【第118話】相談2
「ねぇねぇリンちゃん。ここ入っていいの!?」
先生が事務所に入る直前で怖気付いた。隣の駐車場に停めたところから先生がなんでここに!?といった感じで混乱している。
「入る」
「いやいやいや、ここって大手事務所でしょ!? こんな一市民が入るようなところじゃないって!!」
結構うちの事務所アニメ作ってることもあって知られてるんですよね。
リン用の鞄の中からカードキーを取り出して鍵を開ける。
「え? なんでリンちゃんがカードキー持ってるの?」
「一応ここでアルバイトしてる」
「はいっ!?」
「ちなみに遥斗も」
「カードキーはまだ貰ってませんけど」
今作ってる途中らしいからそれは待ってて。
「教え子がこんなおいしい立場だったなんて!!」
サイン代行はしませんからね。
*
「どう?」
「あっリン。おはよー」
「おは」
わたしと入れ替わりで実家に帰ってきたと思ったら彼氏の杉本さんと同棲のためにすぐ出ていった姉さんが今エドちゃんがいるという会議室にいた。
あっちなみに杉本さんには姉さんの左手薬指のサイズは教えました。聞かれてるんでしょ?と姉さんから教えてもらったのを伝えておいた。直接言わないのは姉さんなりの優しさなんじゃないかと思う。多分貰ったら驚いてあげるんだろう。
「あっリンさん。遥斗さッ先生!?」
エドちゃんの前で手を振っていた須藤君がわたし達の方を見て最後に先生がいて声を上げた。まぁ異性装している先輩が学校の教師を連れていたら驚きますよね。
エドちゃんはあのゴスロリ姿だが、どこか連日残業のサラリーマンの哀愁のようなものが感じられる。
「昨日酔いつぶれてうちに泊まった教師連れてきた」
「うぐっ、それは言わないでほしかったですね」
現役の生徒がいる前では取り繕うつもりなのか少し口調が丁寧になる華岡先生。もうわたし達の前では取り繕う気もないっぽいですけどね。
「で、須藤さん。遠藤君は?」
あっこれ先生は須藤君のことを姉の須藤さんだと思ってる気がする。今日はスカートにパーカー姿の須藤君だから間違えるのも無理はない。
「とりあえず今は落ち着いたと言うか、放心状態ですけど、朝この事務所の前をふらふらと歩いているのを見つけたので保護しました。昨日から家出状態だったというのは聞いていたんで」
家の方には連絡はしていますけど。と須藤君。じゃぁご両親は?
「今、美馬さんと話してます」
「ん。了解」
前聞いた話なら両親の方は問題ないんですよね。受け入れてくれてるらしいんで。
*
「エドちゃん。やほ」
わたしはエドちゃんの座る椅子の前に椅子を持ってきて手を振ってみる。どうにもわたし達が入ってきたのにも無反応だったから完全に心ここにあらずといった感じだ。
ぼーっとわたしの方を見る。この状態でわたしにメッセージを送ってきたの?
「おーい」
反応はない。
「おい。しっかりしろ。遠藤」
「っ」
地声に戻して言うと、エドちゃんが反応した。
「とりあえず、どうして家出したか教えてくれないか?」
ここにいるのはエドちゃん以外、わたしの正体を知っているメンバーだけだから、リンという殻は一旦捨てる。多分こっちのほうが話してくれる気がする。
他のメンバーからはいいの? といった気遣いの言葉が聞こえてくるが、このほっといたら自殺しそうなエドちゃんをこのままにするのは色々マズイ気がする。
*
「アウティングからのいじめで自分の存在に不安を感じたか・・・先生。もう遅かったみたいですよ」
「あーちょっと動くの遅かったか・・・」
ただ正直、俺としては対策は何も思いつかない。
「あ、あのリンさんって・・・」
「男」
「えっ!?」
そんなに驚くことかなぁ。エドちゃんも似たような感じだけど。
「リンはその数段上を行くんだけど・・・自然体すぎて」
「そうよね。私も普通に妹がいたっけと思うぐらいだし」
「教えてくれるまで普通に女性だと思ってました」
外野うるさいぞ。
*
わたしは数週間前まで通っていた高校の廊下を歩く。目的地は華岡先生が押さえた被服室。
「あれ? リンさん?」
やってきたのが平日ということもあってツバサちゃんと会った。ちなみに大学は今日の午前中の授業を入れてない。
「おは」
「どうしたんですか?その制服?」
今、わたしは姉さんの制服を着ている。流石に授業が始まる前と言っても生徒がいる中で私服で校内をうろつく度胸はない。
「姉さんの。ちょっと用事があって、んー来る?」
始業時間までには終わるからとツバサちゃんを誘ってみる。
「何するんですか?」
「メイク」
「はい?」
*
わたしとツバサちゃんが被服室につくとそこには男子が3人と華岡先生がいた。
「リンちゃん。おはようございます」
「おは」
「じゃぁ、説明しようか。この子が今日メイクしてくれる私のメイクの先生」
・・・先生。その説明で良いんですか?
「「「お願いします」」」
男子3人に頭を下げられた。
「じゃぁ時間もないしさっさとやる。
先生、ツバサちゃん。下地をお願い」
え?どういうことですか?という表情をしているツバサちゃん。あぁそう言えば全く説明してなかったですね。
「一人でイジメられるなら増やしてしまえホトトギス作戦」
「ホトトギス作戦ってなんですか」
ただの言葉遊びです。
「でも、イジメ・・・あーあのアウティングですか」
ツバサちゃん知ってたんだ。
「同じクラスなんで」
そうだったんだ。
で、この3人はその作戦の立案者であり協力者。
結局あの時わたし達でエドちゃんを現実に引き戻すことは出来たけど、その先のフォローをどうするかというところで先生に連絡があって、この話を持ちかけられた。
「そういうことなら・・・先生僕の分も制服ありますか?」
「えーと・・・あるにはあるけど、するの?」
「制服コスプレですよね」
えっと、まぁうん。ツバサちゃんの場合そうなるかな。ツバサちゃん生粋のコスプレイヤーだし。
*
最終的に、ツバサちゃん達4人の働きのお陰かエドちゃんはクラスに受け入れられたらしい。
男でもあそこまで可愛くなれるなら男でもいいやって男子が結構いて、作戦は成功したらしい。




