57 極悪非道エルフと忌子狩りの王 2
最初に動いたのはルナリアだった。
地面を蹴ってリュクセリ王に飛び掛かると、ルナリアは彼の首筋に狙いを定めてナイフを構える。
しかしルナリアの考えを読んでいたのか、リュクセリ王は彼女の一撃を剣で軽々といなし、自身の後方へと弾き飛ばした。
「よっ、と」
空中で身体を反転させて華麗に着地すると、ルナリアは間髪入れずに、再びリュクセリ王に飛び掛かる。
「ハッ!!」
「同じ手を使うのは愚策だと解らんのか?」
余裕綽々と言うように笑いながら、リュクセリ王は襲い掛かるルナリアを死角から切り上げた。
「っ!」
だが持ち前の直感と瞬発力でルナリアは剣を防ぐようにナイフを構え直し、衝撃に備える。
次の瞬間、ギィン!という凄まじい金属音と共に、ルナリアは真上に吹き飛ばされた。
「フンッ、随分楽な戦いであった」
後は落ちてくる所を剣で突き刺してしまえば終わり、そう考えたリュクセリ王は気楽に構えている。
しかしルナリアは空中でナイフをベルトに戻し、弓を構えると魔力を籠めた矢を三本つがえた。
「油断し過ぎだ、【禁弓四式 鳳仙花】!」
黒い魔力を帯びた三本の矢は簡易詠唱と同時に分身を作り出し、リュクセリ王に降り注ぐ。
「ガァァァァア!!」
数多の矢に身体を貫かれ、苦悶の声を上げながらも、リュクセリ王は剣を使って懸命に矢を弾いていった。
だが全ての矢を防ぎきれるわけも無く、瞬く間にリュクセリ王は針鼠の様な姿に変貌した。
「クッ、ハァッ!!…………これで終わり、か?」
やがて矢の雨が収まり、リュクセリ王が一息ついた瞬間―――。
「死ね」
「ングッ…………!?」
―――彼の身体をルナリアの剣が串刺しにしていた。
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予想外の出来事に目を白黒させているリュクセリ王。
そんな彼から剣を引き抜くと、ルナリアはそれに血が着いていない事を確認して溜め息を吐いた。
「ジジィ、普通の体じゃないな?」
「今頃気付いたというのか?小娘」
剣を杖代わりにして立ち上がりながら、リュクセリ王は嘲笑うように話を続ける。
「この体はトルテナコルトが考案し、フェルディーアが作りあげ、リンオルティの祝福を受けた物だ。そう簡単に壊れはしない」
そう言ってリュクセリ王は自慢気に胸を反らす。
一方、彼の言葉を聞いたルナリアは、邪悪な笑みを浮かべて右手に剣、左手にナイフを構えた。
「なら試してやる」
「無駄なことを…………」
すっかり傷が塞がったリュクセリ王は再び二本の剣を構え、体に白い魔力を纏わせる。
…………どうやら彼はまだ本気を出していなかったらしい。
「殺す…………!」
短くそう呟くと目から黒い光を迸らせ、ルナリアは再びリュクセリ王に飛び掛かる。
「馬鹿の一つ覚えもいい加減飽きる。他は無いのか?」
呆れたように溜め息を吐くと、嘗めきった様子でリュクセリ王はルナリア目掛けて剣を振るった。
その瞬間ルナリアは高く飛び上がり、リュクセリ王の剣を避けると、首を蹴って彼の頭を吹き飛ばす。
「ざまぁみろ」
ボールの様にコロコロと転がっていく頭を見送りながら、ルナリアはバタバタと暴れる体を地面に引き倒した。
司令塔を失って抵抗する事も出来ず砂の上に叩き付けられた体をルナリアは冷ややかな目で見下ろし、魔力の流れを探る。
「…………あった」
やがて右肩に外部から魔力を受け取っている部分を見付けると、ルナリアは剣を逆手に持ち直し、迷わず右肩を貫いた。
途端に剣はリュクセリ王の魔力を吸い付くし、彼の体は骨だけとなる。
「終わった、な」
敢えてその言葉を口にすると、ルナリアは骨に背を向けて歩き出した。
本当にこれで終わりなのか?と自問自答しながら、ルナリアは歩き続ける。
地面が凄まじい揺れ方をしたのは、その数秒後の事だった。
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「…………収まったか」
地面の揺れが収まったのを確認して、ルナリアはホッと息を吐く。
「にしても拍子抜けするくらい、呆気なかったな」
以前戦ったときはもっと魔力を保有していた。
それこそ神と同じくらいは。
それが今回はどうした事だろう?外から魔力を受け取って存在を保っているような有り様だ。
まるで脱け殻を相手にしていた様な感覚を覚え、ルナリアは疑念を深めていく。
そんな彼女がうーむ、と唸った時だった。
ドドドドドドッ!!
地面が音を立てて再び揺れ始める。
先程の揺れとは比べ物にならない程強い横揺れに耐えきれず、ルナリアは思わずその場に倒れ込んでしまった。
「クソッ、今度は何だ!?」
ストレス発散も兼ねて叫ぶルナリア。
しかしその問いに答えられる者など此処にいる筈もない。
と、思いきや―――。
「グァァァァラァァァァア!!」
―――答えとしては十分な咆哮が砂の大地を揺らした。
【不滅の身体】
創造神、豊穣神、魔法神の三柱が打倒ルナリアの為に開発した魔法。
常に魔力を供給しなければならない上に、適応する肉体を一から造り上げる必要がある為、基本的に人が使うことは出来ない。
ちなみにトルテナコルトは嫌々参加させられたので、かなり杜撰な仕上がりである。




