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28 極悪非道エルフの授業準備 1

「さーて残念なお知らせだ。今日の鍛練は座学になった」


「ざがく?」


「勉強のことだ」


「えー!」


夕飯を食べながらカインは不服そうに声をあげる。

当然と言えば当然である。


だが昨日ルナリアがカインに幾つか質問した際、彼が教育を一切受けていないことが判明した。

流石のルナリアでさえ危機感を募らせるほど、カインは無知だったのだ。


「ただのゴロツキなら学が無くてもなんとかなるが、暗殺者となると基礎的な教養は必要だぞ?」


そう言いながらルナリアは淡々とパンにバターを塗り続ける。


「どんなとき?」


「貴族の館に潜入して暗殺をするときだ。社交辞令の一つも言えないと怪しまれてやり辛くなる」


「そっか…………じゃあ、がんばらないと」


渋々といったように頷くカイン。

やはり暗殺者になりたいらしい…………なんでだ?


不機嫌そうにモソモソとパンを食べるカインの頭を撫でると、ルナリアはデザートのケーキを自分の皿から既に空になっているカインの皿に移して笑った。


「まあ、今日やる分が終わって時間が余れば、模擬戦くらいしてやれるぞ?」


「ほんと!?なら、がんばるよ!」


嬉しそうにそう答えると、カインは幸せそうにケーキを口に運ぶ。

その様子を見てだらしない笑みを浮かべているアイテルにクロワッサンを投げ付けると、ルナリアはカインの肩をポンッと叩いて微笑んだ。


「その意気だ。座学っていっても魔法学と史学の二つだけだ。気楽に教えるから、力を抜いて話を聞いてればいい」


「うん!」


期待通りの返事に満足気に微笑むと、ルナリアは先程からバターを塗り続けていたパンを口に放り込む。


「世の中分からないものね」


投げ付けられたクロワッサンを食べ終え、のんびりと紅茶を楽しんでいたアイテルは、そう言ってルナリアに視線を向けた。


「ルナリアが魔法学を教える日が来るなんて思いもしなかったわ」


感慨深そうにそう言うとアイテルは優雅に紅茶を飲む。

対してルナリアはパンを飲み込み、呆れたような顔をして一言。


「何言ってんだ?魔法学はお前が担当だぞ?」


「なっ!?ッ!ゴホッゲホッ!!」


優雅に飲んでいた紅茶を飲み込み損ね、アイテルは盛大にせた。

それを見てルナリアは腹を抱えて笑っていたが、アイテルから放たれた刺すような視線に気付き、ヒィヒィ言いながらどうにか笑いを堪える。


「意表を突くって言うのは、こういう事だ。ざまぁみろ!」


「授業は引き受けてもいいのだけれど…………私に何か恨みでもあるのかしら?」


「家賃が高い、安くしてくれない」


大金持ちと言えど、切実な願いである。


「そんなこと言ってると授業料貰うわよ?」


しかしアイテルは一切取り合わずピシャリと言い放ち、ルナリアを牽制した。

だが授業料と聞いたルナリアはニヤリと笑う。


「一回いくらだ?」


「金貨1枚」


そう言って、どうだ!と言わんばかりにドヤ顔をしたアイテルだが、ルナリアの反応は淡白なものだった。


「そうか、払ってやるから最高の授業にしろよ?」


「へ?」


意外な返答にアイテルは拍子抜けしていたが、やがて自分の言った事を後悔し始めた。


「やっぱり今の無s―――」


「良かったな、カイン。世界一の魔女が全力で魔法を教えてくれるぞ?あ、教室は私の部屋だからな?」


「わーい!」


ルナリアにアイテルを後に引かせるつもりは毛頭ない。

観念しろと言うようにルナリアが不敵な笑みを浮かべると、アイテルは机に突っ伏して呻き声を上げる。


因みにマシュリとホルトは食事中ずっと、二人だけの世界でイチャイチャし続けていた。



$$$



「クソッ!どういうことだっ!」


本棚の森にルナリアの怒声が響く。


ここは魔女の安息所の地下に広がる広大な書庫だ。

まだこの建物が宿になる前から存在するこの部屋にはルナリアが趣味で集めた魔法学の書物や、禁書が数多く保管されている。

その数およそ三万冊。

恐らく世界最大の図書館だろう。


ルナリアの怒声を間近で聞いていたアイテルは耳を塞いでいた手を離すと、再び目当ての本を探し始める。


「怒られても本当に困るのだけれど」


授業の準備をしようと書庫にやって来た教師二人だが、魔法学の書物はあっても史学に使えるものは一冊しか無かった。


「何で一冊しか歴史書が無いんだ?」


「常に最新の物を取り揃えたいのよ」


「…………勝手に処分したな?」


「一冊あるだけましだと思って頂戴」


そう言うとアイテルは本棚から一冊の本を取り出して満足気に笑った。

無いものは仕方ない、と諦めたように呟き、ルナリアは溜め息を吐きながらアイテルの頭を叩く。


「仕方ない、取ってくる。魔法陣はまだ使えるな?」


「知らないわよ、貴女以外誰も使えないのよ?」


「そうかよ」


痛む頭を押さえながらそう答えたアイテルに背を向け、ルナリアは立入禁止と書かれたドアに向かって歩いて行った。

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