【第148話】ドッペルゲンガー作戦
『リンさん助けてください!!』
珍しくアカネちゃんから電話がかかってきたと思ったら開口一番でヘルプの要請が来た。
「どうした?」
一応リン用のスマホにかかってきているからリンの声で応対する。まだかまだかと横で遥さんが一緒に対戦していた格ゲーの一時停止をパチパチと解除と停止を繰り返してたりするけど、一先ずは無視。後もう少しで俺のHPが全て消し飛ぶところだった。一時停止からのコマンド打ち込んで間に合うかな。
『楽屋にファンが入ってきて、メイクしてる途中で見られました』
「ん? まだバレてない?」
大崎さんが言うにはSNSで男かもと上がってたと聞いたんだけど。
『はい。でもSNSで、男じゃないかって出回ってしまって・・・』
「ん。それで?」
『週刊誌にすっぱ抜かれる前に手を打っておきたいと思いまして』
わたしに何をしてもらいたいのでしょうか?
『一緒にいるのを見せてあげればいいんじゃないかなーって』
・・・わたしがアカネ君のマネをするってことでいいのかな?
「声なら自信ある。姿は無理」
姿までそっくりには無理です。声は調整すれば出来るけど。
『はい。なので・・・』
*
「なるほど」
電話で作戦とやらを聞いてみると、アカネちゃんとアカネ君の合成写真を用意して、わたしがアカネ君の声で電話で話すという計画らしい。最近何度かその楽屋に侵入してくる人が来ているらしく、そこで待ち構えるとのこと。先に警察な気もするけどね。アカネちゃんが警察にご厄介になりたくないのは分かってるけど。
『設定はこっちで作るんでお願いします!!』
「ん。分かった」
友達のために一肌脱ぐのは全然構わないので。
「設定決まったらパソコンの方に送って」
『わかりました!! ありがとうございます。設定作ったら送ります!!』
電話が切れる。
「なに? アカネちゃんバレかけなの?」
「そうみたいだな。前大崎さんが言ってたやつっぽい」
「へぇー、私は何かすること有る?」
遥さんがすることなぁ・・・あっ。もしかして・・・
「ちょっと遥さん。メイクしてみていい?」
「?いいけど。その前に、ポーズ解除!!」
「あっ!!」
小パンチで俺のキャラのHPが吹き飛んだ。ぐぬぬ。ここからの挽回のコマンド考えてたのに!!
*
「ほらっ」
俺の部屋で遥さんをメイクしてみた。
「あれ? アカネ君そっくり?」
そう。遥さんをメイクしてみたらアカネ君の顔になった。背丈も似てるし、顔立ちはメイクでどうにかなる。そもそもアカネ君は女顔ですし。髪はウィッグでどうにでもなるから・・・
「これでわざわざ写真合成用意する必要もないかな」
「でも、私アカネ君の声出せないけど」
「あ・・・」
そういえば、そうだった。ドッペルゲンガー作戦は無理か。出来たら完全にその噂を消すことが出来ると思ったんだがな。
あ、でもちょっと練習してもらえれば遥斗の声からアカネ君の声はどうにかなりそう。
*
――カシャ
・・・パロメロの楽屋でリンとしてアカネちゃんと話しているとどこからともなくシャッター音が聞こえてきた。ちなみにナギサさんと遥斗はお手洗いだ。
ちらりと音が聞こえてきた方向を見てみると、ドアをほんの少し開けてあたふたとしている男性が一人。手にはスマホ。それ何かしらアプリ入れないとカメラのシャッター音鳴りますよね。シャッター音鳴るの知りませんでしたか?
遥斗にアカネ君の真似をしてもらうようにメッセージを送っておく。即『了解』と返信が返ってきた。お手洗いでスマホ見てるの?
一応こことは別の部屋に念の為ということで準備はしておいた。もちろんパロメロの関係者はアカネちゃんがアカネ君というのは知っているけど、何気にトップシークレット扱いされているんですよね。本当に誰にも言ってないのか今まで男だと言われたというのもなかったはずですし。ただ単に信じられてないだけかもしれませんが。
わたし達が気がついているのに気がついていないのか、未だに扉に張り付いている。
「あいつ?」
「はい。前もあの人でした」
「どうする?」
「もう少し様子見ます」
「おけ」
というかまずはスタッフに連絡したらどうですかね。警備すり抜けてきているようなので。
「そうですね。連絡してみます」
アカネちゃんがスマホでスタッフの人と連絡を取り合っているのを横目にわたしは悪質なファンを見てみる。まだ扉に張り付いている。
ほんの少し開いているので見えてますよ?
*
「誰だ?」
「うおっ!?」
アカネ君に化けた遥斗が到着した。というか、その察知能力の低さでよくここまで来れましたよね。そうそう遥斗にはアカネ君の声を仕込んでおきました。
「お、お前!?」
「あ? 前ココに来てたやつか」
「え、いや、は!?」
何を混乱してるんですかね?
「なんでお前とアカネちゃんが一緒にいるんだよ!! お前がアカネちゃんじゃねぇのよ!?」
「どこから俺がアカネだと思ったんだ」
あと、お前だな? アカネが男という噂を流したやつは。 と遥斗が男を睨みながらいった。
「お、お前が前にアカネちゃんになるところを見たんだ!!」
「確かに俺はメイクすればアカネに近くはなるが、俺はアカネの従兄妹だぞ?」
遥さんをアカネ君にメイクした後に、アカネちゃんに出来るか試してみたら結構近くなった。流石にそっくりじゃないですけど。
「ま、まじかぁぁぁぁよかったぁぁぁぁ!!」
アカネちゃんが女の子でよかったですね。本当は男の娘ですけど。
「いた!! ここは関係者以外立ち入り禁止です!! 部外者の方はお引取り願います!!」
やっとスタッフの到着ですね。一瞬遥斗を見て止まりましたけど、先にこういったことをするとは連絡してあります。
「すみません!! 少し気になって確かめたかったんです!!」
意外と素直っぽい人だなぁ。スタッフの人に連れて行かれた。
「一件落着?」
「ですかね」
わたしは今回何もしていませんが。




