37 極悪非道エルフと魔女の苦悩
およそ十五分後、アイテルの泣き声がようやく収まった。
「…………泣き止んだな?」
「ええ、ありがとう」
抱き締めていた手を離すとルナリアはアイテルの頭を撫でる。
「何で泣いてたのか予想できるが…………相談があるなら聞いてやるぞ?」
「…………」
黙って俯くアイテル。
そんな彼女を前にルナリアは嗜虐的な笑みを浮かべると、嘲笑うように口を開いた。
「言わないなら当ててやる。自分よりもはるかに若い少年が高度な技を意図も簡単にやって見せたから落ち込んでるんだろ?」
「煩いっ!!」
アイテルの手が振るわれるのと同時に、彼女の手から炎が放たれる。
ルナリアは魔力を展開して炎を吸収するとアイテルの頭を小突いた。
「図星かよ…………ったくそんなんだからお前はいつまで経っても二流止まりなんだよ」
「煩いっ!!私だって努力はしてきたわよ!なのにあの子は何で大した練習もしないでできるのよ!?」
アイテルはルナリアの胸ぐらを掴み、言葉を叩き付けるようにそう叫ぶ。
溜め息を吐いて困ったように笑うと、ルナリアはアイテルの目を手で覆い、耳元で優しく囁いた。
「アイテル、いい加減自分と他人を比べて卑屈になるのはやめろ」
「で、でも…………」
「でも、じゃない。他人の長所を見抜けるのは素晴らしいことだけどな、それで自分の首を絞めるのはよせ」
「…………」
僅かにルナリアを掴む力が緩まる。
ルナリアはニッと笑い、アイテルを抱き寄せると言葉を続けた。
「お前は自分の事を過小評価しすぎだ」
途端にルナリアを掴む力がどんどん抜けてゆき、アイテルはその場にペタンと座り込む。
そんなアイテルの様を見てルナリアは楽し気に笑い、改めて彼女を抱き締めた。
「あのなぁ、この世界でお前にしか出来ないことが幾つあると思ってるんだ?軽く百を越えるぞ?もっと自信を持て、アイテル・ヨナルウェル」
「…………うん、ありがとう」
珍しく大人しいアイテルにルナリアは違和感を覚える。
「もう少しで元気になるから、一緒にシャワーを浴びない?」
前言撤回、いつも通りだった。
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「ルナリアって肌綺麗よね?」
ルナリアの体を撫でるようにして優しく触れながら、アイテルは恍惚とした表情を浮かべる。
「知るか、でもって触るな!」
触手のように体に巻き付いてくるアイテルの腕を引き剥がしながら、ルナリアは彼女の頭を叩いた。
「痛っ!」
「ったく調子に乗りすぎだ。何が一緒にシャワーを浴びたら元気になるだ!既に元気だろ!」
「まだ完全復活とはいかないのよ、フフフフ」
そう言って妖しく笑うアイテルをビンタすると、ルナリアはハァと溜め息を吐く。
「叩けば治るか?」
「既に叩いてるじゃない!」
痛む頬を押さえながらアイテルは涙目でルナリアに抗議した。
だがルナリアは取り合わず湯船に体を沈める。
「ハァ、さっきまでしおらしくて可愛かったのにな?」
「え?」
ルナリアの言葉にアイテルは目を見開き、思わず手に持った石鹸を取り落とした。
動揺しすぎだ。
「え?じゃねぇよ。あれなら二百年間独身のままってことは無いだろうに」
そう言ってルナリアが呆れたように笑うと、アイテルはどこか遠い目をする。
「…………いいのよ、どうせ私より早く死ぬ男しかいないわ」
そんなアイテルを見てルナリアは儚げに笑った。
「違いない」
二人の間にしんみりとした雰囲気が漂う。
そんな空気に堪えかねて、アイテルはイタズラっぽい笑顔をルナリアに向けた。
「その点貴女は魅力的よ、ルナリア」
そう言ってアイテルはルナリアに向けて手を伸ばす。
「…………いい加減にしろ」
再び伸びてきた腕を掴んで湯船に引きずり込むと、ルナリアは邪悪な笑みを浮かべた。
「そうか、そんなに私が魅力的か」
「る、ルナリア…………?」
ルナリアの雰囲気が変わった事に気付いたアイテルだったが時既に遅し。
アイテルの肢体をルナリアの手がツーッと滑るように這っていく。
「ひゃんっ!!」
思わず声をあげてしまい、アイテルは恥ずかしそうに横を向いた。
だがルナリアはアイテルの顎をクイッと引いて、無理矢理自分の目を見させる。
「中々可愛い声で鳴くな?覚悟しろよアイテル。マシュリと私の恨み、全部返してやるからな?」
「お、お手柔らかに、ね?」
どこか期待しているアイテルだが、この後自分がどうなるか知る筈もなかった。
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【本日の評価】
[評価対象]
カイン
[評価者]
アイテル
[評価]
魔力の扱い S+
咄嗟の判断 S+
度胸 S+
[評価者のコメント]
魔法の扱いに関しては完璧ね。
ただ使う魔法系統が偏っているから、そこはこれから教えていかなくちゃいけないわ。
あと、ルナリアのテクニックは凄かったデス。
腰が抜けてしばらく立たなかったわよ…………。




