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46 極悪非道エルフの国滅ぼし ~セレナディア皇国編~ 8

それは決闘が始まった直後の事だった。

ルナリアの殺気が数百倍に膨れ上がり、リンドールは否応無く圧倒される。

そして当然の事ながら二人を囲んでいた虫とハイエルフは金縛りに掛かった様に動けなくなった。


「どうした?一国を背負った王なら、この程度どうってことないだろ?」


「クッ…………」


完全に予想外だった、とリンドールは悔しそうに歯噛みする。

これではルナリアに隙ができてもハイエルフは動けそうもない。


「こ、これでは本当に決闘になってしまう……!」


恐怖にカタカタと震えるリンドール。

一方、全てを見透かしていたルナリアは意地悪く笑みを浮かべ、リンドールの剣を軽く弾いた。


「ひぃっ!?」


キィンという甲高い音に隠れる程小さな声でリンドールは悲鳴を洩らす。

だが耳聡くそれを聞き取り、ルナリアはフンッと鼻を鳴らした。


「なんだ、退屈しのぎにもならないな」


「っ!嘗めるなっ!!」


焦燥に駆られ、リンドールはルナリアの首を狙って剣を振るう。

その剣を軽々と受け止め、ルナリアはリンドールの腹を蹴り飛ばした。


「グエッ!」


受け身を取り損ね、地面に叩きつけられたリンドールは全身に走る痛みに思わず呻き声を上げる。

そこへ追い討ちを掛けるように、ルナリアはリンドールの右肩を踏みつけ、嗜虐的な笑みを浮かべた。


「不様もいいとこだ。蛙の方がましな悲鳴を上げるぞ?」


「グッ…………!」


リンドールは起き上がろうと必死にもがくが、ルナリアの力は想像以上に強く、上体を起こすことさえ出来ない。


「…………こんなものか」


残念そうにポツリと呟くと、ルナリアは剣を振り上げる。

彼女の視線の先にあるのはリンドールの左肩だ。


「ひっ!?た、助け……助けてくれっ!」


これから自分の身に起こることを予見したリンドールは、必死にハイエルフ達に助けを求める。

だがルナリアに気圧されたハイエルフ達が彼の要請に答えられるわけもなく、リンドールは絶望に顔を歪めた。


「契約施行、だ」


表情を消し去り、ルナリアは剣を持つ手に力を籠める。

これで終わりだ、とルナリアが安堵した時―――。


『森の子よ、諦めるにはまだ早いです』


―――聞きたくもない声がどこからか響いた。



$$$



「り、リンオルティ様!?」


相変わらずルナリアに踏まれたままリンドールは驚きの声を上げる。


「今度はお前かっ!!リンオルティ!!」


ルナリアが叫ぶと同時に彼女の殺気は最高潮に高まり、赤い魔力が砂嵐の様に吹き荒れた。

ハイエルフ達は何が起こったのか理解する間もなく骸骨に姿を変え、獲物を食べ損ねた虫達はギィギィと不満そうに鳴いている。


怒りが収まらないルナリアは足下で転がっているリンドールを思い切り踏みつけ、彼が上げる悲鳴で耳を潤した。


「ん、まてよ?」


そして、ある違和感に気付く。


「おい、リンドール。何で生きてるんだ?」


「クッ……足を退けろ…………!」


足下で喚くリンドールは何故か骸骨になっておらず、確かに生きていた。

彼の体を光のベールが覆っているのを目敏く見つけ、ルナリアは目を吊り上げる。


「リンオルティの加護を受けたのか…………死ぬより恐ろしい目に遭わせてやるから咽び泣けクソジジイ!」


暴言を吐き散らすと、ルナリアは剣を振り上げる。

だがその直後、リンドールはルナリアの足を掴んで彼女を地面に引き倒した。


「なっ!?」


混乱しながらもすぐに起き上がり、ルナリアは剣を構えてリンドールと相対する。


「ククッ、力が溢れてくるぞ…………!」


立ち上がりながら、リンドールは不思議な紋様が浮かんだ己の腕を見て悦に入る。


「クソッ、質の悪い魔法まで残していきやがった……!」


悪態を吐きながらルナリアはリンドールに現れた紋様に目を凝らした。


「チッ、最上級の身体強化魔法か。リンオルティも支援を惜しむつもりは無いみたいだな」


そう言ってルナリアが溜め息を吐いた直後―――。


ガギャンッ!!


―――リンドールが凄まじい速度で剣を振るった。


辛うじて剣を受け止め、ルナリアは剣を押し返し、バックステップで後方へと退避する。

対してリンドールは涼しい顔をして不敵に笑った。


「どうした?契約者よ。まだほんの少ししか力を籠めていないぞ?」


悠々とリンドールは話しているが、既に肩で息をしている所を見ると、あまり余裕は無いらしい。

何せ剣をたった一回振っただけでこの有り様だ。


「…………嘘だな。今のがお前の本気だろ?」


「そう思うなら試してみるか?」


そう言うリンドールは何故か平然としていた。



$$$



十分後―――。


王座の間に何度も何度も金属音が鳴り響くいていた。

久々の戦いにルナリアは興奮状態に陥り、血走った目が飛び出るほど大きく開かれ、口には不気味な笑みが絶えず浮かんでいる。


「ヤァァァァア!!」


「ハッ!!」


ギィンッ!!


両者の剣がぶつかり、鍔迫り合いになった所で、リンドールは渾身の力を籠めてルナリアを弾き飛ばした。

だがルナリアは空中でクルリと回転して綺麗に着地すると、邪悪な笑みを浮かべる。


「もう終わりか?リンドール。私はまだ指一つ分しか本気を出していないぞ?」


意地悪く笑うルナリアに一矢報いてやろうと、リンドールは思案を巡らせた。

やがて一つの案に辿り着くと、リンドールは高笑いを上げてルナリアを嘲笑する。


「そうか!ならば本気を出させてやろう」


そう言うとリンドールはポケットから鏡を取りだし、ルナリアに放り投げた。

片手で鏡を受けとり、ルナリアは右目だけでそれを覗きこむ。

そして彼女は己の目を疑った。


「なっ!?」


そこに写っていたのは自分の姿ではなく、弓を構えた大量のハイエルフと、彼等の射線の先にいるカインの姿だ。

ナイフを振り上げているのを見ると、どうやらカインは誰かに止めを刺そうとしているらしい。


「どうだ?本気を出せそうか?」


リンドールがそう言った瞬間、鏡の中で一人のハイエルフが矢を放ち、カインのナイフを叩き落とした。


もう一刻の猶予もない。

そう思った途端、ルナリアの中で何かが崩れ去った。

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