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34 極悪非道エルフと騒動の気配 3

サリアナがいなくなった途端、ハイエルフ達の攻撃は一気に苛烈になった。

数多の矢が飛び交い、様々な魔法が入り乱れ、それらの隙間を縫うようにナイフによる不意討ちが入る。

流石は精鋭、と言ったところか。


「中々やるな?細胞一つ分くらいは本気を出してやる」


突き出されたナイフを半身で避けると、ルナリアはナイフの持ち主の首を殴って彼の脊椎を折った。

そして動かなくなったハイエルフを放り投げ、後方で矢を連発していた連中を五人ほど巻き込ませる。


「隙あり、というよりも隙しか無し、だな」


ルナリアは弾幕が薄くなったのを見計らい、魔法を放っているハイエルフ達との距離を詰めると、手当たり次第彼等の顔面に拳を叩き込んだ。


歯が抜け、頬骨が折れ、眼球が飛び出す。

最早再起不能となった精鋭達をルナリアは退屈なものを見るような目で見下ろしていた。


「ま、だ……終わりでは……!」


しぶとく起き上がる弓兵を視界の端に捉えると、ルナリアはフンッと鼻を鳴らし、足下に転がっているハイエルフを掴み、乱雑に投げ飛ばす。

投げられたハイエルフは起き上がったばかりの弓兵に直撃し、再び彼を地面に叩き付けた。


フッ、と短く息を吐くと、ルナリアは残りのハイエルフ達に弓を向け矢をつがえる。


「あ、赤い矢が…………!」


「「逃げろぉぉぉぉお!!」」


その矢が赤く光っているのを見て、ハイエルフ達は悲鳴を上げて逃げ出した。

そんな彼等を見てルナリアは残念そうに溜め息を吐く。


「せめて立ち向かって見せろよ、精鋭だろ?【禁弓一法 雪月花】」


簡易詠唱と共に放たれた矢は空中で百本程に分裂し、その全てが逃げ惑うエルフ達に襲い掛かった。

まるで生き物のような動きをする矢に心臓を貫かれ、ハイエルフ達は一人また一人と倒れていく。


やがて動くものが居なくなると、ルナリアは伸びをして一息吐いた。


「おやまぁ、随分と派手にやったじゃないか」


外に出るなりサリアナはそう言ってニヤニヤする。


「そうか?割と控え目にやったぞ?」


そう言ってルナリアは辺りを見回し、わざとらしく肩をすくめる。


辺りにはハイエルフ達の死体が散乱しており、ここが地下街モルガルでなかったなら辺りは騒然としていただろう。

…………ラッツィを呼ぶか。


「なぁ、サリアナ。死体の処理は任せて貰っていいか?」


「こっちからお願いしたいくらい…………さ?」


そう話すサリアナは目を見開き、あんぐりと口を開けている。


「どうした?」


その問いに答えることなく、サリアナはルナリアの背後を指差した。

一体何なんだ?


訝しげな表情でルナリアが後ろを振り向くと―――。


「…………マジか」


―――ハイエルフ達の死体が消えて無くなっていた。



$$$



「最悪だ。一番当たって欲しくない予想が当たりつつある」


「私が聞いていい内容かい?」


「いや、駄目な内容だ」


ルナリアは憂鬱そうに額を押さえ、やがて深々と溜め息を吐いた。


「そういえば、エルフィアの情報は聞くのかい?」


先程とは打って変わって呑気にそう聞いてくるサリアナ。


「…………聞かせろ」


ルナリアは呻くようにそう答えると、地下からは見えない空を仰いだ。

ルナリアの様子を見て心配そうにしながら、サリアナは話し始める。


「何でも、エルフィアの奥地にある王の墓が荒らされたみたいだよ。場所は確かオーリンデ大樹海だったかね」


頭から血がサーッと引いていくのをルナリアは感じた。


「おい、まさかリュクセリ王の墓じゃないだろうな?」


ルナリアは青い顔をしてサリアナの方を向くと、恐る恐るそう尋ねる。


「おや、よく知ってるね。まさにその通りさ」


感心したようにサリアナはコクリと頷いた。

その直後―――。


「死ねぇぇぇぇえ!!」


―――ルナリアが唐突に叫び声を上げた。


「い、いきなり何なんだい!?」


驚くサリアナを他所にルナリアは気の赴くまま叫び続ける。


「何回殺したらあいつは死ぬんだよ!?え!?これで三回目だぞっ!!」


と、その時。

ルナリアの頭に花瓶がヒットした。

反射的に窓を見ると、やはりトンジャが怒り心頭で顔を出している。


「トンジャ!てめぇ、やりやがったな!?」


そう叫びながらルナリアは、足下に落ちていた石をトンジャに投げつける。

するとトンジャはすぐに首を引っ込めて石を避け、そして再び首を出した。


「うるせぇぞ!!人んちの庭で叫んでんじゃねぇっ!!このまな板っ!!」


「んだと!?殺すぞ、ボケジジィッ!!」


「やれやれ、今回はいつまで続くかね」


このまま無益な言い争いが続くだろうと予測し、サリアナは溜め息を吐く。


その瞬間キィと音をたてて門が開いた。

咄嗟にルナリアは弓を構え矢をつがえ、音の元へと狙いを定める。

だが矢の向いた先には見慣れた水色の髪をした少女が、肩で息をしていた。


「リリ!そんなに急いでどうした?」


ホッとしながら矢を戻すと、ルナリアはリリに駆け寄る。

するとリリはルナリアの服の裾を掴み、必死の形相で口を開いた。


「あ、姉御!大変だよ!魔女の安息所がエルフに襲われた!!」


「…………は?」


「今アイテルさん一人で応戦してるけど、かなり押されてる!早く助けに行って!!」


リリが捲し立てるようにそう言った直後、ビキッビキッと大気が割れる音が響く。


「耳塞げっ!!」


ルナリアがそう叫んだ瞬間、今度は閃光と共にドゴーンッという凄まじい音が鳴り響いた。

耳を塞ぎ損ねて気絶したサリアナと、それを必死に揺り起こすリリを他所に、ルナリアは楽しげに笑う。


「あーあ、何人死んだろうな?」


リリに手を振りながら、ルナリアは魔女の安息所へとゆっくり歩いていった。

【禁弓一法 雪月花】

禁弓一式と四式を組み合わせた上位の弓術。

幾多にも分裂した矢は、一本残らず敵を貫く。


【禁弓一式 彼岸花】

自動移動の魔法を矢に籠める弓術。

放てば必ず敵を射抜くことになる。


【オーリンデ大樹海】

エルフィア大陸南部を埋め尽くす巨大な森。

古来よりエルフにとっては神聖な場所として重要視されてきた。

ここに墓を造れる王は数少ない。

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