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32 極悪非道エルフと騒動の気配 1

「さて一応聞くが、模擬戦と昔話どっちがいい?」


「おふとんにはいってねたい」


憔悴して机に突っ伏しているカインは、顔を伏せたままそう答える。

そんな弟子を労うようにルナリアは優しく彼の頭を撫でて微笑んだ。


「朝飯まで寝てろ」


「おねーさんはねないの?」


「私はまだやることがあるからな」


「やること?」


僅かに顔を上げ、カインは眠そうな目をルナリアに向ける。


「あぁ、野暮用ってやつだ」


彼から顔を背けながらルナリアはそう言って立ち上がった。


「そっか、きをつけてね」


そう言ってヘニャっと笑うと、カインは再び顔を伏せ、すぐに寝息を立て始める。

驚くべき早さで眠りに落ちた弟子にルナリアは頬を綻ばせ、彼の体を軽々と持ち上げるとベッドに運んだ。


「まったく、世話の掛かる奴だ」


そう呟いてカインに布団を掛けると、ルナリアは笑いながら部屋を出ていく。

窓から徐々に迫る殺意に気付かずに。



$$$



エントランスに置いてあった弓と矢筒を装備すると、ルナリアは脇目もふらずに一番街一区に歩いていく。

マシュリの部屋から相変わらず妙な打撃音が響いていたが気にしないことにした。


「っと、忘れるところだった」


宿から出ると、ルナリアは慌ててフードを深く被り、人混みへと身を踊らせる。



街は丁度掻き入れ時らしく、様々な店で呼び込みをしており、通りは騒がし過ぎる程賑わっていた。


「ほらほら、新しく入った肝臓だ!今ならホルマリン処理していない取れ立てを御提供!」


「高級魔物料理、食べなきゃ損だよ!」


「お、そこのお兄さん!イケてるね、でもうちで鼻を高くするともっと格好よくなるよ?」


数多の客引きを横目に、ルナリアは歩みを止めることなく歩き続ける。

視線避けの魔法様々だ。


「お、ルナ嬢!お久しぶりでさ」


前言撤回、知り合いにはまるで効果がない。

ルナリアは溜め息を吐くと背後を振り返り、声を掛けてきた男に殺意の籠った視線を送る。


一つ結びに束ねられた長い赤髪、下卑な笑みを湛えた緑の目。

極めつけは長く伸びた犬歯。

一度見たら忘れることのない顔だ。

男はルナリアの視線にわざとらしく身を震わせると、ニヒヒと笑って彼女に一礼した。


「おお、怖い怖い。虫の居所が悪そうで、何よりでさ」


ルナリアはラッツィの頭を掴んで顔を上げさせると、彼に冷たい視線を向ける。


「ラッツィ、何のようだ?」


「ニヒヒ、この間肉を頂いたんで、そのお礼をせにゃならんと思いまして。見たところお忙しいみてぇですな」


残念そうにそう言うと、ラッツィはルナリアの手を退けて後ろに数歩下がった。


「礼はいらん。用があればこっちから使いを寄越すから、魔女の安息所には近付くなよ?」


「ニヒヒ、分かりました。そんじゃ、ごきげんよう」


かくして狂人は去った。

ルナリアは踵を返し、目的地へと足早に向かっていく。



$$$



様々な老舗を通り過ぎ、やがてある豪邸の前で立ち止まるとルナリアは勝手に扉を開けて庭園に侵入した。


「こらぁぁぁぁあ!!誰に許しを貰って入っとんじゃ、このボケェェェェエ!!」


入って三秒もしない内に、叫び散らしながら杖を振り回している老婆がルナリア目掛けて走ってくる。

しかしルナリアが笑いながらフードを取ると、老婆は目を丸くして杖を取り落とした。


「あれま、ルーナじゃないの。よく来たわねぇ」


「相変わらず元気みたいで安心したよ、サリアナ」


「それだけが取り柄だからね。ま、爺さんはこの間ポックリ逝っちまったけどね」


すっかり真っ白になった髪を揺らしながらサリアナは笑う。

すると豪邸の窓が一つ開き、怒り狂った老夫が首をニュッと飛び出させた。


「ざっけんじゃねぇぞっ!?クソババアッ!!誰がてめぇより早く死ぬかっ!!」


「うっさい!!客の前で怒鳴るんじゃないよ!!こんのゲロジジイ!!」


「クソよりゲロの方が栄養が有るぞっ!!ざまぁみろ!!」


そう言って勝ち誇るように中指を立てると、老夫は首を引っ込めて建物の中に戻り、バタンッと窓を閉めた。

二人のやり取りを見てゲラゲラ笑うルナリアを他所に、サリアナは目を怒らせている。


「あんのジジイただじゃおかない…………!」


「そう怒るな…………にしても、トンジャの奴も相変わらずみたいだな」


「いい加減、大人しくなって欲しいよ。で?うちに来たからには何か聞きたいことがあるんだろう?」


そう言ってニヤリと笑うサリアナの姿は、かつて情報屋だった時の姿を彷彿とさせた。


「察しが良くて助かる。エルフィアから何か情報は入ってないか?」


「エルフィアから?そうだねぇ…………あ!そういえば、一つだけ気になる話があったね」


「どんな話だ?」


「上手く思い出せないねぇ。銀貨10枚あったら思い出すんだけどねぇ」


そう言ってサリアナはチラッとルナリアを見る。

ルナリアは溜め息を吐くとポケットから金貨1枚を取り出して、サリアナに握らせた。


「おや、随分と気前がいいね」


「…………悪いなサリアナ。迷惑料込みだ」


そう言うとルナリアは背後を振り返り、向かいの建物の屋上へと矢を放つ。

すると黒いフードを着込んだエルフが心臓を射抜かれ、為す術もなくドサリと地面に落下した。


「あれま、どこの回し者だい?」


「決まってるだろ。黒いフードのエルフと言えば樹海の番人“ハイエルフ”だ」


忌々しそうに呟くとルナリアは次の矢をつがえる。

豪邸の塀を乗り越えてハイエルフ達は次々と現れていた。

【サリアナ】

本名サリアナ・フィレイソ。

リリの祖母であり、二代前の情報屋。

リリですら知らない特殊な情報網を持っており、ルナリアも時々頼りにしている。

昔から男勝りで負けん気が強く、男と喧嘩するためにルナリアから戦闘術も教わっていたほど。

夫であるトンジャとはなんだかんだ仲が良い。


【トンジャ】

本名トンジャ・フィレイソ

リリの祖父であり、かつては名の知れた傭兵だった。

酒場で出会ったルナリアに女を紹介してくれと泣きついたのを縁にサリアナと出会った。

現在は趣味の編み物をして過ごしている。

実はサリアナの事が大好きでしょうがない。

素直になれない年頃である。


【ハイエルフ】

実質エルフィア大陸を統治しているセレナディア皇国の近衛兵士団に属する者達の総称。

高い魔法技術と戦闘能力を誇るエルフの精鋭。

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