【第14話】オシゴト1
「おはようございます」
「おはよー」
わたしはいつも通りスタジオに入る。
アニメの声を撮って、他の声優の人と控室になっている部屋で話す。
「そういやリンちゃん、あの時の男の子ってどうなったん?」
伊佐美さんが聞いてくる。
他の声優の人も興味津々だ。皆さん、人の恋愛事情好きですね。
「続いてますよ」
えぇ、結構な頻度でデート行ったり、家デートしたりしてます。
どこか遊びに行こうとは思ってもどっちも土日は忙しいから中々行けていないけれど。
平日に中々収録できないから休日は収録と遥斗はイベントで忙しい。
「あの子女装させたら可愛くなりそうじゃない?」
冬の祭典でこちらを見ていたのだろうか、一人の声優の人が聞いてくる。
女装って・・・遥斗は本当は女子なので普段の服装に戻るだけだと思うのですが。
というか、そもそも皆さんわたしが男だって知ってますよね。なんで相手が男と決めつけてるんですか。
「言っておきますが、わたし同性愛者じゃないですから」
「だから相手男でしょ?」
あれ?と伊佐美さん。
姉さんは隅っこの方で笑ってないでわたしが男だって皆さんに説得してください。
「無理無理」
あんたのリンを見てから素を見たら男だと思われないから。と姉から素の男らしさを否定された。
確かに男らしさ無いと思うけど、少しぐらい・・・と、わたしがのの字を書こうかと思ったところで、部屋の扉が開いた。
今日の分の収録は既に終わっており、社長から帰る前に話したいことがあるからと部屋で駄弁っていたのだ。入ってきたのは最近頭部が薄くなり始めた社長だ。
「揃ってる?」
えーと今回アニメに参加してる声優は全員揃っているかと思います。全員いることを確認した社長は話し始めた。
「本アニメが最近バズっているのは皆知っていると思う」
学校でそんなにアニメに詳しくない人たちも知っているぐらいには有名だとは思ってるけど、バズってるかって言われると微妙かと・・・
「そこで人気のあるうちにファンイベントを開催することになった。
皆のスケジュールの空きを教えて欲しい」
脇役のわたしには関係ないですね。
「あっリンちゃんは強制な」
は!?
「今回のバズってる一因のリンちゃんが参加しないのはなしだから!!」
なんで、わたしが一因なんですかっ!?
これだけ人気声優がいるっていうのに脇役のポッと出のわたしなんかが一因になる理由がさっぱりわからないんですけど!?
「リンちゃん今回一人で何役してると思ってる」
「11人」
あまりわたしと絡みの無い声優の人が吹いた。ちょっまじかっという顔をしている。
「それだけクレジットに名前が出れば調べる人が出てきて、全くつかめなくて正体不明ぶりにバズったんだよ」
流石に予想外だったよ。と社長は言うけど、正体不明なら正体不明で表にでなくていいじゃないですかっ!!
「だから今回だけだから、頼む!!」
社長が土下座しかねない勢いで頭を下げた。う、うーん・・・
「一度きりのキャラ作ればいいじゃん。社長ウィッグとか経費で落ちます?」
「落ちる。落ちる。やってくれるなら5万までなら出す!!」
「「了解」」
なんで姉さんと伊佐美さんがわたしのほうに手をわきわきとさせながら近寄ってくるんでしょうか。
わたしの服に二人で手をかけているんでしょうか・・・
えっ、ちょっ、まっ!?
*
「ということがありまして、チケットも貰ったから来る?」
「行く!!」
服を半分まで剥がされて、しぶしぶいつの間にか用意されたゴスロリ服に着替えてロングの黒髪のウィッグに赤フレーム眼鏡の俺と姉さん、伊佐美さんのスリーショット写真を見せながら遥さんをイベントに誘った。
今回は俺が出演者だから一緒に回ることは出来ないが、前伊佐美さんに合わせると言ってから結局合わせられてないからこの際合わせようと思ってチケットを用意した。
ちなみにロングの黒髪ウィッグは伊佐美さんの私物でいつかわたしに被せようと準備していたらしい。イベント当日は経費で落とした少しお高めのウィッグになる。
ゴスロリは・・・姉だった。なんか妙に大きい袋持ってるなぁとは思ってたけど、まさか俺に渡そうと思って持ってきていた物だとは思わなかった。
「当日って何するの?」
「えーと・・・公開収録とアンケート回答かな」
すでに俺宛のアンケートが相当数あるそうです。と俺は肩を落とす。くっそめんどい。
というか完全に『悠里』は女で通すつもりかと思ったら設定は男の娘で!!と言われた。
なんか話題性が欲しいらしい。性別の断言は避けて、設定は男の娘というのがポイントらしい。分からない。
ただ、着替えた後の他の声優の反応的に男の娘と思われるか微妙なところだ。いや、本当に男の子ですけどね。
「で、これがそのチケットであります」
俺は懐から封筒を取り出して遥さんに渡す。
「ほほぅ。これが」
遥さんはチケットを見て、固まった。
「えっ!?これって」
「関係者用のチケットだから楽屋にもいけるよ。
まぁ行くなら俺呼んでくれた方がスムーズかな」
呼ぶときは悠里でね。とあえて声を変えて言っておく。
「ってことはいさみんと!?」
「あぁ。それは問題ない。むしろつれておいでーって言われてるし」
「しゃぁ!!」
遥さんはガッツポーズして喜んだ。喜んでくれて嬉しいよ。




