【第1話】出会い
「「あっ、すみません」」
彼ー飯島 遥斗との出会いは某夏の祭典で同じ同人誌を取ろうとしたことであった。
彼は黒縁のハーフリム眼鏡をして、短い黒髪を遊ばしているような同じくらいの年齢の男性だった。
そんなに背は高くなくてわたしと同じ160前後。
低いとはいえヒールのわたしのほうがほんの少し今は目線が高い。
「好きなんですか?」
「はい」
わたしは少し無口系だ。
喋ることを苦に思っているわけではないが、なんとなくソッチのほうが今のわたしの姿にはあっていると思うからそうしてる。
二人して同人誌を入手してその時は別れた。
*
「あれ?あの時の」
そうやって声をかけられたのは、イベントで手に入らなかった本を買いに来た同人誌屋であった。
わたしが顔を向けるとそこにはあの夏の祭典で出会った遥斗がそこに居た。
「どうも」
覚えていたので軽く会釈を返す。
ナンパ野郎だったら殴って離脱の構えはしておく。
「この辺なんですか?」
「ん」
確かにわたしはこのあたりに住んでいる。
「あっ・・・その本・・・」
私の持っていた本を見て遥斗は声を上げた。
なぜ声を上げられたのか分からない。
ただの女装物じゃないですか。腐物ではなく、少し特殊系という自覚はあるけど、そこまで驚かれるものでもない気がする。
確かであったときの同人誌も女装物だったと思うのですが。
「ありがとうございますっ!!」
ぐわしっと急に手を掴まれた。
えっ?えっ?
「俺の本買ってくれてありがとうっ!!」
はい!?この本描いた人!?
というのが、わたしと遥斗の出会いだった。
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俺とリンとの出会いは夏のイベントだった。
暑い会場で涼し気な薄手な上下、でも透けない服に見を包んだリンと本を取った時に手があたった。
その時はそれで別れたが、俺が掘り出し物を探しに同人誌屋に行くとリンも居た。
この辺の人かなと思って声をかけてみると、あぁあの時のという感じで会釈してくれた。可愛い。
で、彼女の手には俺が描いた本があってつい手を握ってお礼を言ってしまった。
今思えばまずかった気がするが興奮してしまって冷静に動けていなかったんだろう。
こんな可愛い子がまさか俺の描いた女装潜入本を買ってくれるなんて思わなかったし。
「興奮したのは分かりましたが、急に握るのは心臓に悪いので控えてください」
「ごめん」
詫び代わりに有名な珈琲チェーンに彼女を誘ってみると有名所ならいいですよとついてきてくれた。
まぁ行くときも彼女先導で大通りしか歩かないといった感じだったから信用はされてないんだろうなぁと思いつつ珈琲を奢った。
でまた、そのときはそこで別れたんだ。
名前だけは伝えたが、結局は連絡先なんて交換していなかった。
*
その後もイベントで何度かあったりはしていた。
より近くなったのは街をぶらついていると、スマホを片手に頭を抑えているリンを見かけたのが発端だった。
リンと目が合うと、リンが俺の方に寄ってきて、2枚のチケットを取り出した。
チケットは今人気のアニメ映画のもので、中々席が取れないと有名なヤツだった。
俺も行ったことはなかった。
「チケット貰ったけど、行かない?」
友達にドタキャンされた。とのこと。でチケットの日付も今日で勿体無いと思っていたところにぶらぶらしていた顔見知りの俺が通りかかったということらしい。
リンはバイトで映画関係に伝手があり、その関係でチケットをくれたりするらしい。
「いいのか?」
「ん」
リンが頷いた。
アニメ映画を見た後に、ファーストフードで感想を言い合っていると、リンと俺の趣味嗜好はよく似ていた。
時間も時間で別れ際に、リンの方からスマホを出してきた。
「連絡先教えて。またチケット貰ったら呼ぶ」
「えっ。まじ?」
可愛い女の子の連絡先ゲットな上にチケットを貰えるなんて!!
いくらでも交換しちゃう!!とリンと連絡先を交換した。
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わたしが遥斗との連絡先を交換した後、家に帰って自室に入ると、髪に手を入れて髪留めを外すと頭から髪がスポンと外れた。
髪はウィッグで地毛はベリーショート。
そのままベッドにダイブ。
「あー・・・」
そこでわたしから漏れた声は男の声。
これが地声。本当のところわたし、いや俺は男だ。本名は鈴木 佑樹。
普段は黒縁メガネの至って目立たない男子だ。
女装はただレディースディで楽しもうと思って始めて、気がついたらリンという人格(?)が俺の生活の大部分を占めるようになった。
一応学校は普通に男子生徒だが、放課後のレディースディの店にリンとして出向いたり、休日のイベントは大体リンで参加している。
正直なところ、恋愛対象はよくわからない。好きになった人が好きでいいじゃんというスタンスだ。
「学校の課題・・・」
くそう面倒くさい。あとコンタクトを外して、メイク落とさないと・・・
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「おかえりー!!」
リンと連絡先を交換して、家に帰り、妹にダイブされた。
「ちょっと梨花。飛び込まないでって何度も言ってるでしょ?」
地声でつい妹の梨花に言う。
「だってぇ。梨花お兄ちゃんに憧れてたもん」
ぐりぐりと胸辺りで頭を擦り付けてくる梨花。
「ちょっと、くすぐったいからやめて!!」
あとお兄ちゃんじゃないから!!お姉ちゃんだから!!
そう、俺・・・いや私は女だ。本名は飯島 遥。
オタク趣味が友達にバレないように男装してサークル参加までしている。
それに男装だったら夜の外出も見逃してくれるし!!
ほとんどない胸でよかった!!
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「はい!!これ!!」
取り出した数冊の同人誌をわたしに渡してくれた。
これはこの前買った本を読んでクリティカルだったから遥斗に頼んだのだ。
イベントで遥斗がサークルにいてスケブも描いていたことは確認しているし、間違いなくあの同人誌は遥斗の描いた奴だ。
「ん」
つい頬が緩む。
くくくと遥斗が笑っているのが聞こえてくる。
こんにゃろ。女の子の笑顔はそんなに安くないんだぞ。
わたし女の子じゃないけど。
「少しBLが混じってるけど大丈夫?」
「無問題」
正直BLも好物です。
意外と面白いからね。読まず嫌いはいけない。
まぁ即堕ちはわたしはどんなカップリングでもあまり好きじゃないんだけど。
あー今から読むのが楽しみだ。
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やばい・・・
俺は今窮地に直面している。
イベントで頼んでいた売り子が風邪だなんて・・・
一人で店番は無理だ。俺もスケブ描きたい。
「はろー」
そんな頭を抱えたい状況に女神が現れた。
抑揚の少ない言葉で声をかけてきたのはリンだ。
リンは友達?いや親友といいたい。ここまで趣味思考が合うなんて滅多なことはない。
「リンっお願い手伝って!!」
「ん?」
俺が手を合わせてお願いすると、ちらりと俺のブースをみていつもいる売り子が居ないことに気が付いたんだろう。納得顔になる。
「30分待って」
あと荷物置かせてとすでにいくつかのサークルを回ってきたんだろうか、何冊も入った紙袋を俺に渡してくる。
ということは・・・
「手伝う。でも後いくつか回らせて」
「ありがとうっ!!」
本当にありがとうっ!!
書き分けとしては、
リンの一人称はひらがなの「わたし」、佑樹が「俺」。
遥斗が「俺」、遥が「私」としています。