55 極悪非道エルフの前哨戦
上空を黒い風が支配し、ハイエルフ達の悲鳴が響く中、一人と一個は王宮へと続く道を悠々と歩いていた。
「なぁ、ルドル。お前今まで何処に居たんだ?」
剣を無造作に振り回しながらルナリアは武骨なゴーレムに話し掛ける。
「グゴッ!」
短くそう答えるとゴーレムは顔の前に魔法陣を展開し、光線を発射した。
刹那、光線に撫でられた者達は断末魔を上げる間もなくその体を炭に変える。
その光景を眉一つ動かさずに眺めながら、ルナリアは剣を振るって遠くから飛来する矢を叩き落とした。
「ったく、隠してないで言ったらどうだ?」
「グ……グゴ、ググゴ…………」
渋々といったように少し言葉を濁しながら、ゴーレムは答える。
「へぇ、あんなとこによく住めたもんだな」
するとルナリアは顔をしかめてゴーレムを見上げ、それと同時に剣を振り上げると、襲い掛かってきた敵を股下から頭にかけて切り裂いた。
「ググ、ゴググゴ!」
憤慨するように声を荒らげ、ゴーレムは鉈を持った四本の腕をブンブンと振り回す。
それと同時に数多のエルフの首が宙を舞い、地面に落ちる度にゴトリと低い音を響かせた。
「そーかよ。なら今度遊びに行くか」
「ゴググゴ、ゴガ。グガゴ、グガ!!」
「んだと?オリハルコンなんて高級品中々手に入る訳無いだろ。それを手土産に要求するっていうのか?」
「グゴッ!」
「分かった、見付けたら持ってってやる。それより今は目の前の敵に集中しろ」
そう言うとルナリアは足を止め、王宮の門を警護するエルフ達を一瞥し、口元を歪める。
「私は優しいから忠告してやる。地獄に落ちたくないなら、今すぐ天国に登れ」
「…………やれ」
「「…………了解」」
その言葉に反応することなく、エルフ達は武器を構えると、一斉に攻撃を始めた。
「ハッ、それがお前らの答えか!」
そう言って後方から放たれる矢と魔法を眺めながら、ルナリアは赤い魔力を砂嵐のように展開する。
途端に飛来した魔法は掻き消え、矢は錆びた鉄屑に姿を変えた。
「ゴグガッ!!」
お返しと言わんばかりにゴーレムは光線を発射し、前衛で剣を構えていたエルフ達を焼き払う。
「…………退くぞ」
「「…………了解」」
後衛のエルフ達が逃げようかと画策した瞬間、今度は空を飛び回っていた矢が一斉にエルフ達に襲い掛かった。
次々と頭や心臓を貫かれ、何も言わずに倒れていく敵達を眺めながら、ルナリアは小さく舌打ちする。
「悲鳴くらい上げろよ。つまらないだろ?」
『上げさせる訳無かろう?貴様が楽しむのは分かっておる』
何処からか嗄れた低い声が辺りに響いた瞬間、上空を飛んでいた矢は全て地面に叩き落とされ、先程まで果敢に戦っていたゴーレムが凄まじい雷を受けて崩れ去った。
その様子を見てルナリアは不敵に笑い、声を張り上げる。
「よう、リュクセリ王。今すぐ地獄に落ちろ、さもなければ私が落とす」
『忌子の小娘が…………イキがるのも大概にせんか』
「その言葉返してやるよ、耄碌ジジィ。今回は止める奴がいないからな?」
『フンッ、そうか。ならば我も奥の手を使うとしよう』
リュクセリ王がそう言った途端、ルナリアの周りに数多の魔法陣が現れ、次々とエルフ達が召還された。
今まで戦ってきた幻影のハイエルフとは違い、一人一人からかなりの量の魔力を感じ取り、ルナリアは目を興味深そうに細める。
それを見越していたのか、リュクセリ王は高笑いを上げると、自慢気に語り出した。
『これ等は全て我が生きた時代のハイエルフよ。小娘ならば覚えておろう?』
「「ウォォォォオ!!」」
嘲笑うような声色でリュクセリ王はルナリアに語りかけ、同時にハイエルフ達は鬨の声を上げる。
対してルナリアは項垂れるように下を向いて、静かに魔力を集中させた。
「【生ける屍達よ、慟哭せよ。第四神位オルゾナザイン、解封】!」
詠唱と共にルナリアの体表に黒い紋様が現れると、すぐにガギャンという音を響かせて崩れ去った。
途端にルナリアが纏っていた魔力は黒く染まり、彼女の周囲にある物を瞬く間に侵蝕していく。
大理石の石畳は砂に変わり、近くを飛んだ蝶は外骨格を残して消え去った。
「弓を構えろっ!!」
「「おうっ!!」」
近寄るのは危険だと判断したのか、ハイエルフ達は一斉に後退して弓を構え、矢に手を伸ばす。
しかしルナリアが顔を上げた次の瞬間。
「グッ、ガッ!?」
「カハッ、嘘……だ!」
「お、おのれ……ゲアッ!!」
ハイエルフ達は次々と苦悶の表情を浮かべて、その場に倒れていく。
彼等が最期に見たであろう光景は―――。
「やっていいことの範疇を越えたんだ………… 覚悟は出来てるな? クソジジィ」
―――邪悪な黒い光を放つ、二つの眼だった。
【オルゾナザイン】
かつてあった神々同士の戦いに破れ、悪魔の王となった元冥界神。
信仰する者はおろか、存在を知る者も殆どいない。
【死の目】
視界に映る格下の敵の魔力を瞬時に奪い去る。




