2 極悪非道エルフの大掃除
【本日の依頼内容】
仕事内容
魔女の安息所の客を全員追い出す
依頼人
無し(自主業務の為)
報酬
私が全部屋借りられる
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「さーて、御仕事の時間だ」
そう言ってルナリアは最上階の角部屋をノックする。
中から目に傷のある金髪の男が出てきた。
彼はルナリアを見るとダラダラと冷や汗を流し、震える声で何とか彼女に話し掛けようとする。
それを制止するように彼の喉元にナイフを突き付けるとルナリアは邪悪な笑みを浮かべた。
「何も言わずにさっさと出ていけ。この宿は私が全て借り受けた。他の奴等にもそう伝えてくれるか?」
コクコクと必死に頷くと男は部屋の荷物を5秒で纏めて部屋を飛び出して行った。
仕事のできる奴だな。
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エントランスに行くと長蛇の列が出来ていた。
成る程これだけ泊まっていたのなら違約金の高さにも納得がいく。
ルナリアはエントランスにあるテーブルを占拠するとウェイターを呼びつけた。
「ご注文は?」
「紅茶を頼む」
「砂糖やミルクはいかがなさいますか?」
「結構だ、ストレートで飲むのが好きなんだ」
「畏まりました」
ウェイターは笑顔で一礼してから厨房へオーダーを伝えに行った。
怯えないとは中々見所があるな、あのウェイター。
しばらくするとウェイターはトレーに紅茶をのせて戻ってきた。
「お待たせ致しました」
「ありがとう」
ウェイターは紅茶を置いて一礼するとその場を立ち去ろうとする。
紅茶を飲みながら裾を掴んでそれを阻止すると彼は困ったように笑ってルナリアの方を向いた。
「どうかなさいましたか?」
「お前は私が怖くないのか?」
カップから口を離して言うと、彼は爽やかな笑顔を彼女に向けた。
「お客様は神様ですから、信仰対象であって警戒対象ではありませんよ?」
「どんな新興宗教だそれは……だが気に入った。これからオーダーはお前を通して行うことにしよう」
「ありがとうございます。御用命の際は私、ホルトにお申し付け下さい」
笑顔で一礼するとホルトはその場を立ち去った。
残りの紅茶を飲み干すと席を立って適当な部屋に行こうと立ち上がる。
だが運の悪いことに椅子を倒してしまった。
途端にガタンッと大きな音が立ち、エントランス中の視線がルナリアに集まる。
「ル、ルナリアだ!」
列に並んでいた男がルナリアを指差して言った。
「「ギャァァァァア!!」」
長蛇の列を作り上げていた奴等はルナリアを見ると悲鳴を上げて一目散に逃げて行った。
受付嬢は唖然としていたが、やがて面倒な仕事が消え去ったことに気が付くとルナリアに向かってグッと親指を立ててくる。
そして何を思ったのか彼女はカウンターの下から魚を一匹取り出してプラプラと揺らして見せた。
すかさずルナリアは矢を放ち、その魚を射ぬく。
「ニャァァァァア!お魚が!」
「何だ的当てじゃないのか」
受付嬢は悲鳴を上げて穴の空いた魚を拾い上げ、抗議の視線をルナリアに送った。
「違うにゃ!ルナリアさんにお礼で渡そうと思ったのにゃ!」
「そうか、それならソテーにして食うか…………所で他の受付嬢はどこに行った?」
「あの娘にゃら荷物を纏めて逃げていったにゃ。だから代わりに掃除係の私が受付担当に、にゃったのにゃ」
逃げたのか……。
まあ、ゴロツキでも逃げ出すからな。
仕方ない。
落ち込みかけている自分を無理に納得させると彼女に向き合う。
「そうか、101号室を生活拠点にするとオーナーに伝えておけ」
「はいにゃ、一番手前の部屋にゃね。そしたらこれを持っていくにゃ」
そう言うと受付嬢は鍵を一つ取り出してルナリアに投げて寄越した。
そうか、施錠できるんだったな。
「済まない。……お前、名前は?」
「マシュリにゃ」
「これからよろしくマシュリ」
よろしくと言われたのが意外だったのかマシュリは目をパチパチさせていたが、やがて嬉しそうにルナリアに笑いかけた。
「はいにゃ!…………所で一ついいかにゃ?」
「…………一つだけだぞ?」
「にゃんで全員追い出したのにゃ?」
「あぁ、将来有望な若者達を殺さないためだ。イラついてると間違って殺すことがあるからな」
ルナリアがそう言うとマシュリは青い顔をして魚を差し出してきた。
貢ぎ物らしい。
それを受け取るとルナリアは部屋に入った。
長旅で疲れてるし寝たい。
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【最終リザルト】
報酬
全部屋借用の権利
ホルトの専属化
穴の空いた魚
備考
違約金は殆ど支払われず、アイテルの懐に入った。




