【第120話】GW
「ゴールデンウィークどうする?」
「え? 仕事有るしあっち帰るよ」
もう毎週のように実家に帰ってるけど。
ゴールデンウィークも帰ってアテレコの仕事と舞台をすることになった守山さんのテレビ局での宣伝の付き添いをするという仕事が入ってる。守山さんの方は俺がいなくてもなんとかなっているのになぜかいると社長に指名されている。なんかテレビ局や他のタレントからの受けがいいらしい。意味わからない。
今回のゴールデンウィークは間に平日が入って大学の授業があるから、こっちに戻ってくる必要はあるけど、一応大学入って初めての大型連休だ。ほとんど予定はバイトだけど。遠くなったから放課後にアテレコに参加できなくて土日にアテレコが溜まってるんだよな。
「んー私は最初はこっちにいるよ」
なぜに?
地味にあの怪盗物のアテレコは1クール分殆どもう終わってるから遥さんのアテレコはないからいつのは全然構わないんだけど。
時間が無い分、早く早くとしていたらいつの間にか録り終わってた。
「従姉妹が実家の方に泊まりに来るから帰りたくない」
あー、すっかり記憶の彼方だったけど、遥さんの従姉妹って遥斗にご熱心だったな。
「京の相手するの物凄く疲れるし・・・」
あはは、赤い糸とか言ってた人という記憶はある。
「というわけで私はこっちに篭って原画と今度の復帰一発目のイベントの為に漫画描いとく」
了解。じゃぁ前半は俺だけ帰るわ。
「ご飯はなにか作り置きしておこうか?」
「コンビニ弁当でも食べるから大丈夫」
そっか。了解。
*
「リンちゃん。今日はありがとう」
風邪をひいてガラガラ声の声優の一人にお礼を言われる。アテレコ予定だったけど、この声ではどうしようもないってことでわたしに代役依頼が来たから、彼女の声を真似てみた。
「気にしなくていい」
風邪のガラガラ声も真似してみる。
「ちょっ、リンちゃんすごっ!!この声も出来るんだ!!」
「ん。ただ長いことすると喉痛くなる」
ガラガラ声を出すにはいつもの声を変える方法とはまた別の方法が必要になる。こっちは喉を酷使するから長いことは出来ない。
「やっぱり人間変声機だ」
もうそれは言われ慣れた。自分でもそうだなぁって思うことも多いから否定はしない。
「あれ?すずっちはるさんは?」
音の編集のためにスタジオにいた早乙女さんが聞いてきた。この会話の間にも早乙女さんのパソコンでは編集が進んでいっている。
他に編集の人はいない。今日録ったのは一部遅れていた3カットだけだけど、このカット全部音は早乙女さんが編集するらしい。もう仕事を任せられているらしい。
「実家に帰りたくないから、向こうの家」
「実家に帰りたくないって・・・何かあるの?」
「遥斗に一目惚れの従姉弟が泊まりに来てるらしい」
「へぇはるさんに一目惚れねぇ・・・まぁ無くはないか」
見た目可愛い系の男の子ですからね。遥斗は。そういった系の好きな子は結構いると思いますし。
「でも、遥斗君から原画ドンドン上がってきてるよ?」
監督が原画の進行表をタブレットで見ながら言った。制作進行の担当者が作ったスケジュールだ。リアルタイム更新で今どこまで出来たかというのがひと目で分かる。
「家で描いてた」
「へぇ。流石の速筆だなぁ。放課後と休日しかしていないというのに他の原画マンと同じカット数やってるし」
監督、遥斗の速筆知ってるんですか?
「遥斗君の生放送の常連だよ。俺。他にもうちの事務所で見てる人多いよ。速筆具合を見てすげぇとか言いながら、たまに入るリンちゃんとの会話でも笑わせてもらってるよ」
「えぇ・・・」
遥斗の生放送、うちの事務所に監視されてるんですかね?
「ほとんどの人が遥斗君がうちの事務所に来る前から見てるよ?」
絵描きの生放送なんですけどね。
まぁ仕事の話しは一切しませんけどね。軽くアルバイトはしてるって話しだけで。
*
「あっ、遥ねぇと一緒に居た人!!」
早乙女さんと帰りにクレープでも食べに行こうと話しながら事務所から出ると、男の子に見える女の子がわたしを見つけたのか近寄ってきた。
えぇっと・・・あっ遥さんの従姉弟の京さんか。
なぜ事務所の前で待ち構えていたんですかね。
「こんにちは」
とりあえず挨拶。
「こんにちは!!遥ねぇ何処に居るか知りませんか!!」
・・・まだ遥さん追ってるんですか。この人。
「遥ねぇがここのアニメの絵を描いてるって聞いて来たんだけど」
あぁ・・・クレジットに遥斗の名前乗ってますからねぇ・・・
「遥さんなら大学の方の家」
住所さえ言わなければ大丈夫でしょ。
「なんで帰ってきてないんですか・・・」
京さんが原因なんですよね。
「さぁ? 分からない」
流石にそれは言えないから誤魔化すしか無いんですけど。




