表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/74

38 極悪非道エルフの仕事準備

その日の昼―――。

日が沈まない内にルナリアはそっとベッドから抜け出すと、矢筒と弓を装備して宿の中を歩き回る。

やがて足元で走り回っている鼠を捕まえると、そっと手をかざした。


「ルナリア・フォルメールの名において、貴様の命を召し上げる」


鼠から白い魔力の玉が現れたのを確認すると、ルナリアは動かなくなった鼠を投げ捨てる。

途端に隠れていた鼠達が物陰から一斉に飛び出し、我先にと同胞の死体を貪り始めた。


「…………正直でいいな、お前たちは」


その光景を見て目を細めると、ルナリアは魔力の玉を床に置いて詠唱を始める。


「【第三界位より第二界位へ。契約に基づき我が元へ参れ、“支配人ラグザール”】」


『仰せのままに』


低い声が響くと共に魔力の玉は魔法陣へと姿を変え、その中心から見慣れた執事が現れた。

ルナリアがラグザールに笑いかけると、彼は恭しく一礼する。


「お嬢様、此度はどのような御用件でしょうか?」


「来て貰って早々悪いが、私の部屋の箪笥から一番小さい黒い水晶玉を取ってきてくれ」


「承りました…………ですが、一体何をなさるのですか?」


不思議で仕方ない、というようにラグザールは首を傾げた。

対してルナリアはニィッと口角を吊り上げ、目を赤く光らせる。


「契約違反の取り締まりだ」


この時ラグザールは確信した。

また国が一つ消える、と。



$$$



あの後言われた物を取ってくると、ラグザールはすぐに魔界に帰ってしまった。

どことなく怯えていたが何かあったのだろうか?


そんな疑問を抱きながらルナリアは手の中で黒い水晶玉を転がす。

ビー玉くらいのサイズである水晶玉は、以前アリスが本に対して使っていた収納魔法を応用したものだ。



ルナリアは音を立てないようにしながらエントランスに行くと、水晶玉を机の上に置いてそっと指で弾く。

すると黒い煙と共に、水晶玉の中から丈の長い黒いマントと鹿の頭骸骨で作られた仮面、そして一振りの剣が現れた。


「…………懐かしいな」


仮面の縁を撫でながらルナリアはポツリと呟く。

だが感傷に浸っている時間は無い。

ルナリアはマントを羽織り仮面を着けると、剣を鞘から抜いて様子を確かめる。


「相変わらず良い色だ」


月のような銀色をした刀身を満足気に見つめると、ルナリアは剣を鞘に戻し、腰のベルトに吊り下げた。


その時、どこかの部屋のドアが開く音が静かな宿に響き渡る。


ルナリアは剣を抜き払って宿を歩き回り、やがて眠そうに目を擦るアイテルを見付けた。

音の原因が不審者でない事に安堵するとルナリアは剣を鞘に戻して、アイテルの肩を叩く。


「おい」


「なにかし……ら?」


目と目が合った。

別に恋が始まることはないなと思いながら、ルナリアは言葉を紡ごうと口を開く。


「アイテル、こんな時間にどうし―――」


「キャァァァァア!!」


その前にアイテルに叫ばれ、ルナリアは仮面の奥で顔をしかめた。


「煩い、黙れ」


そう言って仮面を取ると、ルナリアは冷たい目でアイテルを見る。


「はえ?ルナリア…………?」


「あぁ、そうだよ。ったく初めて見るわけじゃないんだから叫ぶなよ」


そう言うとルナリアは仮面を着け直した。


「貴女知らないでしょうけど、その服装死神みたいよ?」


アイテルは憂鬱そうに呟くと、ハァと息を吐いてその場にへたり込む。

そんなアイテルを見てフンッと鼻を鳴らすとルナリアは彼女に背を向け、不機嫌そうな声色で話し始めた。


「知ってるさ、これを私に寄越した奴は死神の親玉みたいな奴だったからな」


「死神の親玉?」


眉をひそめて聞き返すアイテル。


「…………お前に話すにはまだ早い。忘れろ」


「なによそれ!」


「知らない方が良い事もある」


とんでもない殺気を纏いながら言うと、ルナリアはエントランスへと歩いていく。

いつになく素早い動作の端々にルナリアの怒りが滲み出ていた。

何より彼女の仮面から赤い光が漏れているのを見てアイテルは言及を諦めるしかないと悟る。


「そんなに怒る程のことなの…………?」


世界の闇に触れたような恐ろしさを感じながら、アイテルは二度寝をしようと自分の部屋に戻った。

だが、ベッドに入っても寝付くことは出来そうにない。

寒いわけでもないのにアイテルの体はいつまでも震えていた。



$$$



エントランスに戻ると、ルナリアの元に嬉しそうにはしゃぐカインが駆け寄ってきた。


「あ、おねーさん!おそいよー!」


「カイン、よく私だと分かったな?」


そう言ってベルトからナイフを一本抜くと、ルナリアはカインにそれを渡す。


「おねーさんのにおいがしたからね!」


ナイフを受け取りながらカインはそう言って笑った。


「私の臭い?」


「“てつ”と“ち“のにおいだよ!」


「…………違いない」


そう言って皮肉めいた笑みを浮かべると、ルナリアは何かを思い付いたのか自分の部屋に戻っていく。

三十秒程で戻ってきたルナリアの手には、いつも彼女が着けているアイテルお手製のマントが握られていた。


「これを着けておけ、格好はつく筈だ」


そう言ってルナリアがマントを羽織らせると、カインは少し顔を赤くする。


「…………なんか、おねーさんに、だきしめられてるきぶんになるね?」


「嫌か?」


「んーん、すごくあんしんする」


カインは嬉しそうに笑ってそう言うと、ナイフを机の上に置いて詠唱を始めた。


「【武器鈍化アルテド・ヨルネ】」


途端に武器に青い魔力のリボンが巻き付く。

恐る恐るそのナイフを手に取ると、カインは自分の手に刃を滑らせた。


「うん、うまくできたよ!」


そう言って笑うカインの手には傷一つできていない。


「よくやった、偉いぞカイン」


安心してホッと息を吐くカインの頭を撫でると、ルナリアは自らの魔力を集中させる。


「【一は百、百は一。理は歪み、千里は一歩と成り果てん】」


詠唱と共に空間が歪み、やがて姿見ほどの大きさがある、赤く光る異扉ゲートが現れた。

それと同時に異扉ゲート付近の床や机が木屑と成り果て、カインから勝手に青い魔力が流れだし、彼の体を覆う。


「おねーさん。これ、なーに?」


異扉ゲートだ」


「なんで、つくえこわれちゃったの?」


「…………帰ってきたら話してやる」


少し嫌そうに言うとルナリアはマントを翻しながら異扉ゲートに入っていった。


「あ、まってよー!」


後を追うようにカインも入っていく。


これから歴史が動く事も知らず、地下街モルガルは未だに眠ったままだった。

武器鈍化アルテド・ヨルネ

武器を無効化する下位の防御魔法。

主婦が包丁を保管するときによく使う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ