【第13話】料理を教えてください
「お願いします。料理教えてください」
「は?」
遥さんが俺に向かって頭を下げた。
最近定番となった屋上で、遥さんと柊さん、近藤で昼食を取っていた。
それぞれがバラバラに教室から出て屋上で集まると言った感じになっている。
俺が持ってきたレジャーシートに4人で座りながら話していると俺の弁当を覗き込んだ遥さんがさっきの台詞を言ってきた。
「今度調理実習じゃん?ちょっとでも出来る風を装いたいなぁって思って」
理由が残念ッ!!
教室じゃクラス委員として優等生を演じているが、気を抜くと遥さんは残念だ。
もうここにいる3人にとって所々残念な遥さんは知られれているから、遥さんもほぼ素で相談してきたりしている。
「出来るようにじゃなくて出来る風なんだ…」
自作のサンドイッチを頬張りながら突っ込む柊さん。
「出来る気がしないもんっ!!」
登校途中のコンビニで買ったサンドイッチを頬張る遥さん。
「だいたいさぁ、女だから出来るって思わないでほしいよね」
「いや、男女関係なく出来たほうがいいだろ」
俺は自作してきた弁当を食べる。
「あっ唐揚げ美味しそう」
「はい。あーん」
「あーん」
餌付けのように遥さんの口に梅干しを突っ込む。
「んっ!!からっ、唐揚げじゃないっ!?」
といいつつも梅干しを食べる遥さん。
「さらっとする間接キスに漫才ってもう訳分かんねぇな」
漫才になってたか?なってないと思うんだが。
「はい。あーん」
「あーん」
今度はちゃんと唐揚げを突っ込んでおく。
「まぁ教えるのは良いとしてどこで?」
「梨花も会いたがってたしうちで!!」
「了解」
どっちの服装かはまた近藤達が居ない時に相談するか。
*
――ピンポーン
インターフォンを押して待つ。結局今日はリンの姿での料理教室となった。
理由は「彼氏に教えてもらうのってなんかみじめじゃん」という遥さんの言葉から。彼氏に依頼したくせに教えてもらいたいのは女装した彼氏って言う謎。
まぁビジュアル的に同じキッチンに男女よりも女子二人のほうが見栄えが良いのは分かる。
ただ、わたし彼氏ですよね?と聞くと、ちゃんと分かってる。とさらっとキスされた。相変わらず遥さんの方から積極的に来る。
「リンお姉ちゃんいらっしゃい!!」
バッと玄関から出てきたの梨花ちゃんだ。そのまま抱きついてくる。
「んーお姉ちゃんよりリンお姉ちゃんの方が気持ちいい」
「ちょっ梨花それはないでしょ!!確かにリンって抱きついたら気持ちいいけど!!」
梨花ちゃんの後ろから遥さんが「いらっしゃい」と言いながら出てきたものの、梨花ちゃんの物言いに言い返しながらも自爆した。
「あはは」
もうわたしとしては苦笑するしかない。
自分の抱き心地なんてわからないから比較しようがないし。ただ本当に女子の遥さんのほうが柔らかいと思うけど。
「ま、まぁ入って」
気を取り直した遥さんに案内されて家に入れてもらった。
「で、何作るんだっけ?」
「実習で作る肉じゃがでお願いします」
じゃぁ、まずはじゃがいもの下処理からかな。皮剥こうか。ピーラー使ってね。
*
実習当日、俺はまず遥さんに言っておくことがあった。
「・・・ご飯お願いします」
「・・・はい」
柊さんが俺と遥さんを交互に見て練習したんじゃなかったのという表情をしている。
他のメンバーに聞こえないように柊さんの近くに寄る。
「ピーラーで指から血を出した人にさせれると思う?」
「えっ・・・」
そう。あの日はある意味、俺の記憶に残る日だった。
まさかピーラーで指を切って血を出すとは…梨花ちゃんからも「お姉ちゃん料理は壊滅的なんです」と呆れたように言われ、ご飯は炊けるのかと聞いたら「大丈夫!!洗剤は使わないから!!」と言い・・・小学生の梨花ちゃんのほうがスルスルと包丁でじゃがいもの皮むきをしたりと優秀だった。
なんでも遥さんが壊滅的で両親も諦めて梨花ちゃんに少しずつ仕込んでいたらしい。
昔は散々だったと梨花ちゃんに言われる遥さん。一体何をしたんだ・・・
「先生。圧力鍋使ってもいいんですよね?」
「はい。調理室にある物は使っていただいて構いません」
どうしても煮物は時間がかかるから圧力鍋で時短しないと時間中に出来ない。このまま昼休憩といっても時間がないのは変わらないのだ。
「私圧力鍋は使ったこと無いんだけど・・・」
柊さんがそろーと手を上げつつ言うが、ほとんど鍋と扱いは変わらないと思うんだよね。圧力がかかるから色々気をつけないといけないけど。
「じゃっさっさと作ってのんびりしようか」
どうせ食材切って圧力鍋でほとんど放置だし、すぐ終わる。
料理しない組にも教えつつ、怪我にだけは気をつけて。と言いながらも炊飯器の準備が終わった遥さんが包丁を握ろうとするのを止めて、肉から炒めてもらう。
横で糸こんにゃくのアク抜きをして、肉の方に切った野菜を投入して一緒に炒めながら、先に調味料を混ぜて煮込むための準備をしておく。
軽く炒まったら調味料を入れて蓋をしっかり締めて強火に、圧が整ったら弱火にする。
味噌汁も欲しいよねーということで、具は少ないが味噌汁も用意する。
「よし。あとは待つだけ」
家だと火の様子を見ながらテレビ見たり、タブレット見たりしているもんだが、ここは学校だし出来ることは限られる。
他の班の少し怪しいところに手を入れたいところではあるが・・・
「あれ。F班もう完成ですか?」
「待ちです」
もう暇そうにしている俺達を見つけた先生が声をかけてきた。先生は弱火の鍋を見てはやいなぁーとぼやいた。まぁ他の班は食材まだ切ってますからね。
文化祭の時それなりに出来る人たちは居たはずなんだが、何してるんだろうか・・・
「えっと、鈴木君いい?」
「ん?」
「普通、私達の年齢で鈴木君みたいに毎日ご飯作ってる人ってほとんど居ないと思う」
それなりにいるんじゃないの?最近は両親共働きってのも多いし。
「まぁそうなんだけど、だいたいスーパーには惣菜があるから、作らなくても生活できるからねぇ・・・」
なんで俺は先生にも言われるんだろうか・・・
「いったぁ!!」
と、少し雑談していると誰かが包丁で指を切ったようだ。
「はぁ、全員鈴木君みたいな子だったら楽だったのに」
と先生は切った人の方に向かっていった。
「全員鈴木君だったら、凄いことになりそう」
遥さんが何かを想像しながら言ってきた。
「半分、文化祭での鈴木君だと想像してみたら凄いレベルの高いクラスになるよ」
「確かに!!あの鈴木が半分だとしたらレベルたけぇ!!それに料理完璧だろ?鈴木裁縫って出来たっけ?」
「ボタン付ける程度は」
遥さんは完全にリンの方を想像してるな。
男子は俺の文化祭の時のを思い出しているのか、おぉぉとか言ってる。ただあれほとんどメイクしてないぞ。
昼休み前に食べ終わった肉じゃがは美味しかった。




