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50 極悪非道エルフと昼休み 2

三十分後―――。


「そらよっ!!」


ゴキッ!ビチャッ!!


怒りのあまり目を真っ赤に光らせ、ルナリアは足に力を籠めてアリスの頭を叩き割る。


「おねーさん。もう、いいんじゃない?」


二十回目ともなると流石に見飽きたのか、カインは欠伸を噛み殺しながらルナリアの裾をクイッと引っ張った。


「どうだろうな?アリス(こいつ)は魂に刻み込まないと同じことを繰り返すぞ?」


無惨な姿になったアリスを蔑むような目で見下ろしながらそう言うと、ルナリアは近くの幼樹に手をかざした。


「ルナリア・フォルメールの名において、貴様の魂を召し上げる」


いつも通り魔力を抜き取ると、ルナリアは目を閉じる。


「第四神位権限に基づき、彼の者を冥府より召還する」


文言と共にルナリアは先程手に入れた魔力を半分くらいアリスの体に流し込んだ。

だが、それだけでは蘇生の工程は終わらない。

落ち着き払った様子でルナリアは更に別の魔法の詠唱を始める。


「【療霧よ来たれ。彼の者を包み、癒し、傷を塞げ】」


途端に残りの魔力は緑色に輝く霧となり、アリスの残骸に纏わり付いた。

するとアリスの残骸はニチャニチャとグロテスクな音を立てながら再生していく。


「おー、すごいね!」


その様子を繁々と眺めながら、カインは彼女の体を突っつこうと手を伸ばした。


「こら、勝手に弄るな」


カインの手をペシッと叩いて行動をたしなめると、ルナリアは霧を注視し続ける。


やがて霧がどこかへ消え去ると、そこには体が元通りになったアリスが横たわっていた。



$$$



「さてと、落ち着いた所で詳しい話を聞かせてくれるか?」


アリスの代わりにラグザールが用意した椅子に座り、ルナリアは土下座しているアリスの頭を踏みつける。


「お嬢様……?私を何回殴ったか覚えてる?」


恐る恐ると言った具合にアリスはルナリアに尋ねた。


「全部で五十三回だ。その内二十回は脳ミソをブチ撒けてたな。で、何があったって聞いてんだ。早く答えねぇと頭割るぞ?」


そう言うと、まだ満足していないのかルナリアは足に力を籠める。


「か、カイン君を食べようとしただけだよ!」


「ほぉ、いつから食人主義カニバリズムに染まった?」


表情を消して、ルナリアは聞き返す。

するとアリスは反論しようと、必死に手をバタバタさせた。


「誤解だよ、お嬢様!私が食べようとしたのはカイン君の童貞だからね!?」


「そうか、なら安心だ」


そう言うと気味が悪いくらい綺麗な笑顔を浮かべ、ルナリアはアリスの頭から足を退ける。


ようやく折檻が終わったと思い、アリスが笑顔で頭を上げた直後―――。


「…………何て言うとでも思ったか?」


ドゴッ!!ビチャッ!!


―――ルナリアの蹴りによってアリスの頭が割れた。

本日二十一回目である。


面倒だと言いたげに溜め息を吐きながら、ルナリアは蘇生の準備に入るのだった。



$$$



「ごめんなさい、もうしません」


そう言うアリスは地面に額を擦り付けて、ルナリアに詫び続けている。

ルナリアとしては、もう何度見たか覚えていない程見慣れた光景だ。


「当たり前だ、ボケ」


ラグザール特製のパフェを食べなから、ルナリアはアリスをギロリと睨み付ける。


「ヒィ!」


さながら蛇に睨まれた蛙の如く、カタカタと身を震わせるアリス。

一方、当事者であるカインは呑気にクレープを頬張っている。


「おねーさん、もうゆるしてあげたら?」


クレープを飲み込み、欠伸をすると、カインはヘニャっと笑ってルナリアを見た。

するとルナリアはチッと舌打ちして目を閉じ、様々な事を思案する。

やがて目を開けると、ルナリアは不敵に笑ってアリスを見下ろした。


「そうだな。後の処理はラグザールに任せるか」


ルナリアがそう言い終わるや否や、彼女の背後に控えていたラグザールがフッと優しく微笑んだ。


「勘弁してよ!そんなことしたら夫婦の営み一週間コースだからね!?」


思わずアリスは顔を真っ赤にして悲鳴を上げる。

一方ラグザールはパチンッと指を鳴らしてアリスの背後に転移すると、フワリと優しく彼女を抱き締めた。


「不満ですか?アリス」


「ふ、不満じゃ無い……です…………」


塩らしく俯くアリスを横目に、ルナリアはパフェに乗っていた苺を口に放り込む。

砂糖漬けにしていたのかと疑うほど甘い苺にルナリアは頬を弛ませると、パフェをジッと見ているカインに微笑んだ。


「…………食べるか?」


「いいの!?」


思わぬ提案に目を輝かせるカイン。

そんな彼を見てルナリアは苦笑しながら頷く。


「あぁ、好きなだけ食え」


「やった!」


カインはそう言って口を大きく開け、ルナリアに顔を近付けた。


「おい、何のつもりだ?」


訳が分からないと言うように、ルナリアは首を傾げる。


「お嬢様、鈍感だね~。カイン君は食べさせて欲しいんだよ」


ラグザールにキスマークを付けられながらも、アリスは余裕そうに微笑んで言った。


「お前は黙ってイチャついてろ。ったく、お前はいつまで口を開けたままにしてるんだ?カイン」


結婚して二千年以上経つラブラブ夫婦に顔をしかめながら、ルナリアはカインに語りかける。


「おねーさんにたべさせてもらうまで!」


期待に目をキラキラと輝かせ、そう答えるカイン。


「仕方ない奴だな…………ほら、口開けろ」


そんな彼を見て苦笑しながら、ルナリアはパフェをすくって彼の口へとスプーンを運んだ。

食らい付くようにしてパフェを食べると、カインは幸せそうにニパーッと笑ってルナリアに擦り付く。


「こら、離れろ」


慌ててスプーンとパフェを机に置き、ルナリアはカインを引き剥がそうと彼の頭を押し返した。

だがその程度で引き下がるカインではない。

今度はルナリアの首に手を回して、ギューッと力強く彼女に抱き付いた。


「おかーさん、すき~」


「誰が、おかーさんだ!」


文句を言っているルナリアだが、その顔はどこか楽しそうに見える。



そんな二人を遠目に見ながら頬を弛ませていたアリスだが、異様な気配を察知するとラグザールにスッと目配せした。

対してラグザールは理性で本能を捩じ伏せ、仕事モードに戻ると、アリスに頷き返す。


束の間の休息は終わりを迎えようとしていた。

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