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29 極悪非道エルフの授業準備 2

立入禁止の文字を無視して扉を開けると、そこには異様な空間が広がっていた。

書庫とは違って黒い岩でできた床と壁、そして天井。

床全域に刻み込まれた複雑な魔法陣は恐らく人間が知るべきものではない。


ルナリアはその魔法陣の中心に立ち、己の魔力を展開すると、魔法陣が赤く光り始めた。

だが、それと同時にルナリアから放たれた魔力によって壁や天井が蝕まれ、徐々に砂に変わり始める。


「これじゃ、一往復しか出来ないな」


そう言って舌打ちすると、ルナリアは右手に魔力を纏わせ、高らかに掲げた。

すると魔法陣が浮かび上がり、ルナリアを包むようにして球体を形成される。

魔法陣は忙しなくグルグルと回り続け、やがて一際強く光ると部屋の中にルナリアの姿は無かった。



$$$



光が消えると、ルナリアは先程とは別の部屋に立っていた。

とても豪勢に作られているこの部屋は、王宮の一室でありルナリアの部屋でもある。

魔力を落ち着かせて伸びをすると、ルナリアは窓を開けて空を見上げた。


「相変わらず変な空だな」


ルナリアの目の前に広がる光景は、およそ人知の至らないものだろう。

紫の月と緑の太陽が動くことなく白い空に鎮座しており、道行く人は皆、翼や角が生えていた。


ここは魔界、悪魔達の世界であり、ルナリアにとっては第二の故郷だ。




窓を閉じたルナリアは部屋を見回して異常がないか確認すると、スッと窓枠に指を這わせた。


「……埃一つ付かない」


あの優秀な侍女が掃除したのだろう。

部屋はルナリアが滞在していた頃と変わらず汚れ一つ無い。

相変わらず仕事熱心な奴だ、と感心しているとドアが開けられ、部屋の中に懐かしい声が響いた。


「あ、お嬢様!お帰りなさい」


ルナリアが声のした方を振り返ると、背中に蝙蝠の翼が生えたメイドがニコニコしながら彼女を見ていた。

不思議な魅力を秘めた笑顔、ツインテールに纏められた長く綺麗な金髪、極めつけは夜空のような蒼い目。


ルナリアは笑顔で彼女に歩み寄ると優しく頭を撫でる。


「久しぶりだな、アリス」


ルナリアの手を掴むと、アリスは恍惚とした表情で彼女の小指の腹に舌を這わせる。

ゾクゾクした刺激が指先から身体中に走り、ルナリアが思わず手を引っ込めると、アリスはウフフと妖艶に笑ってルナリアを見上げた。


「久しぶりって程でもないよね?最後に会ってから少ししかたってないし」


「人界にいると感覚が変わるぞ?今度来てみるといい」


「考えておくね。で、いきなり帰ってきてどうしたの?」


「人界の歴史書を取りに来たんだよ。悪いが図書館から五冊くらい取ってきてくれ。あ、ラグザールにはバレないようにしてくれよ?」


魔界こっちでのお仕事溜まってるもんねー。頑張って取ってくるよ」


そう言うとアリスは一礼して部屋を出ていった。

ルナリアは食器棚の奥にある隠し棚からワインを取り出し、グラスに注ぐとそれを机の上に置く。


「…………昔ならワインを開かせるなんてしなかったんだがな」


そう呟くとルナリアは椅子に座ってナイフの点検を始めた。


彼女の使うナイフは全てドワーフの名工に作らせた一級品だ。

しかし、いくら一級品と言えど磨耗はする。

残念ながら四本の内一本が磨耗し過ぎて再起不能になっていた。

物悲しげにそれを眺めるとルナリアは他の三本だけをベルトに戻す。


「頃合い…………じゃないな」


ワインの香りを嗅ぐとルナリアはそう言って、少し不機嫌そうにグラスを回す。

やがて香りが良くなったのを確認すると、ルナリアはワインをチビりと一口飲んだ。


「まあ、悪くないな」


苦笑しながらもう一口飲むと、ルナリアはグラスをそっとテーブルの上に置く。


その時、静寂を破るかのように勢いよく扉が開け放たれた。

サッと椅子から立ち上がってドアの方を確認すると、水晶玉を抱えたアリスがゼーゼーと苦しそうに息をしている。


「何があった?」


「お嬢様、逃げて!賊執事が来るよ!」


そう言うとアリスはルナリアに水晶玉を押し付けて扉を閉めた。

ルナリアは水晶玉の中を確認すると満足気に笑って窓際に走っていく。


バンッと乱暴にドアが開けられると同時に、ルナリアは窓を開け放ち、縁に足をかけてドアの方に振り向いた。


「悪いな、ラグザール!弟子が待ってるから長居はできないんだよ」


「御待ち下さい!せめて定例会議だけでも……!」


「それ一回開いたら三年掛かるだろ?じゃあな!」


そう言って不敵に笑うと、ルナリアは窓の外に飛び降りる。


「【第二界位より、第三界位へ。マライノールの抜け穴よ、我が前に開け】」


詠唱と同時に魔法陣を空中に展開させると、ルナリアはその中に飛び込む。

やがて体を光が包み始めルナリアは魔法が発動できた事を安堵するが、いつも問題はこの後起こっている事を思い出し、苦笑いを浮かべた。


「転移魔法は苦手なんだが…………どうにかなるか」


ルナリアを包む光が一際強くなった直後、彼女の姿は魔界から無くなっていた。

【アリス】

本名はアリス・アルタード。

ラグザールと同時期にルナリアに仕え始めた上級悪魔。

かつて一方的にルナリアをライバル視していた事もあったが、今は彼女に陶酔している。

ラグザールの妻で双子の娘がいるが、娘達は現在家出中。

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