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31 極悪非道エルフの授業風景

「よーし、それじゃもう一回説明してみろ」


「おねーさん、すこしきゅうけいさせて?」


屍の如く机に突っ伏したまま、カインは呻くように言った。


「甘ったれるな、たった二時間しかやってないぞ?」


ピクリとも動かない弟子の頭を突っつきながらルナリアはそう返す。


九歳児(推測)が二時間休憩無しで歴史を覚え続けていたのだから疲れて当然だろう。

だが、それを分かった上でルナリアは敢えて弟子に休憩を与えていない。


「お前なぁ、魔法学の授業の辛さは史学の比じゃないぞ?今のうちに耐性つけとけ」


「はーい…………」


嫌々顔を上げるカインを見て、どうしたものかと思案するルナリアだったが、ふと弟子のやる気を上げる案を思い付き、顔を綻ばせた。


「よし、ならこうしよう。史学が完璧になったら私の昔話をしてやる、それでどうだ?」


「おねーさん!さいかいしよう!」


引くくらい元気になったカインの頭を撫でると、ルナリアはニィッと笑う。


「じゃ、説明してみろ」


「えっと…………あれ?わすれちゃった」


顔を青ざめさせてカインはカタカタ震える。

そんな彼を楽しそうに見詰めながらルナリアはやれやれというように首を振った。


「ったく、もう一回教えてやるから覚え直せよ?」


「はーい!」


元気よく返事する弟子を横目に、ルナリアは歴史書を開いて、ある一部分を指差した。


「2053年前、オロスガード公国がゾルアナ大陸を統一した。当時の国王はお人好しな奴だった事で有名で、自分の配下に加わった国々に対して自治権を与えたらしいな。

で、統一を期に作られた暦がモートル暦だ。ここまでいいか?」


「うん!」


パラパラとページを捲り、最後の方で手を止めるとルナリアは再びページの一部分を指し示した。


「よし、続けるぞ。

時代は流れモートル暦782年、王城で事件が起きた。一日にして王族が全員白骨化したんだ。当時はかなり前に殺されていて、今まで影武者が政治を牛耳っていた、という説が有力だったな。

だが王の血が途絶えた以上、オロスガード公国は事実上崩壊したことになる。


そこで代わりに現れたのが配下に加わっていたヨーロルン共和国の王子だ。

彼の戦い方には目を見張るものがあった。

王が崩御したと知るや否や龍の山脈に自ら赴き、ドラゴン達の協力を得て諸国を黙らせた挙げ句、すぐに王座を引き継いだな。


で、その際に国名をオロスガード公国からマリバル帝国に、暦をモートル暦からテックトナース暦に変えた」


そこまで話すと、ルナリアは別の歴史書を手に取り、パラパラとページを捲る。


「まりばるていこくっていまもあるよね?」


歴史書に描かれている地図を眺めながらカインはそう言って首を傾げた。

相変わらずページを捲りながら、ルナリアは少し成長した弟子の頭を撫でる。


「お、よく覚えてるな。あの国も昔は大陸を手中に収める大国だったんだよ。

だが王子が交わしたドラゴンとの契約内容が最悪だった。

毎年ドラゴンが望む数だけ帝国側が生け贄を差し出すっていう契約だったからな。

それでも帝国は毎年ドラゴンに贄を差し出してたっていうんだから健気な奴等だよ」


「どれいこんじょう?」


どこでそんな言葉を覚えてきたのか疑問に思いながら、ルナリアは最後のページを開いて一部分を指差した。


「…………少し違うな、恐らく我慢してただけだ。

実際テックトナース暦1069年、遂に帝国の堪忍袋の緒が切れた。

その年にドラゴンから要求された贄の数は2000人だ。

前の年に比べて100倍だったからな、長年贄の要求に苦しめられていた帝国はこれを期に国中に御触れを出した。

ドラゴンの王を討伐した者には望みの報酬を与えるってな。


その時集まったのが後に英雄と呼ばれることになった四人、つまりユヴァロス、アイテル、ノッグル、そして私だ」


「そのときのおはなし、ききたい!」


目をキラキラさせて纏わりついてくるカインを引き剥がし、ルナリアは話を続ける。


「また今度な。

で、一年かけてドラゴンを討伐したんだが……。

さっき言った通りドラゴンとの戦いで私が少し力加減を間違ったせいで、大陸が三つに割れたんだよ。

まぁ、帝国にはドラゴンがやったって報告したけどよ」


「いけないんだー!」


デコピンでカインを黙らせ、ルナリアは歴史書を閉じ、カインに向き合った。


「煩い。まぁ報告された側の帝国も私が城内にいた全員を殺したせいで崩壊したけどな。

この事件を英雄事変っていうらしいぞ?」


「おねーさんのぶゆうでんだね!」


「その通りだ。で、ゾルアナ大陸崩壊後に新しくできた三つの大陸の呼称は、そこに住む者達によって決定された。

北西に位置するのがヨルムナ大陸、南西に位置するのがエルフィア大陸、東に位置するのがゴルドルト大陸だ。

それぞれ人族、エルフ、ドワーフが統治してるからな?」


「りょーかい!」


「ただし、ヨルムナ大陸に関しては私が定期的に撹乱してるから常に乱世が続いてる。

それと、各大陸は互いに不干渉を貫くという条約も結んでいるのも覚えておけよ?ちなみにこの締約をフォルメール契約と呼ぶ」


「わかった!」


元気に頷く弟子を見ると、ルナリアはニィッと口角を吊り上げる。


「よし、今のが三回目の大雑把な説明だ。今度はお前が私に説明してみろ」


「えっと…………わすれちゃった」


本日三回目になる、ルナリアの高笑いが宿に響き渡った。



$$$



【本日の評価】


評価対象

カイン


評価者

ルナリア


評価

集中力C+

暗記能力F-

意欲A+


備考

完全に暗記したのは十五回目だった。

【ソルリア式授業術】

ルナリアが採った授業形式。

一度教えた後、弟子に説明をさせるというもの。

ルナリア自身もこの方法で様々なことを学んだ。


【龍の山脈】

ドラゴンが治めていた高く険しい山々の総称。

現在は殆ど消失しており、ドラゴン達は各地の山や洞窟に居住地を移している。


【フォルメール契約】

三種族の代行を地下街モルガルに集めて行われた極秘の会談において締結された条約。

大陸同士の同盟や、軍の派遣を禁じる為にルナリアが三種族に押し付けた迷惑な代物。

因みに条約違反をした場合、ルナリアに対する宣戦布告とみなされる。


【暦の変更】

元号の変更と同じで殆ど何も変わらない。

精々、王の誕生日が祭りになるくらい。


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