同人誌は全部あるはずだけど。
「まぁ9割方あるんじゃないかな」
遥さんが言うならほとんどあるかな。
「読ませて読ませて!!」
「その辺りにあるの自由に読んでいいよ」
「やった!!」
大崎さんが遥斗の描いた同人誌を読み始めた。
「ん? これって無配じゃない?」
大崎さんが本棚にあった一冊を手に聞いてきた。ちなみに無配とは無料配布のことだ。時々一度描いたけどやっぱり違うネームの方がいいとなってボツになったものを無配として配ることがある。
「無配だね」
「結構無配持ってない?」
今更だけどここ宝の山じゃん!! と登坂さんが本棚を見て盛り上がる。まぁね。サークル参加していたら、他のサークルの参加者と交換したりして色々揃っているとは思う。
「理想郷はここにあったんだ!!」
あっ、これ前の冬限定の無配にペーパーじゃん!!と一人で登坂さんが盛り上がっている。
「理想郷って言いすぎじゃないかなぁ」
「いやいや、二人のことだからまだまだ持ってるんでしょ?」
「何でそう思うの?」
「だってここにR18とかないし。別のところにあるんでしょ?」
なぜそれを・・・
「ここまで揃えててR18が無いはずがない!!」




