【第12話】もう一組5
「で、結局二人はどうなったんだっけ?」
「現状維持」
わたしは遥斗のイベントのファンネルをした後に、店番をしながら遥斗と話していた。
今日は仕事もないし、一日中イベントにいることが出来る。
イベント以外でもリンと遥斗で一緒にいる時間が長いが、こっちのほうが落ち着くから仕方ない。
自分たちがちゃんと性別を分かっていればいい。
遥斗がスケブを描く間にわたしが店番しながら、在庫が残り数冊になった頃に彼らは現れた。
「あっ、遥斗」
わたしは遥斗の肩を叩く。
遥斗は描いていたスケブから顔を上げた。
「ん?」
「あれ」
わたしが指差す先に居たのは、素の状態の近藤と柊さんだった。
素の状態で二人にはリン、遥斗として会っていないから初対面の反応でと遥斗と相談して、そのままブースの中で作業を進める。
二人はそのままこっちに来ることもなくコスプレスペースの方へ向かっていった。
「コスプレでも見に来たのか?」
「さぁ」
本当に何で来るのか分からない。
確か今日のレイヤーは女装、男装は数人といったところだが居たはず。
声とか着こなし、動きを参考にするにはコスプレはあまり良いとは言えないとわたしは思う。
コスプレと日常に溶け込むのとはまた違うからだ。
コスプレはどれだけキャラに近づけれるかというのが重視されるが、日常に溶け込むのは違和感を持たれないというのに重点を置く必要がある。
「戻ってきた」
二人はすぐにコスプレスペースから出てくると、即売会のスペースを見ていく。
本を見ているのではなく誰か探しているようだ。
というか、今わたしと目が合ってこっちに向かってきてるよね。え?どういうこと?
「お久しぶりです」
声をかけられた。
首を傾げておく。勝手に勘違いしてもらおう。
「えーと、前カラオケであった者です」
「へぇ、それが君達の素なんだ」
スケブを描いていた遥斗がわたしの肩に腕を置きながら話に入ってきた。
「はい。教えてもらった鈴木達に教えてもらって声が出るようになったので報告にと」
そういや前にあの二人とはどこに行けば会えるか聞かれて、どっかのイベントに不定期に参加してるとさらっと教えた記憶はある。
「聞かせて」
まぁ知ってるけど、リンとしては知らないからね。
「希です。よろしくお願いします」
おぉう。まさか名前まで考えてくるとは…あれ?近藤の下の名前ってなんだったっけな。
もしかして本名?あれ?まぁどうでもいいか。
ちなみにわたしのリンという名前は鈴木の鈴を別の漢字にして読み方を変えただけだ。
漢字で書くと鈴木 凛としている。
「千里です。よろしく」
柊さんは読み方変えただけかな?千里だと男だと珍しい部類だし。
「出るようになった」
「歌はまだ無理ですが、日常会話であればなんとかですけど」
それはそうと声披露するなら異装で来ればよかったのでは?とわたしが視線を二人の服装に向けたのを気がついたのか苦笑して近藤が答えた。
「すみません。今から俺達デートなんで、イベントがあるって聞いて、いるかなと思って覗いた感じなんです」
「おめでとう」
ほほう。わたし達が知らない間に進んでいたらしい。
隣で遥斗もおっと目を見開いている。
一体何があったんだか…
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いつの間にか近藤君と千里が付き合い始めてるし!!
ネタ、ネタをくれぇ!!
「どっちから告白したんだ?」
せめて、それだけでも!!
「お、俺からっす」
千里かぁ…だったらよしっ!!次のプロット出来た!!
リンからどうどうと落ち着くように肩を抑えられる。
分かってる。わかってるけど、男装女装カップルのネタは貴重だからぁぁぁ!!
「デートいってらっしゃい」
リンが送り出そうとしている。待って!!待って!!もっと詳しく!!
「じゃぁ行ってきます」
「いてら」
リンが俺を抑えながら送り出した。
「そこまで本気でネタ欲しがってないでしょ?」
あら。遥斗の設定を絵描きの狂った風にして遥と思われないようにちょっと演技は入れていたのはリンにバレてたっぽい。
「今までネタネタ言ってても結局出してないから」
まぁね。リアルのネタはそのまま使えないって。身バレになっちゃうかもしれないし。
描くだけ描いて製本して頒布したことはない私たちの出会いからの話とか近藤君達の話を思い出す。
結局リンにデータのまま渡して終わりにしている。
「まぁ友達を陥れるつもりは一切無いからね」
「ん。それがいい」




