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64 極悪非道エルフと神話の大戦 1

これは遥か昔の物語。

世界には一柱の神がいた。

全てを作り上げ、全てを見守り、そして全てを無へと帰す。

永遠とそれを繰り返す神を原初の人間はモーガリアと呼び、第二の人間はヤハウェと呼び、彼を崇めていた。


そんな彼にも弟がいた。

神に成り損ない、冥界にて悪魔の王となっていた彼を原初の人間はアルサデスと呼び、第二の人間はルシファーと呼び、彼を恐れていた。



$$$



ある時、二度も世界を滅ぼし、再び世界を作らんとする兄に弟は尋ねた。


「何故創った世界を二度も壊したのです?」


それを聞いた兄は笑ってこう答える。


「決まっているだろう。地上を我が物顔で歩いていた愚かな塵共が身の程を知った瞬間の顔が見たいからだ」


その答えに怒り狂った彼は兄の胸ぐらを掴み、力の限り叫んだ。


「貴方は大地で暮らしていた者達の気持ちを考えたことはあるのですかっ!?家族と幸せな時間を過ごしていた者達が冥界で嘆く様を見たことはありますかっ!?無いでしょう?そんな貴方に世界を創る資格など無いっ!!」


彼の言葉に逆上した兄は彼を殴り付けると、底冷えするような目を弟に向けて怒鳴り声を上げる。


「塵に心を寄せるとは落ちたものだな弟よ。殺されたくなければ我が前から去れっ!!」


その言葉に最早交渉の余地など無いと知った彼は、兄に背を向けると静かに言った。


「今に見ていなさい。原初の人間は貴方を赦してはいない」


それだけ言うと彼は冥界へと戻っていく。

兄は彼の背を眺めながら鼻を鳴らすと、再び世界を創り始めた。



$$$



第三の世界が完成し、人々が兄の事を崇め始めたと知るや否や、彼は冥界から飛び出して第三の世界へと足を運んだ。


道行く人々に兄のしてきたことを告げて回る彼だが、人々は全く耳を貸さない。

それどころか創造神に楯突く悪魔だと迫害すら受けるようになった。


第三の人間に愛想が尽きた彼は精霊達の集まる世界樹へと足を運び、精霊王に事の次第を伝えた。

すると精霊王は全ての精霊に発破をかけ、たちまち彼の味方を増やしていく。

こうして彼は精霊達の賛同を手土産に冥界へと戻っていった。



次に彼は冥界から二人の人間を選び出した。


一人は弓とナイフ、そして剣を使いこなす白髪赤目の女。

名はアルテミス。


もう一人はありとあらゆる魔法を使いこなす黒髪青目の男。

名はアポロ。


冥界にいる人間の中で最も強く、最も創造神を怨んでいる二人だ。



アルテミスとアポロを呼び寄せると彼は二人に特別な力を与えた。

周囲に漂う魔力を吸い取る力だ。


不思議そうな顔をする二人の耳に彼はこう囁いた。


「二人が不仲になれば命は無いものと思いなさい」


言葉の真意が分からない二人は思わず互いの顔を見合わせる。

そんな二人に今はそれで良いとだけ告げると、彼は配下の悪魔達に彼等を鍛えるように指示を出し、冥界の闇へと姿を消した。



$$$



年月は過ぎ去り三年後。

最早敵無しとなったアルテミスとアポロの前に姿を現すと、彼は二人を賞賛した。


「素晴らしい!これで君達は神をも葬る力を手にしたわけですが…………どうしますか?モーガリアを殺したいですか?」


「当たり前です!」

「何の為に鍛練を積んだと思ってるんだ!」


アルテミスとアポロは口々にそう答える。

二人の様子に彼は決戦の時が来たと覚り、全ての精霊と悪魔を冥界に呼び寄せた。



瞬く間に冥界は騒がしくなり、集まった精霊達と悪魔は口々にこう叫ぶ。


「「創造神討つべし!輪廻の魔神(カランノムル)討つべし!」」


総勢十万の戦士達による大合唱は冥界のみならず神界までも揺さぶり、彼の兄を驚愕させた。

反乱の火が付いた者達は止まる気配もなく、彼等の王へと視線を向ける。


その視線を一身に受け止めていた彼は高笑いを上げると、アルテミスとアポロを自分の前に押し出した。


「皆聞きなさい!この二人こそ総大将であり、切り札ですっ!此度の戦いにおいて二人の命は絶対であると知りなさいっ!!」


「「うぉぉぉぉおっ!!」」


彼の言葉に沸き立つ戦士達。

その様子にアルテミスとアポロは驚きを隠せなかった。


「私達が指揮を取るのですか!?」

「やったこと無いぞ!」


「心配はいりません。戦いが始まれば彼等は狂戦士の如く暴れまわります。命令なんて聞きませんよ」


優しく語る彼に対し、不思議だと言いたげにアルテミスは首を捻る。


「それなら何故私達の命は絶対であるとしたのですか?」


その言葉を聞いた彼は儚げに笑い、こう答えた。


「彼等に君達を殺させないための保険です」



$$$



彼に導かれ、アルテミスとアポロは十万の軍勢を引き連れて神界の扉へと歩みを進めていく。

やがて白く輝く巨大な門が見えてくると戦士達は咆哮を上げ、闘志を昂らせた。


アポロに軍勢を止めさせると、彼は一人で門に近付き、重く白いそれに手を押し当て静かな声で二人に告げる。


「アルテミス、アポロ。魔力を出来る限り広く展開しておきなさい」


「何故です?」

「何でだ?」


首を傾げる二人に微笑むと彼は優しく言った。


「死にますよ?」


その言葉と同時に二人は軍勢を包むように魔力を展開する。

アルテミスの赤い魔力と、アポロの青い魔力が混じり合い、辺りは幻想的な景色になった。


「皆、行きますよ!」


そう言うや否や彼は門を開け放つ。

光輝く矢が吹き荒れたのはその直後だった。

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