67 極悪非道エルフと神話の大戦 4
一点の黒すら存在しない白亜の世。
これ即ち理想郷なり。
これ即ち黄金郷なり。
彼の世を創る極光の鍵こそ黄金郷の門なり。
原初の伝書より―――。
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「ならばその身で受けてみろ。黄金郷の門」
創造神の文言に反応して剣に凝縮されていた金色の魔力が解放されると、刀身は巨大な黄金の柱に姿を変えた。
最早刀身と言えるのかすら分からない。
元々剣だったそれは、神殿の柱など比べ物にならない程の太さになった上、空を貫くと思われる程の長さになっている。
「刮目しろ、そしてひれ伏せ!世界から悪を消し去る正義の光だ!!」
周囲にいる者達を見渡しながら、創造神はそう高らかに声を上げる。
その声に触発されたのか、悪魔と精霊、そして天使は戦いを止めて空を見上げ、そして呆然と立ち尽くした。
天を貫く極光の柱。
通常なら圧倒的な存在感を前に闘志など消し飛び、漠然とした恐ろしさに体の震えは止まらなくなるだろう。
だがアルテミスは怯むことなくそれを真っ向から見据え、静かに目を伏せた。
「ようやく理解したか、所詮塵は塵でしかない」
彼女が諦めたと認識した創造神はニタリと笑い、剣を持つ手に力を籠める。
「さぁ、終焉の幕開けだ」
創造神の言葉を起点に滅却の極光は大地へと注がれた。
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迫り来る金色の光に皆が絶望するなか、アルテミスとアポロ、そして『彼』は笑っていた。
ようやく創造神の鼻をへし折るときが訪れたのだから当然だろう。
「自分の目を疑うと良い、魔狼の縛鎖展開ッ!!」
光が間合いに入った瞬間、アルテミスは文言を叫びながら、青く光る剣を金色の光に突き刺す。
次の瞬間、アルテミスの剣が纏っていた青い光は形状を鎖に変え、黄金郷の門に巻き付いた。
「なっ!?」
思わず目を剥く創造神。
しかし、それだけでは発動した魔法は止まらない。
鎖は急速に金色の魔力を吸出し、アルテミスの手の中へと送り続ける。
それを器用に操り、アルテミスは一心に何かを編み上げていく。
数刻の後、彼女の手中にあったのは金色の光を放つ一本の矢だった。
その矢を見て満足気に頷くと、アポロは創造神の回りに自分の魔力を集中させる。
「この光……ま、まさか!?」
自らが青く光る様子に何か思い当たる節でもあるのか、創造神は狼狽し、光を振り払おうと必死に手をバタつかせた。
しかし時既に遅し、アポロとアルテミスの二人は互いに顔を見合わせ、詠唱の準備を終えている。
「【アルテミス、いくらお前でもあの光に矢を当てるのは不可能だろ?】」
青く光る創造神を指差し、アポロはアルテミスに挑戦的な目を向けた。
「【いいえ?絶対に当てられます】」
当然だというようにアルテミスは素っ気なくそう返す。
「【本当か?強がってるんだろ?】」
そう挑発するとニタリと笑い、アポロは肩をすくめた。
対してアルテミスは不機嫌そうに頬を膨らませる。
「【そこまで言うなら当てて見せましょう】」
そう言うや否やアルテミスは黄金の矢をつがえ、創造神の心臓に照準を合わせた。
途端に金色の矢は青と赤の光を帯びる。
「高天ヶ原、アスガルズ、イアルの園、仙界、三千世界、そして我等オリンポス!原初の世界の嘆きを存分に味わいなさい!!」
こうして数万年分の怒りが籠った言葉と共に、世界に変革をもたらす矢は放たれた。
光を放つ矢は見事な直線を描きながら、真っ直ぐに創造神の心臓へと飛んでいく。
しかし創造神はそれを避けようとしない。
…………いや動くことすらできないというのが正しいのだろう。
黄金郷の門に限界まで魔力を籠めていたが故に創造神は指一本動かす事すら出来ない。
そもそも立っている事自体が奇跡だ。
「おのれ塵共……許さんぞ……!」
呻くように呟くと、創造神は四肢の存在を消し飛ばして魔力を作り出すと、三人の精霊に呪いを掛ける。
この身滅びようとも、禍根は残しておくということらしい。
体を支える物を失い、創造神だった彼の体は地面へと落ちていく。
最期を迎えようとしている彼の顔に浮かんでいた表情は後悔や悲哀のそれではなく、怒りや憎しみによるものだった。
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「ガァァァァア!!」
心臓を貫かれた創造神は苦悶の表情を浮かべ、叫び声を上げる。
彼を刺し殺さんとする矢は自らの魔力を使い、彼の内に残っていた神としての力を奪い去り、具現化していった。
「グガァァァァア!!」
数分後、絶叫する創造神の中から金色に光る林檎が六つ現れた。
それらを大切そうに拾い上げると、彼は地面で転がる兄を見下ろす。
「孤独な唯一神の時代は終わりですよ。これからは神達が協力して人を見守る時代です」
「グ……ガ…………それはどうだろう、な?いずれ一柱が全能を……望むぞ?」
「その為の神殺しです。あの二人がいる限り神は好き勝手できませんよ」
満足気に笑いながら、彼は後方から歩いてくる二人を指差した。
「導師、後はお任せ頂けませんか?」
「そいつは俺達の獲物だ」
殺気を露にする二人に目配せすると、彼は林檎を抱えたまま戦場へと足を運ぶ。
背後から響く絶叫に彼は笑顔を隠せなかった。
【オリオン殺しの文言】
アポロがアルテミスにオリオンを殺させた際にしたとされる会話を魔法にしたもの。
放たれた矢は絶対に外れることはない。
望んでいようと、いなかろうと。




