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36 極悪非道エルフと騒動の気配 5

魔女の安息所に戻ったルナリアの視界に飛び込んできたのは、黒焦げになってシューシューと音を立てているハイエルフ達と、嬉しそうに笑っているカイン、そして何故か打ちひしがれているアイテルだった。


「おいアイテル、何があった?」


「フ、フフフ。私もまだまだね。フフフフフ」


半分放心状態で笑い続けるアイテル。

こんなアイテル初めて見た。


「うわ、気持ち悪いことになってんな」


病んだ魔女を見て顔をしかめると、ルナリアは黒焦げの死体を突っついている弟子の元に歩み寄る。


「カイン、何があった?」


「へんなひとたちがおそってきたから、かみなりでげきたいしただけだよ?」


「お前がか?」


「うん!」


自慢気に胸を反らせるカインの頭を撫でると、ルナリアは不思議そうに首を傾げた。


「なぁ、カイン。お前いつの間に魔法を学んだんだ?」


「隣の檻に居たおじーさんにおしえてもらった!」


「おじーさんって誰だ?」


「とるてなこると!」


カインが気軽に呼んだその名は、魔法神の名前だった。



$$$



「トルテナコルト!?あのクソジジィ生きてやがったのか!ってか、捕まってたのかよ!?」


半ギレで叫び散らすルナリアの袖を掴んで落ち着けると、カインは首を横に振る。


「んーん、じぶんからおりにはいってたよ?」


「あぁ、あいつ本当に神獄暮らしが好きだったんだ」


どこか遠い目をして呟くルナリアを他所に、カインは死体を突っつくのを再開した。


「まっかだねー」


「何がだ?」


「このひとのくちのなか」


そう言ってカインは倒れているエルフの口を開いて見せる。

雷に打たれたときに舌を噛んだのだろう、口の中はこれでもかという程赤く染まっていた。


「うわ、本当だな。ってまだ舌が動いてるぞ?こいつ生きてるな」


「ころす?」


九歳児が小首を傾げて聞くことじゃない。


「いや、聞きたいことがあるから回復させてやれ」


「ええー!」


「いいからやれ」


詰まらないと言いたげに頬を膨らませると、カインは魔力を集中させた。


「【医神帰来レピオス・オーライル】」


詠唱と共にカインから流れ出た青い光がエルフの体を包み、肉体を再生していく。

やがて光が消えると黒焦げの状態からは予想できないほどイケメンなエルフの男が現れた。



$$$



「げっ…………!!」


体が治ったと気付いた途端、エルフの男は飛び起きて逃げ出そうとする。

だが彼が飛び退くよりも早くルナリアは彼の足を掴んで引き倒し、ニヤリと笑いかけた。


「焦るなよ。ゆっくりと話そうぜ?仲良く、なっ!!」


ゴキリッ。


「イギャァァァァア!!」


本来とは逆の方向に曲げられた膝から送られてくる痛みに、エルフの男は叫び声を上げる。


「この程度で音を上げるなよ?」


そう言って嗜虐的な笑みを浮かべると、ルナリアは彼のもう片方の足に手を掛ける。


「え…………あ…………あ!」


「答えろ、お前の主人は誰だ?」


「り、リュクセリ王…………だ」


ルナリアは彼の返答を聞くと、ニヤッと笑って腕に力を籠めた。


「ダウトだ、なっ!」


ゴキリッ。


「グギィィィィイ!!」


ルナリアは痛みに耐えかねてのたうち回る男を押さえつけると、彼の手首を掴む。


「次は手首だな。リュクセリ王の配下ならある程度ダメージ喰らったら消えてなくなるだろ?何せあいつの配下は幻影で作られてるからな」


「グッ…………知って……いた…………のか!」


「余計な口を叩くな。さっさと答えろ」


そう言ってルナリアは冷たい目で彼を見下ろしながら、少しだけ腕に力を籠める。


「ヒッ!わ……分かった!言うから止めてくれ!」


「最初からそうしろよ、間抜け」


「私に作戦の命令を出したのは、レイド―――」


パァンッ!!


エルフが名前を言い終わらない内に、彼の額に魔法陣が浮かび上がり、頭を爆弾の様に吹き飛ばした。

辺りに脳や血が撒き散らされ、さながら解体場の様な有り様だ。


「口封じの魔法か…………」


不機嫌そうに脳味噌を顔から剥がしながら、ルナリアはそう呟いて様々な事を思案する。

やがて一つの結論に辿り着くと、ルナリア深々と溜め息を吐いた。


「カイン、今日はもう休め。明日、バカ共の巣窟に殴り込むぞ」


「うん!」


口に入った脳味噌を吐き出すとカインは笑顔で頷き、トテトテと宿に戻っていく。


「風呂入っとけよ!」


「わかったー!」


宿に戻る弟子を見送ると、ルナリアは相変わらず放心状態のまま突っ立っている魔女に歩み寄った。


「何があったか知らないが、いつまで落ち込んでるんだよ?」


珍しく優しげにそう語り掛けるルナリアに対し、アイテルは目を怒らせる。


「貴女に私の気持ちなんて解らないわよっ!!」


「ヒステリーかよ。泣かすぞ?」


態度を一転させルナリアはアイテルに冷たい目を向ける。

するとアイテルはその場に座り込み、目に涙を溜めてルナリアの顔を見上げた。


「今くらい、優しくしてよぉぉぉぉお!!」


ルナリアがしまったという顔をしたときにはもう手遅れだったらしい。

いい年の淑女が大声で泣き始めてしまった。


「情緒不安定かよ…………」


アイテルを抱き締めて背中をさすってやりながら、ルナリアは深い溜め息を吐いた。

アイテルがどれくらいで泣き止むかは神のみぞ知る。

医神帰来レピオス・オーライル

最高位の治療魔法。

もがれた腕を元通りにするほど強力な反面、かなり魔力を消費する。

普通なら五人で協力して発動するもの。


【口封じの魔法】

禁術に指定されている魔法。

この魔法を掛けられた者が特定の単語を口にすると心臓と脳を同時に爆破される。

高位の魔法使いしか使えない。


【トルテナコルト】

白い髭をたくわえた老人の姿をしている魔法神。

かつてあった神々の戦いに敗れて神獄に放り込まれていたが、思いの外牢屋の居心地が良く、以降世界の様々な牢屋で生涯を送っている。

それが縁となってワナルバス邸にもやって来ていた。


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