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39 極悪非道エルフの国滅ぼし ~セレナディア皇国編~ 1

異扉ゲートを出た師弟を待っていたのは、都市を囲むようにして群生している木々と、木で出来た巨大な門だった。

地上は丁度昼だったようで、南中したばかりの太陽が辺りに鬱蒼と茂る木々を鮮やかに照らし上げている。


「クソッ、もう少し遅い時間に来れば良かった」


不機嫌そうに呟くとルナリアは、日光を遮るように手を翳した。


「ほんとだ、まぶしーね」


フードを深く被りながらそう言って、カインは眩しそうに目を細める。

やがて目が慣れたのか辺りをキョロキョロと見回して首を傾げた。


「ところで、おねーさん。ここはどこ?」


「エルフィア大陸、セレナディア皇国、首都アオルマリアだ。綺麗な所だろ?」


「すごく、こわしたくなるね!」


「その通りだ、そしてそれを実行するぞ」


「やったー!」


相変わらずイカれた師弟である。


その時、二人を諌めるように背後から矢が三本飛来した。

ルナリアは素手で矢を掴んで受け止めると、無言で矢を投げ返す。


「ガッ……!」


僅かな悲鳴と共に両肩と左足に矢を受けたハイエルフが、木の上から落ちてきた。

すぐさま彼に近付くと、ルナリアは躊躇なく彼の頭を踏み割る。


「うわ、汚ないな……」


脳や目玉が頭から解放されて旅に出ていくのを嫌そうな目で眺めながら、ルナリアは脳内で作戦を練っていく。

少しの間を置いて彼の姿が煙のように消えてしまったのを確認すると、ルナリアはニィッと笑ってカインに向き合った。


「カイン、防御魔法は使えるな?」


「うん!」


「なら、今すぐ自分の周りに展開しておけ」


「わかった!でも、おねーさんは?」


「私は自分で避けられる。だが今回はお前を守る余裕があるか分からない、悪いが自分の身は自分で守ってくれ」


「わかった!【防壁展開ノル・テーラ】」


詠唱と共にカインを青い防壁が包み込んだ。

ルナリアは満足気に頷くと、マントを翻して巨大な門へと歩いていく。


「さーて、ノックで出てきてくれると嬉しいんだが…………」


そう言ってルナリアは拳を振り上げ、力を込めて門に降り下ろした。


ドオォォォォオン、という轟音が周囲に響き渡り、門の中はにわかに騒がしくなる。

大方トロールの襲撃と勘違いしているんだろう。


「駄目だ、もう一回やるしかないな」


ルナリアは再び拳を振り上げ、先程よりも力を込めて門に叩き付ける。

するとバキッという音と共に、腕が門の中へと突き抜けた。


「あ、壊れた」


「いけないんだー!」


「煩い、今まで壊されてない事に感謝するべきだ」


そう言ってルナリアが腕を引っこ抜くと同時に、門はギギギギッと音を立てて開かれていく。

そして開け放たれた門の先にいたのは―――。


「久しぶりだな、極悪非道の契約者よ」


「会いたかったぞ、能なし国王陛下」


―――武装した国王とハイエルフ達だった。



$$$



「貴様が此処に来るのを許した覚えは無い」


よく通る声でエルフの王―――リンドール王はルナリアに語り掛ける。


「私だって来たくなかったさ。だが契約違反となれば仕方ないだろ?」


静かにそう告げるとルナリアは刺すような視線をリンドール王に向けた。


「契約違反だと?知らんな」


ルナリアの発言を鼻で笑うリンドール王。


「とぼけるのも無理もない。契約違反をしたのはお前ではなく、お前の息子だからな」


彼の挑発に乗らず、 ルナリアは冷静にそう切り返した。


「皇子が……?」


「正確には第二皇子、即ちレイドールだ」


ルナリアが吐き捨てるように言うと、ハイエルフ達はザワザワと不安そうに騒ぎ始める。


「静まれっ!!」


後ろでザワついているハイエルフ達を一喝すると、リンドール王はルナリアに向き直って言葉を続けた。


「どうやら私の監督が行き届かなかったのが原因のようだな。済まなかった」


思い当たる節があるのか、リンドール王はそう言ってルナリアに頭を下げる。


「ほぉ、珍しく物分かりが良いな?」


「物分かりが良い代わりに此度は引いて貰えるだろうか?我等エルフで問題を解決したのち、再び御足労願おう」


感心するルナリアに付け入るようにしてリンドール王はサラリと要求を突き付けた。

悪くない手法ではあるが、ルナリア相手に通用する訳もない。


ルナリアは鼻で笑って要求を一蹴すると、真面目な顔で言葉を続けた。


「国王としては満点の答えだ、リンドール。だが、今回ばかりはそうもいかない…………何せレイドールの馬鹿がリュクセリ王を起こしやがったからな?」


リュクセリ王の名前を聞いた瞬間、ハイエルフ達はにわかに騒ぎ出す。

泣いて天を仰ぐ者、地に伏して静かに涙を流すもの、怒りに身を震わせる者。


最早収拾のつかない事態に、リンドール王は諦めたように首を振り、ルナリアに恐れに満ちた目を向けた。


「立ち話をするのも疲れただろう?腰を据えて話そうではないか」


「ふん、いいだろう。カイン、お前は街で待ってろ」


「えー!なんで!?」


完全に蚊帳の外だった上に、留守番を申し付けられたカインは頬を膨らませてルナリアに怒りを示す。


「気楽に観光してられるんだから、別にいいだろ?」


「かんこう?かんぜんこうばつ、のこと?」


「見学って言い直してやるから、ナイフを仕舞え。ハイエルフがどよめいてるぞ?」


「むー」


尚も不服そうにするカイン。

そんな彼の頭を撫でながらルナリアは諭すように優しく語り掛ける。


「そう怒るな、何かしてやるから」


「じゃあ、ぎゅーってして」


そう言ってカインはナイフをしまい、防壁を消して両手を広げる。

ルナリアは困ったように笑いながら、膝をついて目線をカインと同じ高さに合わせると、彼を少し強めに抱き締めた。


「えへへ~」


「ほら、もう満足だろ?」


「んー、もう少しだけ」


「ったく、しょうがない奴だな…………」


満更でも無い様子でルナリアはカインの耳元でフフッと笑う。


その後、リンドール王によって叫び声にも似た咳払いが発せられるまでハグは続けられた。

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