48 極悪非道エルフの国滅ぼし ~セレナディア皇国編~ 10
超高速でカインの所へ飛来するルナリアを待ち構えていたのは数多のハイエルフを従えたレイドールだ。
ルナリアはレイドールの首に意識を集中し、殺しの機会を今か今かと待ち続ける。
そしてレイドールが間合いに入った途端、ルナリアは剣を一気に振り抜き、そのまま地面に着地した。
「な、何だ?」
慌てて振り向こうとするレイドールだが、その首は既に切断されている。
それに気付けなかった彼は振り向いた衝撃で胴から首を振り落とし、予測しなかった形で生涯を終えた。
だが周囲に居るハイエルフ達は何が起こったのか理解が追い付かないらしく、ボーッと突っ立っている。
そしてワンテンポ遅れて現状を認識した途端―――。
「「ギャァァァァア!!」」
―――ハイエルフ達は青い顔をして一斉に叫び声を上げた。
そんな彼等を見てルナリアは高笑いを上げながら、ゆっくりと立ち上がる。
「これでセレナディアは終わりだな?ざまぁみろ」
「おねーさん!?」
聞き慣れた声を聞いて安堵しつつ、ルナリアは邪悪な笑みを浮かべて背後を振り返る。
「よう、カイン。説教は後だ、今は馬鹿共の皆殺しに専念するぞ!」
ルナリアはそう言うと弟子の返事を待たず、血に濡れたマントを翻してハイエルフ達と向き合い、彼等を睨み付けた。
「さて、私の弟子に喧嘩を売ったんだ…………覚悟は出来てるな?」
「「…………!!」」
ハイエルフ達が口を開くよりも早く、ルナリアは鞘からもう片方の剣を抜いて目の前に立っていた二人の首を切り落とす。
戦闘馴れしていないのか、ハイエルフ達は呆気なく命を散らした仲間を前に叫ぶことすら出来ず、ただ茫然と立っていた。
…………腰抜け共め。
「生き残りたいのなら意地汚く足掻いてみせろ、己の事しか考えられない偽善者が一番得意な事だろ?」
値踏みするような表情でハイエルフ達を見回しながら、ルナリアは嘲笑うように言った。
高貴なエルフ様は挑発に乗りやすい性質を利用して小馬鹿にすれば簡単に隙が生まれる、というのがルナリアの考えだ。
しかしルナリアの予想とは裏腹に、その言葉に反論する者はいない。
何か変だとルナリアが警戒した直後、ハイエルフ達は弓を捨て、剣を抜いて一斉にルナリアに襲いかかって来た。
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「へぇ、殺る気になったのか?」
手近にいたエルフの胴を薙いで二つに分離させ、ルナリアはニヤッ笑った。
「…………」
対してハイエルフ達は相も変わらず無言のまま、攻撃を続けてくる。
左右から同時に放たれた突きを、ルナリアは一歩後ろに下がって避けると、両手の剣で彼等の頭を同時に切り落とした。
「…………」
それでも無言のハイエルフに失望したルナリアは剣を鞘に戻し、深々と溜め息を吐く。
「…………興醒めだ。そのまま何も言わずに消え去れ」
途端にルナリアから魔力が放出され、ハイエルフ達を包み込んだ。
数秒後魔力を回収したルナリアは、目の前の光景に思わず苦虫を噛み潰したような顔をする。
「クソッ、やっぱりか!」
五十人はルナリアの魔力に巻き込まれた筈だが、後に残ったのは数人分の白骨だけだった。
「どうしたの?おねーさん」
ひどく眠そうな声で尋ねると、カインはルナリアのマントをクイッと引く。
「どうもこうも無い、ハイエルフの死体が消えやがった。今回の件はリュクセリ王が関わってやがる」
「さいしょから、わかってたよね?」
「煩い、何回認識しても嫌悪感が凄いんだよ」
不機嫌そうにそう言うと、ルナリアはワシャワシャとカインの頭を撫でる。
「って、ちょっと待てよ。カイン、私のマントはどうした?」
「とるてなこるとに、もやされた!」
ぴょんぴょん跳ねながら報告するカイン。
それを見て頬を綻ばせるルナリア。
端から見れば微笑ましい二人だが、決して忘れてはならない。
この二人がやられっぱなしで終わるわけがない、イカれた殺人鬼気質であることを。
「良し、この一件が片付いたら神界に乗り込むぞ。裏切り者共々シバき倒してやる」
「ころさないの?」
「あいつら殺すと後任を探すのが面倒なんだよ。それよりはトラウマ植え付けて下僕にする方が楽だ」
そう言うとルナリアは都市の外へと歩いていく。
「どこいくの?」
ルナリアの後をトテトテと走って付いていきながら、カインは目をキラキラさせて聞いた。
「決まってるだろ、オーリンデ大樹海の最奥にある王の墓だ」
「ふーん」
無表情で吐き捨てるように答えるルナリアに対し、カインは詰まらなさそうに返事をする。
「聞いておいてその態度か?」
「だってしたいしか、ないんでしょ?つまんないよ」
「そーかよ」
子供は難しいと心の中で呟きながら、ルナリアは溜め息を付いた。
自分も師に苦労をかけたのだろうか?という疑問に対して否定できない事に気が付いたルナリアは、申し訳なさで胸が一杯になる。
…………師は今も元気なのか?そもそも生きているのか?
「いきてるうちにあってみたかったなー」
一瞬自分の師に会いたいと言われたのかと思い、ルナリアはギョッとする。
そんな訳が無いと思って首を横に振ると、ルナリアはカインに視線を向けた。
「何でだ?」
「ころしたら、たのしそうだから!おねーさんはなんにんの、おうぞくをころしたの?」
「…………もう覚えてないな」
フッと笑いながらルナリアは答える。
まるで嵐のような師弟が街から出ていくのを見送りながら、数少ない生残者は息を殺して震えていた。




