【第122話】演劇
「リンさん、遥斗さんお疲れ様です!!来てくれたんですね!!」
守山さんが出演する演劇の初日を迎えるということで遥斗と一緒に見に来た。
まだまだ演劇の舞台に立ちだして日が浅い守山さんが主演を務めるわけじゃないけど、元クラスメイトの舞台を見るのは少し楽しみだ。
ホールの入り口で受付をしていた知り合いの人に目ざとく見つけられて裏の楽屋につれてこられて守山さんに会えた。演劇の楽屋は・・・大部屋か。結構出演者も多いし、一人ずつ楽屋を用意はしていられないだろう。
リンと遥斗なのは、前に学校の友達は呼ばないの? と聞いたら主演になったら呼ぶって言ってたから今日は元クラスメイトの鈴木佑樹と飯島遥ではなくリンと遥斗で見に来た。
「お疲れ様」
「おつかれー」
「初日おめでとう」
あと、ごめん。裏に来るつもり無かったから差し入れとか用意できてない。
「ありがとうございます。間違えないか怖いです・・・」
「大丈夫、練習通りにやればいい」
わたしステージに立つときほとんどリハーサルなしで立ってますけど。うん。普通はリハーサル通りやれば問題ないはず。
「それリンさんがおかしいですから!!」
なんでリハなしで、あんなステージできるんですかっ!! と守山さん。あれ? わたしのステージって見たことありましたっけ?
「事務所でリンさんのステージ映像を見せてもらいました」
「いつの?」
「鈴木さんに引きづられてステージに立つときの」
はぃ? なんでそれを見せられてるんですかね。男の娘悠里爆誕したときのイベントのやつですよね。
「自信が無いと言ったら、大丈夫ステージ下では嫌々言ってた娘がこんな感じだからって社長に映像を見せてもらったんです」
社長!?
何人の初ステージを勝手に守山さんに見せてるんですか!?
「参考にしないほうがいい」
あれは、あくまで声優イベントであって演劇とは違うんです。演劇は本当に練習通りできればいいと思います。
「リンのあれはなぁ・・・一気にスイッチ入ったよな」
「ん」
意外と自分でも驚くぐらいにあのときは、ステージのスイッチが入ってくれた。まぁ一度きりのつもりだったというのもあるんですけどね。今じゃ時々男の娘悠里でステージとかラジオには出ちゃってますけど。
「本当にあれが初だと思えないぐらいの堂々っぷりでしたよね」
「だなー、それ以外にもリハなしで司会とか練習一回で演劇部の代役したりもしてたよなぁ」
い、一応イベントの司会はリハなくても段取りはちゃんと取ってますからね!!
*
「リンちゃん。リンちゃん。公演が終わったら初日乾杯、えーと、公演の成功を祈るのみイベントがあるんだけどこない? そっちの男の子も」
「わたし出演者じゃない」
この演劇団体をまとめている人がわたしに声をかけてきた。何度も守山さんと稽古場にいってるから覚えられているのは知っている。でも、わたし出演者じゃないです。もっというと事務所すら違います。
「いいのいいの。おいでおいで」
いいんですかね?
*
そろそろ始まるということで、わたし達はこれまた顔見知りのスタッフに関係者席の方に案内された。二階席だ。もう一階席の一般は一杯だ。
「守山さん、2.5次元の舞台だったんだ・・・」
「ん。知らなかった?」
「舞台やってるっていうのは聞いてたけど、演目は聞いたことなかったんだよな」
まぁ遥斗と守山さんはそんなに話すような間柄でもないですし、遥さんの方でもそこまで関わり合いのある相手じゃなかったですからね。
そういやチケットとかも全部わたしの方で手配したので、ここに来るまで遥斗は演目知らなかったですね。
チケットの方取れたときに次のイベントの原稿でまた修羅場ってたのもありますし。ちなみにちゃんと脱稿してます。割増になるギリギリで。思ったより大学の課題が多くて予定が狂ったらしいです。
*
「あれ? リンちゃん?」
演劇が終わり、初日乾杯に何故か出演者数人に手招きされつつ参加すると、女優の知り合いの沙苗さんがいた。あれ? 出演者だっけ?
「元々私ここ出身なのよ。初日はできるだけ見に来てるの」
「へぇ」
沙苗さんからグラスを渡される。未成年と運転手はサイダーとのことだ。お酒は二十歳になってから。あと、飲酒運転はしない、させない。とのことです。
「では、舞台の成功を祈って・・・乾杯!!」
乾杯。今日の舞台も十分良かったし、あとは大きな事故もなくお願いします。
*
「リンちゃーん」
沙苗さん・・・酔ったらわたしに絡んでくるのどうにかなりませんか? 旦那の藤堂先生に沙苗さんが酔った場合にお願いはされているんですけど・・・今日わたし車じゃないんで、どうしましょうか。
「すみません…私がタクシーで送ります」
あっ、沙苗さんのマネージャーさん。いつもお疲れ様です。




