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35 極悪非道エルフと騒動の気配 4

二十分程前、魔女の安息所にて―――。



「あーもー、身体中が痛むわね」


人外カップルの折檻がようやく終わり、アイテルは足を引きずりながらエントランスへと歩いていた。


どうにかエントランスに辿り着くとアイテルは椅子に座り、手をパンッと鳴らして治癒魔法を自分に掛ける。

途端に体の痛みは消え、アイテルは深々と溜め息を洩らした。


「はぁ、折角いいところだったのに。ルナリアったら、何で邪魔するのかしら?」


もう少しで二人の愛が頂点に達したというのに、と心の中で呟きつつ、アイテルはニヤーッと笑う。


その時、アイテルの目に衝撃的な光景が映った。

宿を取り囲むようにして魔法陣が大量に展開されている。


「【防壁展開ノル・テーラ】!!」


咄嗟に防御魔法を宿全体に展開して攻撃に備えると、案の定攻撃魔法が大量に放たれる。

だが攻撃魔法には大した威力も無く、白く輝く防壁にぶつかると、ドォォォォンッという轟音を立てて消えていった。


「あらあら、数で押すつもりかしら?」


長くなるだろうと考えたアイテルは異扉ゲートを使い、自分の部屋から本を取り出す。


「あ、あれ?どこまで読んだのかしら?」


栞を挟むのを忘れたのに気が付き、呆然としたアイテルだった。



$$$



十分程魔法を防ぎ続けると音が止み、アイテルは余裕そうな顔で読んでいた本を閉じた。


「さてと、無礼な方々の顔を拝見しようかしら?」


異扉ゲートを開いて自分の部屋から杖を取り出し、エントランスの扉を開けて外に出る。

そして目の前の光景に思わず苦笑いを浮かべた。


「…………嘘でしょ?」


広場には、そこにいる黒いフードを被ったエルフ達が描いたであろう巨大な魔法陣が展開され、とんでもない威力を誇る魔法が発動されようとしている。


恐らく自分の防壁ではあの魔法を受け止めきれない。

仮に受け止められたとしてもモルガルが吹き飛ぶ。


杖を持つ手が震え、冷や汗がツーッと背中を流れていった。


「どうしようかしら……?」


久々のピンチにアイテルは顔を引き吊らせる。

誰でもいいから助けて!と心の中で祈ったその時だった。


「んー、あれー?あいせんせー、どうしたの?」


寝ぼけ眼を擦りながらカインがエントランスにやって来た。


「カイン君!?この際君でいいわ。もう理論を全部飛ばして実戦に入るわよ」


「じっせん…………ついに、さかだちできのぼりするの?」


完全に寝惚けている。


「魔法学のよ!お願いだから起きて頂戴!」


眠そうにしているカインの肩を揺すって叩き起こすと、アイテルは涙目で訴える。

そのお陰かどうか分からないが、カインは目を嬉しそうに輝かせる。


「ほんとう!?まほうつかっていいの?」


「ええ、本当よ。呪文教えるから防壁を張って頂戴」


「わかった!!がんばるよ!!」


「いい?宿全体を包むように展開して!呪文は―――」


「いっくよー!【防壁展開ノル・テーラ】!!」


アイテルが言い終わらない内にカインは防壁を展開する。

瞬時に宿全体を包むように展開されたそれはアイテルが展開した物と違い、白ではなく青く輝いていた。

その上アイテルの防壁から魔力を吸い取り、一層強固な物へと変貌する。


「青の魔力…………!」

「真性の忌子か」

「主様にお伝えせねば」


黒いフードを被ったエルフ達は口々に呟くと、矢や攻撃魔法を飛ばしてくる。


「きかないよ!」


その度にカインの張った防壁は魔法を吸収して更に強固になり、矢をことごとく跳ね返してエルフ達を貫いていった。


「クソッ!!やはり忌子には効かないか……!」


「諦めるな!魔法陣に魔力は籠め終えた」


その言葉を聞いたエルフ達は魔法陣を張っている男を振り返る。

すると男は自信に満ちた顔で頷いた。


「いつでも、いけるぞ!」


その言葉にエルフ達は次々と歓喜の声を上げる。


「忌子を煉獄に突き落とせ!」

「我等ハイエルフの底力を見せてやれ!」

「手加減するなよ!?」


エルフ達が一丸となって戦う様は、カインに本で読んだ学祭を思い出させた。


「みんな、たのしそうだね」


完全に蚊帳の外であるカインは欠伸をしながら茶番が終わるのを待っている。


「…………そうね」


そんな彼を見て、アイテルは悶々としていた。

カインの、のんびりとした様子は愚者の呑気さなのか、それとも強者の余裕なのか。


そして答えが出ないままその時はやって来た。

魔法陣を展開していたエルフが手を高らかに掲げる。


「【煉獄顕現エルベン・タリザール】!!」


詠唱と同時にエルフが手を振り下ろすと、魔法陣から巨大な炎の龍が現れ、防壁へと突進しはじめた。

対するカインは慌てること無く、寧ろ楽しげにそれを見ている。


「それならこうだよ!【縛鎖展開オルドラ・エリュ】」


カインの詠唱と同時に防壁は魔力の塊となり、炎の龍を囲むようにして十個程に分裂すると、龍に向かって青い鎖を放出し、それの動きを鈍くした。


「魔法の連続転換……!」


信じがたい光景を前にアイテルはただ呆然とするしかできない。

この光景を作り出しているのが九歳(推定)の少年だという事実は、アイテルの常識にひびを入れる。


「カイン君。貴方は一体、何者なのかしら?」


「ぼくは、おねーさんのでしだよ!」


カインはそう言って笑うと自分の魔力を放出して鎖の量を二倍に増やした。

すると青い鎖は炎の龍の動きを完全に止め、今度は急速に魔力を吸い取っていく。


やがて魔力を吸い尽くされた炎の龍は消え去り、後に残ったのは驚愕の表情を浮かべたエルフ達だった。


「馬鹿な……!」

「厄災魔法を受けきっただと!?」

「真性の忌子はこれ程だったか…………!」


呆然として座り込むエルフ達に気遣うこと無く、カインは笑顔で次の魔法を準備する。


「まだまだいくよ!【雷雲讃歌レディアス・ノーン】」


カインの詠唱と共に光の玉はバチバチと音を立て始め、次の瞬間轟音と共にエルフ達に雷の雨が降り注いだ。


防壁展開ノル・テーラ

魔力で構成された防壁を作り出す魔法。

高位の魔法使いが使えば矢を跳ね返すこともできる。


煉獄顕現エルベン・タリザール

炎の厄災魔法。

禁術として指定されている炎の魔法で、使えば国一つを焼き尽くすと言われている。


縛鎖展開オルドラ・エリュ

最も簡易的な捕縛魔法。

対象に魔力で構成された鎖を巻き付けるだけの、簡単な魔法。

魔力を吸い取る効果はない。


雷雲讃歌レディアス・ノーン

最も簡易的な雷の攻撃魔法。

通常は静電気程度、高位の魔法使いが使っても軽い雷しか落とせない。

普通は人を驚かせるのに使う。


【魔法の連続転換】

最高位に位置する魔法使いが、百年以上かけて習得する技。

魔法を放った後に残った魔力の残滓を使って、再び魔法を放つというもの。




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