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8 極悪非道エルフと老人

【本日の依頼内容】


仕事内容

マフィアの皆殺し


依頼人

無し(自主業務の為)


報酬

試し切りできる。

生意気な奴等を消し去れる。



$$$



「さーて、お仕事の時間だ」


一番街三区に着いたルナリアはそう言って辺りを見回す。

当たり前だがマフィアらしき人物は一人も見受けられない。

それもその筈、一番街三区は足を洗った大罪人が最後に落ち着く安寧の地なのだ。

普通ならこんなところを根城にする馬鹿はいないが…………。

何も知らずに地下街モルガルに来たのなら有り得ない話ではない。


その時、散歩中の老人と目があった。

彼は会釈してその場を離れようとするが、ルナリアはその肩を掴んで逃げるのを阻止し、フードを取る。


「あわわわわ」


ルナリアを見た老人は泡を吹いて白目を剥いた。

人を何だと思ってるんだ?


「落ち着け爺さん、死ぬにはまだ早い!」


ルナリアは倒れそうになる老人の体を支え、頬をペチペチ叩く。

しばらくすると彼は正気に戻り、ルナリアを見上げた。


「おー、誰かと思えば孫のジョーンズではないか。随分と貧相な乳になったのぉ」


完全にボケている。

その上、無礼な事この上ない。


「誰がジョーンズだ!やっぱり死ね、クソジジイ」


ルナリアが冷たく言い放つと、老人は顔真っ赤にして彼女に詰め寄る。


「誰がタコ頭だ!腐れハゲ!」


「言ってねえよ!そしてハゲはお前だ!」


むぅ、と老人は黙りこんだ。

しかし、五秒と経たない内に凄まじい形相で後ろを振り向く。


「ナンシーは黙っておれ!」


「誰も何も言ってないからな!?」


「ジョーンズ!お前には言っとらん、儂はナンシーと話しておる!」


「ジジイ、現実を見ろ!ここには私とジジイしかいない!」


「煩い!儂にはナンシーが見える!つまりナンシーは美人じゃ!」


一切迷いのない目で、そう訴えてくる老人。

駄目だ、手の付けようがない。


「どういう思考回路してるんだよ…………」


マフィアの噂を聞こうと思っていたがこの調子だとそれも無理だろう。

ルナリアは諦めてその場を離れようと歩き出す。


「待て、ジョーンズ!今日こそ貸した金を返さんか!」


老人とは思えない速度で彼はルナリアの腕を掴んで逃亡を阻止する。


「お前のボケ方本当に面倒だな!?」


どうやったらこんなに人に迷惑が掛かるようなボケ方ができるんだ?


手を振り払って再び歩き出すと、今度は目の前に回り込まれた。

老人でこの動きとは只者ではない。

恐らく昔はやり手の暗殺者か何かだったのだろう。


よーく目を凝らして老人を観察すると、見知った顔であることが判明した。


「お前、白昼のふくろうか」



$$$



白昼の梟。

本名はカイザナス・ドルモール。

五十年程前、大陸を騒がせた大罪人で、活動していた三十年間で出た被害者は十万人を下らないと言われている。

手口は、すれ違い様に手に持ったナイフで頸動脈を切り裂くだけだという至ってシンプルなもの。

だが、実力者である彼は標的に悲鳴を上げさせたことが一度も無い。

その上、犯行時間はいつも昼間であったにも関わらず、一度たりとも憲兵に姿を見られたことは無かった。

因みに彼が全盛期だった頃、ルナリアはコンビを組んで仕事をしていた事がある。



そして、その偉大な殺人鬼の成れの果てがこれだ。


「誰が白痴の耄碌もうろくじゃ!」


「お前の事だ!」


まるで会話が成立しない。

かつての面影は殆ど消え去り、ルナリアが判別できたのは特徴的な目のお陰だ。


「ったく。相変わらず死んだ魚の目をしてるな」


「そんなことを言ってると、飛び出すぞ!」


「目玉がか?」


「ジャックがじゃ!」


「誰だよ、ジャック……」


溜め息をついて肩を落とすと周囲から殺気が発せられる。

建物の影や中からルナリア達を狙っているらしい。

気配がするのは16人、その内殺気がこもってるのは7人。


「ジャックが16人もいるけど、どうするんだよ?」


「煮て良し、焼いて良し、茹でて良しじゃ!」


「何の話だ!」


そう言ってルナリアは建物の屋上に矢を放つ。


「ギャッ!」


悲鳴と共に屋上から肩を貫かれた男が落ちてきた。

隠れているのがバレたのを悟ったのか、武装した男達がぞろぞろと通りに出てくる。


揃いも揃って剣やナイフしか持っていないあたり、戦い慣れていないのが一目瞭然だ。

本当に地上で活動していたマフィアがいい気になって地下街に進出してきたらしい。

以前からよくあったことだが、その度に住人がボコボコして街のルールを叩き込んでいた筈だが……。


リーダーらしき男は一歩前に出ると、ニヤニヤ笑ってルナリアを見る。


「誰だか知らねぇが、俺達マーフィル一家の縄張りに入った以上、通行料を貰うぜ?仲間を傷付けたから三倍払って貰うがな?」


本当に来たばかりらしい。

ルナリアの事を知らない所を見ると、世間知らずか、或いは怖いもの知らずか。

どちらにしろ馬鹿であることは間違いない。


ルナリアが溜め息をついて弓を肩にかけ直すと、マフィアのリーダーは彼女が諦めたと思ったのか汚い笑い声を上げる。


「ゲヘヘヘヘ、大人しくしてりゃ命は取らねえよ。貞操は頂くけどな?」


ルナリアは何も言わずに俯き、そっと老人にナイフを手渡す。

すると、老人はニタリと笑ってそれを受け取り、何を思ったのかマフィアの一団に向かって走り出した。


「おい、大人しくしてやがれ!」


老人は剣を振り上げて叫ぶリーダーの横をすり抜けると、後方にいたマフィアの一団をすれ違い様に切り裂いていった。

ナイフを構えるその姿は昔と変わらず、大陸を恐怖の淵に陥れた殺人鬼そのものだ。

悲鳴を上げさせずに獲物を切り裂く手腕は見事の一言に尽きる。


「魔女の安息所で待っておるぞ!」


五人のマフィアを切り裂いた老人は満足気に笑ってそう言うと、その場を走り去った。


「……あのクソジジイ、ボケてないな?」


苦笑いを浮かべるとルナリアは新しく手に入れたナイフを構える。

あの老害に話を聞くのはこいつらを始末した後だ。


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