30 極悪非道エルフの授業準備 3
3個目のレビューを頂きました!
カラフルロック様、
本当にありがとうございます!
光が落ち着くとルナリアはすぐに辺りを見回した。
妙に見覚えのある湯船とシャワー。
どうやら魔女の安息所の浴室に転移したらしい。
「…………何とかなったか」
疲れ気味にそう呟くと、ルナリアは浴室の扉を開けて部屋に出た。
そして自らの行いを後悔することになる。
「…………おい、何で下着姿で抱き合ってんだ?人外バカップル」
ルナリアの視線の先には部屋のベッドの上で抱き合っている、マシュリとホルトの姿があった 。
夜から何やってんだか、そういうことは昼間にやってほしい。
二人はルナリアを視界に捉えると目をパチパチさせていたが、やがて顔を真っ赤にして叫び声をあげる。
「ワァァァァア!!」
「ニャァァァァア!!」
マシュリが叫ぶのは日常茶飯事だがホルトが叫ぶのは中々珍しい。
低音で声が通る分、余計に煩い。
二人の叫び声が収まると、ルナリアは耳を塞いでいた手を離し、ドアに向かって歩き出す。
「煩い、黙れ。私より、そこで覗いてる馬鹿に警戒しろ」
そう言ってルナリアが廊下と面しているドアを蹴り開けると、そこには鼻血をダラダラ流しているアイテルが真剣な顔で正座していた。
ルナリアは冷たい目をしてアイテルのこめかみを掴んで彼女を持ち上げる。
「痛い痛い痛い痛い」
第三の騒音に顔をしかめると、ルナリアはこめかみを掴む力を僅かに弛めた。
「痛い以外で何か言いたいことはあるか?」
「人外カップル万歳!」
ルナリアは呆れ顔で溜め息を吐くと、アイテルをマシュリとホルトの前に投げ捨てる。
ボフンッとベッドの上に着地したアイテルが顔を上げると、目の前には目が笑っていない笑顔のホムンクルスと獲物を見るような目付きをした猫少女が凄まじいオーラを発していた。
「ふ、二人とも顔が怖いわよ?接客業は笑顔が大事よ?」
カタカタ震えながらアイテルは上目使いでそう言ってお茶を濁そうとする。
「マシュリさん、胸肉って美味しいと思いますか?」
「ホルト君、この人の胸肉は脂肪だけしかないにゃ…………出汁はとれるかもしれないにゃ」
残念ながら二人にアイテルの言葉は届かず、マシュリとホルトは何やら物騒な相談を始めた。
アイテルは藁にも縋る思いで涙が溜まった目でルナリアを見る。
「る、ルナリア?助けて欲しいのだけれど…………」
「マシュリ、ホルト。殺さない程度に好きに使え、その馬鹿の性格もいい加減矯正してやりたい」
アイテルの救援要請を黙殺してそう言うと、フンッと鼻を鳴らし、ルナリアは部屋を出ていった。
その直後アイテルの悲鳴と共にドゴッとかバゴンッという物騒な音が響いていたが、ルナリアは素知らぬ顔で自分の部屋に戻っていく。
アイテルのことだ、どうせ死なないだろ。
$$$
「あれ?あいせんせーは?」
ルナリアが部屋に入るなり、カインはそう言って首を傾げた。
ルナリアは静かに水晶玉を机の上に置くと真面目な顔でカインと向き合う。
「アイテル先生は重傷を負った為お休みなので、代わりに私が史学の授業をします…………グッ!」
そう言い終えるや否や、ルナリアは床に膝をついた。
慌ててルナリアの元に駆け寄ると、カインは心配そうに彼女の顔を覗きこむ。
「おねーさん、くるしそうなかおしてるよ?」
「苦しいんだよ、敬語なんて使うんじゃなかった」
「むりしないで?」
「そ、そうさせて貰う」
何とか息を整え、痛む胃を落ち着けると、ルナリアは立ち上がって深呼吸した。
「はぁ、やっと落ち着いた。よし、準備はいいかっ!?」
「はいっ!」
何事もなかったかのように威勢よく声を張り上げるルナリアにつられてカインもまた大声を上げる。
「よーし、良い返事だ。それじゃ始めるか」
そう言うとルナリアは水晶玉に手を翳した。
すると水晶玉がグニャリと歪み、シャボン玉のようにフワフワと空中に浮きはじめる。
「おねーさん、これさわってもいい?」
無邪気に目を輝かせながらカインはそう言ってルナリアを見上げた。
「駄目だ、下手に触ると中身が無惨なことになる」
そう言うとルナリアは、水晶玉に手を伸ばすカインの襟を引っ張る。
「ええー!だめなの?」
「駄目だ、少なくとも魔法学を修了するまではな」
「むー」
諦めずに再び手を伸ばすカインの頭を小突くと、ルナリアは彼を椅子に座らせた。
シャボン玉と化した水晶玉を注意深く眺めていたルナリアだが、ふーっと息を吐くと一気に指を挿し込んで切れ込みを入れる。
するとボンッという音と共にシャボン玉は煙に包まれ、煙が無くなる頃には五冊の本に姿を変えていた。
空中を漂っている本を手に取ると、ルナリアは机の上にそれを置き、カインに笑いかける。
「さて、終わるまで外出禁止な?」
「?」
よく分からないといった感じで首を傾げるカイン。
彼はまだ知らない、ルナリア流教育術がどういう物なのかを。