【第10話】もう一組3
俺は遠くから駅前で待つ近藤を見る。
遠目で静止しているとメイクの濃い女性に見える。
「いやー、なんか学校以外で両方素で合うの珍しくない?」
「確かに」
俺の横に一緒に並んでいる遥さんがあー珍しいと言ってくる。
まぁ俺たち両方が別の性別に着替えていたり、どちらかの性別に合わせていたりするからなぁ。
柊さん(男装)が現れて、近藤を連れて行く。
声はなんとか普通に聞こえるようにはなった。まだ気を張らないと声は安定しないが、数回教えただけだとそんなものだろう。
声のレクチャーは順調だ。
俺が近藤に、遥さんが柊さんに聞いたら、まぁ両思いってことでくっつけようとしている。
男として女の柊さんが好きなのか、女として男の近藤が好きなのかと聞いてみて、柊・近藤だからこそ好きなんだということだ。
声が出せるようになって更に近くなった二人を街中に放置してみようと思ったのだ。
で、俺達は直前に遅れると連絡してあとから合流の予定だ。
「メイクぐらいは教えるべきだったかなぁ・・・」
「まぁーうん。あとで二人のメイク指導しよっか」
簡単なメイク道具ぐらい持ってきてるでしょ?と言われたけど、リンじゃないときにメイク道具は流石に持っていない。せいぜいリップぐらいだ。
*
「そこだ!!いけっ!!」
「あぁっ!!」
俺達二人は後ろから近藤達二人の様子を見ながら声を上げていた。
3時間ほど、昼食を取ったり、ゲーセン行ったりするのを尾行してみたが、どちらも近づかないし話も続かない。
なんというかおしい。
もっと近づけって!!
両方共、女装、男装していることに負い目があるのか、次に進まない。
どうやら二人は最初はそれぞれ家でやっていたらしいが、夜に外に出てみたらばったり会い、そのまま二人で技術を高めていったようだ。
なんというか既に完成していた俺達とはまた違った物語があり、既に遥さんが同人誌としてのネームを切ったという話を聞いた。
漫画家の性らしい。
「なんかもう進みそうにないし合流する?」
「だな」
せっかく二人きりにしたってのに全然進展しねぇの。やっぱり素で放り出したほうがよかったか?
俺達が見てみたいといったからあの二人は異装で出てきているし。
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「二人共お疲れ様ー」
私達はニヤニヤとしながら二人と合流する。
合流するとして連絡した時間より30分は早く、後ろから現れるという状況で二人はわざと二人きりにされたのだと気がついたのだろう。二人共顔が赤くなった。うぶだねぇ。
「ちょっ遥!?見てたの!?」
「まーねー」
ただ尾行してても面白くなかったよーと伝えておく。
本当に面白くなかった。少しぐらい進展あってもいいじゃん。
「あー今からメイク講座しようと思うが、うちくるか?」
ここから近いしと鈴木君が言った。
行く行く!!
そういやリンがうちに来ることはあっても鈴木家には私も行ったことないなぁ・・・
「メイク教えてくれるのか!?
どうしてもあの文化祭のようにならないんだよなぁ」
近藤君、声が素に戻ってるよ・・・
「あの時の100均化粧品も残ってるからな」
あーそういやあの時は100均でどうにかしたんだっけ。
*
鈴木君の家に移動してリビングに通された。
両親は仕事、あの声優の麻美さんは大学近くで一人暮らし中とのことだ。
通されたリビングは・・・なんで私の同人誌置きっぱなしなんですかねぇ。
何?家族で読んでるの?ねぇねぇ。
あとテレビの近くにはアニメのDVDが所狭しと並んでいる。白いDVDにアニメタイトルと話数が書かれているのもある。
あれ私アニメで見たことある!!白箱って言うやつじゃ!?
麻美さんに鈴木君にと共に声優だからもらえている可能性がある!!それにあのタイトルって『悠里』が出てた奴だ!!
と私が興奮していると鈴木君が荷物を持ってリビングに入ってきた。
「とりあえずどっち使ってもいいから近藤はメイク落とせ」
と言って近藤君に渡したのはクレンジングジェルとシートだ。
近藤君が物珍しそうに見ている。
え?そこまで厚化粧してクレンジングも使わずに落としてたの?
鈴木君がそこからか。と頭を抑えつつ近藤君に説明を始めた。
「えっと、私はどうすれば・・・?」
「千里はメイクは全然オッケー」
動かなかったら男性そのものだから。と付け加えつつ、「動かなかったら!?」と突っ込んでもらったところで、気になった千里の動きについて色々指摘しておく。
あっ項垂れた。
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つい家が近いって理由で連れてきたけど、まずい。俺の部屋にはリン関係のものが溢れてる!!
服から化粧品、ウィッグにカバン、アクセサリーと遥さんは良いとしても他の二人はまずい!!女装しているとは教えたくない!!
とりあえずリビングで待ってもらって・・・無理。片付けきれない。
だったらメイク道具もってリビングでやるか・・・一応リン関係のものを出来る限り隠しておく。
ぱっと見られた時対策だ。
リビングに持ってきたのはあの時の100均化粧品と綿棒、あとクレンジング関係。まずはあの濃い化粧を落とさせないと。
教えるのは俺がリンでしているナチュラルメイクと薄化粧のハイブリット型。
見せれるところは薄化粧で男っぽい隠したいところは隠しながらもナチュラルメイクになるようにしていく。
ガッツリメイクしなくても印象を変えるだけで女性に見えるようにはなる。
*
「これが・・・俺・・・」
はい。というわけで近藤のメイクが終わって鏡を渡すとおぉぉと鏡に夢中になった。
「すっごっ」
「濃いのも否定はしないけど、コスメの消費がマッハだからお勧めはしない」
必要なところだけ必要な分メイクするのが大事。
フルメイクでもいいんだけどどこか綻びがでるから、素材を活かしてメイクしていくのが一番いい。
折角近藤も軽いメイクで女に見えるんだから利用しない手は無い。




