【第144話】文化祭2
遥さん達と別れて当初の目的地であるメイド喫茶の会場とした教室に帰ってきた。廊下の突き当りに当たる教室が厨房となっていて、その手前の教室が店内となっている。着替えは更衣室でするようになっていて、荷物も更衣室のロッカーに入れることになっている。匂いが付く可能性があるから更衣室に鍵がかけられるロッカーがあってよかった。
『おかえりなさいませ。ご主人様』
ちなみにわたしの言葉じゃない。ホールの方から聞こえる女性の声だ。なかなかに盛況のようだ。ちなみにわたしは厨房の方がメインです。
メイドとして女性陣をメインにホールを回してもらうから男性陣の料理できる人は厨房メインとなってるんですよね。
まぁわたしはこの姿から普通にホールも出てくれと言われましたけどね。チラシ配りも頼まれましたし。でもまぁわたしは男なので!!
「鈴木君。思ったより盛況でホール足りないからおねがいー」
「あ、はーい」
帰ってきた途端普通にホールに出るようにお願いされた。うん。厨房メインというのは何だったのでしょうかね。
*
「あっさっきのお姉ちゃん!!」
丁度教室の中が見えるところで給仕をしていると声をかけられた。
ん? あぁ、チラシ渡した女の子か。ちょっと目尻に涙が溜まってる?
興味を持ってもらえるように一部は中が見えるようカーテンはかけられていないから気が付かれたんだろう。まぁ見られてもいいって人しか案内しない席ですけどね。ほんの少しお安くなってます。
にこりと微笑んでみると、女の子がわぁっと笑顔になる。いやぁ、子供って可愛いですよね。
少し走るように入り口の方から女の子が入ってくる。
「「いらっしゃっせー!!」」
女装メイド共が居酒屋のような来店の挨拶をしている。ここ居酒屋じゃないんですけどね。まぁ文化祭あるあるじゃないですかね?
「ひうっ」
・・・ちょっと小学生の女の子には刺激が強かったですかね。見た目は一応女子にしたんですけど、声は数日ではどうにもなりません。
「ごめんね。うちの男共が」
女の子に視線を合わせながら謝っておく。本当にメイド服で居酒屋ノリは誰得なんだか。お前も男だろという視線が少し来るけどそんなのは無視する。うちの同学部の人にしかわたしが男だとまだバレてないんですから。
「で、どうしたの?」
近くで見て、やっぱり目尻に涙の跡がある。泣いてたのかな? 笑っても涙は出るからどっちで出た涙かわからないんですよね。
両親とはぐれたという予感がわたしにはあるんですけど。チラシ配ってるときに一応近くに親らしき人がいましたし。
「あ、あのね」
うん。ゆっくりで良いよ。
「ママとパパがどっかいっちゃったの」
やっぱり、迷子ですか。
「ママかパパの携帯番号って分かるかな?」
ふるふると首を横に振る。
むぅ・・・鞄も持ってないし、ポケットになにか入っている様子もない。メモも携帯も持ってないかぁ。本部に連れて行くしか無いかな。
「お名前は何て言うのかな?」
「ながと まり」
「まりちゃんか。お姉ちゃんとママとパパ探してくれるところ行こっか?」
ここまで頑張って来たね。と軽く頭をなででおく。
普段の男状態だと何か言われる可能性があるけど、今だったら大丈夫ですよね?
「赤崎ーちょっと本部に連れて行ってくる」
一応今ここでのリーダーとなっている赤崎に声をかけておく。ホールを抜けるわけですからね。
「おー了解・・・お前それで行くのか?」
んー、駄目ですかね? 文化祭ですしメイド服でも問題ないんじゃないですか? チラシ配ってたときもコスプレしてた人居ましたし。
「まぁ文化祭だし大丈夫でしょ?
まりちゃん。はぐれないようにお姉ちゃんと手繋ごっか」
「うん」
小学校1,2年ぐらいかな? 素直で可愛いなぁ。
「じゃ、ちょっと行ってきます」
*
「へぇ、まりちゃんのパパとママって先生なんだ」
「うん!!おじいちゃんも先生なの!!」
教師一家なんですねぇ。
わたしと手を繋いでニコニコと話してくれるまりちゃんの言葉に相槌を打ちながら迷子センターにもなっている本部に向かう。
その間にもメイドさんだ。と視線を向けられる。まぁメイド服を着ている宿命だと思いますので受け止めますが。
「まりちゃんは将来に何になりたいのかな?」
「んーパパには秘密なんだけど、ミーチューバー!!」
おぉう・・・今どきの子ですねぇ。ミーチューバーとは動画サイトの投稿した動画につく広告収入を貰っている人たちのことで、当たれば数億とか言われてますね。ただあれ相当数再生行かないと生活できるほど貰えませんよ。まぁ・・・
「なれるといいね」
子供の頃に夢をもつことは悪いことじゃないですからね。
確かに素行の悪いミーチューバーの噂は聞きますけど、全員が全員そういうわけじゃないのでわたしは否定しませんよ。わたしもエンタメで稼いでいるからというのもありますけど。
「でもね。パパは駄目だって言うの」
「なんで?」
「まりも先生になれーって!!」
あー、教師一家だとそういうのもあるのかなー。って思ったらうちも似たような感じか、両親アニメ業界の人で子どもたちは声優っていうね。
「あと、先生じゃなくてもこうむいん?ってのになれって」
「あー、分からなくもないけど、まだそれをまりちゃんに言うのは早いんじゃないかなー」
本当に、まりちゃんぐらいの年齢の子が夢を持つのは良いことだと思うんですよ。流石に犯罪者が夢だったら止めないといけないですけどね。
*
「真里!! すみません。ありがとうございますっ!!」
本部に連れて行くと丁度まりちゃんのママがいた。
「よかったね。まりちゃん。ママ先に居たみたい」
「うん!!お姉ちゃんありがとう!!」
「どういたしまして」
では、わたしはメイド喫茶にでも戻りますかね。メイド服でちょっとは宣伝になったんじゃないですかね。




