表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/74

73 極悪非道エルフのお買い物2

バーを出るとそこは裏路地だった。

高くそびえる白い大理石の石壁に独特の赤い紋様が描かれている。

ルナリアはそれらを一瞥すると、カインを連れて大通りへと向かった。


ルナリアの横を歩きながらカインは周囲をキョロキョロ見回し、そして首を傾げる。


「ねーねー、おねーさん。ここどこー?」


地下街モルガルの地上部、サリシアス共和国だ。混沌と喧騒の国だ」


前を向いたままルナリアは説明する。

だがカインはいまだ首を傾げたままルナリアを見上げた。


「よくわかんない」


「そーかよ……ま、簡単に言えば頭のおかしいやつの巣窟だな」


完全に投げ槍である。


そうこうしている内に一行は大通りに出た。

見回す限り商店だ。

肉屋に雑貨屋、薬屋になんでも揃っている。


地下では見られない華やかな光景にカインはパアッと楽しそうな笑顔を浮かべる。


「たのしそー!」


「おい、前見て歩け」


ルナリアが注意した時には既に遅かった。

カインはがたいの良い傭兵にぶつかり、相手は眉をピクピクさせている。


「おい、ガキ。どこに目ェ付けてんだ?」


傭兵がそう言うや否や、カインは跳び上がり傭兵の首筋目掛けてナイフを一閃した。


「ガッ!?」


途端に傭兵は首を押さえて倒れ伏し、辺りには赤い水溜まりが広がる。

ピクピクと痙攣している死体を見下ろし、それが動かなくなるのを見届けると、カインは嬉しそうにルナリアを見上げた。


「おねーさん、みててくれたー?」


「ああ、良い一撃だったな」


呑気に話している二人だが周囲は阿鼻叫喚である。

人が一人殺されたのだから当然と言えば当然だが。


パニックに陥り叫び声を上げてる民衆を蝿を見るような目で見ながら、ルナリアは溜息を吐いた。


「うるさい奴らだな」


「ころす?」


ウズウズしながら無邪気に尋ねるカイン。

だがルナリアは首を横に振った


「いや面倒だから逃げるぞ、こっちだ」


ルナリアは逃げる民衆を追うように大通りを北上する。

彼女を追いながらカインは不服そうに頬をふくらませた。


「つまんないのー」


「我慢しろ」


取りつくしまもなく、ルナリアはツカツカと歩き続ける。

目指すは都の鍛冶屋街だ。



$$$



華やかな町並みとは打って変わって、無骨で熱気溢れる大通り。

響くのは親方の怒声とそれに答える弟子の声、そして鉄を打つ音である。

サリシアス共和国の名物、鍛冶屋百番街だ。


様々な店の間を抜け、一際小さい店の前に辿り着くとルナリアはフードをとり、ドアをノックした。


「今日は休みー、来年来なー」


すると無気力の権化のような返事が返ってくる。

それを予想していたのかルナリアはドアを蹴破ると、悪辣な笑みを浮かべた。


「休みは終わりだ魔法工」


「おわりだー!」


同じくフードを取りながら元気に叫ぶカイン。

すると部屋の奥からルナリア目掛けて槍が飛んでくる。

それを難なく掴み取ると、ルナリアは店の壁に突き刺した。


「舐めてるのか?」


呆れたように眉をハの字にするルナリア。

すると店の奥から一人の少女が欠伸をしながら現れた。

しばらく切っていないのだろう、綺麗な黒髪は床まで伸びており、その隙間から赤色の瞳が覗いている。


「本人確認だよー、ルナリアいらっしゃーい。そっちの子は初めてだね、名前はなんてゆーの?」


「かいん!!おねーさんのでし!!」


両手を上げて嬉しそうに答えるカイン。

その様子を見て目を細めると魔法工はカインの頭を撫でる。


「そーかそーか弟子かー。私はライノルって言うんだー、よろしくねー」


魔法工ーーーライノルの自己紹介を受け、カインはしばらく何かを考えていたが、やがて何かを思い付いたのか顔を上げる。

そしてライノルを指さして一言。


「らいのるちゃん!」


その一言にルナリアは笑い出し、ライノルは困ったように笑う。


「ラ、ライノルちゃんかー……」


少し複雑そうな顔をしていたライノル。

何を思ったのか彼女はポケットから氷砂糖を取り出してそれを食べるとフーッと息を吐いた。


「まーいいやー。ところでルナリアー、何しに来たのー?」


「ハァ……ハァ……あー、言い忘れてたな。うちの弟子の武器が欲しくてな」


笑い疲れたのか息を切らしながらそう言うルナリア。

そんな様子を気にすることなくライノルは心配そうにカインを見つめる。


「えー、すごく辛いよー?カイン君嫌じゃないー?」


彼女の心配を他所にカインは元気に一言。


「へーきだよ!」


弟子の様子に満足気に笑いながらルナリアはライノルに笑いかける。


「だそうだ。今すぐ頼む」


「はーい、少し待っててねー」


諦めたようにライノルは溜息を吐き、奥の部屋へと消えた。


「ま、頑張れよ?カイン」


「?」


不思議そうに首を傾げるカイン。

彼はまだ知らない、この後に待ち受けるモノに。

【鍛冶屋百番街】

百の鍛冶屋がズラリと並ぶことからこう名付けられた通り。

サリシアス共和国の軍備が充実しているのはこれのお陰である。

最も名高い鍛冶屋は『銀髪のシュナ』。

良い武器も作るが、変な物も作っているらしい。



【ライノル】

魔法工と呼ばれる特殊な鍛冶屋。

ある者は彼女を名工と言い、ある者は駄工と言う。

謎の多い鍛冶屋である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ