66 極悪非道エルフと神話の大戦 3
鎖を壊し、自由になった兄は金色に輝く剣を掲げると不敵な笑みを浮かべる。
「塵共が、中々やりおる」
彼が放つ圧倒的な存在感は悪魔と精霊を正気に引き戻し、天使に活力を与えた。
それが意味するのは形勢の逆転である。
次第に前線は押し下げられ、悪魔と精霊の連合軍はジリジリと後退していった。
だが前線の動きに付いて行けなかった三人は天使達に囲まれ、背中合わせに敵と向かい合う。
天使達は態度を一転させ、三人に見下すような目を向けた。
「クソッ!!どうする!?」
少しづつ包囲の輪を狭めていく敵を睨みながら、アポロは青い魔力を揺らめかせ、吼えるように叫んだ。
「導師、どういたしましょうか!?」
対してアルテミスは弓を肩に掛け直し、両腿に付いたベルトからナイフを抜き払うと、それを逆手に構える。
全く戦意を失わない二人に驚きながら、彼はニンマリと笑みを浮かべた。
「決まっているでしょう?一人残らず皆殺しですよ」
そう言うと彼は剣を掲げ、黒い魔力を集中させる。
「【王都が切り裂き魔の隠れ蓑、狩人の目より守りたまえ】」
詠唱を終えた次の瞬間、彼の魔力は霧となり、辺り一帯を包み込んでいた。
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「き、霧が……!」
「し、指示を!指示を下さい!隊長!」
突如現れた霧に視界を遮られ、三人の姿を見失った天使達は周囲を見回しながら狼狽する。
「警戒しろッ!!」
具体的な策が示せない以上、精々警戒体制を引かせるのが関の山だ。
そんな事を考えながら隊長が次の一手を練っていた時のことだった。
「むっ……?」
首に冷たい物が触れるのを感じ取った隊長は、不思議に思い、首を傾げる。
しかし、それが間違いだった。
既に切断されていた首は重力に従って地面に落ちていく。
落ちた首を蹴り飛ばすと、彼はふと第二の人間達を思い出し、懐かしそうに目を細めた。
「第二の人間が言っていましたよ。ジャックは霧と共に現れ、音もなく人を切り裂き、霧と共に消えたとね」
そう呟きながら剣に付いた血を落とすと、彼は周囲の気配を探る。
「アポロは大人しくしてますね。アルテミスは…………随分とお転婆なようですね」
苦笑しながら彼はそう呟く。
それもその筈、アルテミスは次々と天使達の首を切り裂いていた。
その上音は一切出さないのだから質が悪い。
悲鳴を上げる間もなく狩られていく天使達を哀れみながら、彼は背後に迫る天使の首を容赦なく撥ね飛ばした。
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霧が晴れる頃には三人を囲んでいた天使達は一人残らず血を垂れ流しながら地面に転がっていた。
「次は誰です?まだ私は生きていますよ?」
服とナイフから血を滴らせ、アルテミスはユラリと目を動かし、創造神を睨み付ける。
「その程度でいい気になるな、塵共」
嘲笑うような笑みを浮かべながら彼女の視線を真っ正面から受け止めると、創造神は金色に輝く剣を振り上げる。
「かつて天を裂き、地を割った破壊の極光、原初の人間ならば覚えてるだろう?」
「黄金郷の門……!」
「あ……あ…………!!」
思わず目を剥くアルテミスに対して、アポロはその場に崩れ落ち、膝を付いた。
「立ちなさい、アポロ。仇討ちの時です」
恐怖心を捩じ伏せ、アルテミスは気丈にも剣を構える。
「畜生……!!」
その姿に何か思うところが有るのか、アポロはギリギリと歯を鳴らしながら顔を上げ、創造神を睨み付けた。
「悪い、取り乱した。アルテミス……準備は出来てるか?」
「はい!いつでも構いません!」
アルテミスが頷くと同時にアポロは魔力を手元に集中させ、
「【命を刈りし鎖鎌。魔なる力を絡め、引き寄せ、切り刻め】」
詠唱と同時にアポロの魔力はアルテミスの剣に絡み付く。
数秒後には剣に青い魔力が炎のように揺らめいていた。
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青く光る剣を持ったアルテミスと、金色に輝く剣を持った創造神が相対する様は決戦を予感させるものだった。
「言葉は要らん。塵よ、かかって来い!」
不敵に笑いながら創造神は剣に魔力を集中させる。
途端に剣を覆う金色の光はより一層輝きを増した。
金の魔力が集約するそれが振り下ろされれば正面にいるアルテミスは確実に消し飛ぶだろう。
だがアルテミスは避けるそぶりを見せない。
それどころか彼女は創造神をギロリと睨み付けた。
「痴れ者が、早々に消え去りなさい!!」
彼女の言葉に反応し剣の青い光がより一層強くなる。
その様子は、アポロとアルテミスの決意の強さの表していた。
不敵な笑みを崩さぬまま高笑いを上げると、創造神は剣を振り上げる。
「ならばその身で受けてみろ。 黄金郷の門!! 」




