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27 極悪非道エルフの指導方針2

「お待たせ致しました。お水です」


営業スマイルを顔に貼り付けたホルトはコップ一杯の水を持ってくるとカインに手渡した。


「…………ぷはっ!おみずってこんなにおいしいんだね!」


「体を動かした後は何を飲んでも旨いぞ?」


「じゃあ、もっとうんどうする!」


水を飲み干したカインはそう言ってニパーッと笑い、ホルトにコップを返した。


「ほーさん、ありがとー!」


「ほーさん……!」


コップを受け取りながら恍惚とした表情を見せるホルトを見て、ルナリアはゲラゲラと声をあげて笑う。


「ホルト、口元が弛んでるぞ?」


そう指摘されたホルトは気恥ずかしそうに顔を背け、落ち着かないというようにコップを手の中で遊ばせた。


「す、すみません。初めてあだ名というものを頂いたので、つい」


「…………お前、生まれて何年だ?」


「八年です」


「ああ、だからか」


「何がですか?」


「いや、何でもない」


あだ名が無かったのは友達が少ないからだと思っていたとは口が裂けても言えない。


「そうでしたか、それでは私はこれで失礼します」


不思議そうに首を傾げていたホルトだが、深く追求しても良いことが無いと察したのか、そのまま一礼して宿へと戻っていった。


ルナリアが肩を回しながらカインを見ると、彼はやる気に満ち溢れた顔を彼女に向ける。

…………中々良い目をしてるな。


「さて実戦的な修行だが、私との模擬戦だ。取りあえずこれを使え」


普通のナイフを抜きながらそう言うと、ルナリアは笑いながらカインにそれを渡す。


「え?おねーさん、けがしない?」


ナイフを受け取りながらそう言って心配そうな顔をするカインに対し、ルナリアは不敵に笑って彼の懸念を一蹴した。


「お前に怪我させられる程、私は弱くないからな?」


そう言うとルナリアは別のナイフを抜いて掌に載せて一言。


「フォーク」


するとナイフはガタガタと震え、ガタンッと一際大きく揺れた瞬間にフォークに姿を変えた。

先が三本に分かれているそれは、誰がどう見てもパスタ用のフォークにしか見えない。

だがルナリアは満足気に目を細めると、指先を駆使してフォークを器用に構えた。


「ほら、いつでもいいz―――」


「そりゃ!」


ルナリアが言い終わらない内に、カインは彼女の足目掛けてナイフを真横に振り抜く。


「やるな!だが、甘い!」


ジャンプしてそれを避けると、ルナリアはニヤリと笑ってフォークを降り下ろした。

カインはバックステップでなんとかフォークを避け、ルナリアに向かってナイフを投げ付ける。


「おっと!」


心臓を正確に狙って投げられたナイフをフォークで受け止めると、ルナリアはカインに一気に距離を詰めて首にフォークの切っ先を突き付けた。


「チェックメイト、だ」


「まけちゃった!」


楽しそうにケタケタ笑うカインの頭を小突きながら、ルナリアは様々な事を思案する。

やがて面倒だと言いたげに溜め息を吐くとカインの頭を撫でた。


「奇襲に関しては見事だった。普通ならあれで致命傷を負わせられるから安心しろ」


「うん!」


「問題はその後の戦術だ。ナイフの扱いは上手いのに何で投げた?」


「おねーさんをびっくりさせたくて…………」


「まあ、ある意味ビックリしたな。もし敵の意表を突きたいなら、相手を何かに集中させた状態にしてからにしろ」


「んー、よくわかんない」


素直な弟子はそう言って首を捻った。

ルナリアは撫でる手を止めると、フッと楽しげに笑う。


「明日から叩き込んでやるから安心しろ」


「うん!」


「よし!今日はこれくらいにしておくか」


「わかった!」


満足気に歩き去る師弟に向けられた殺気に気付いているのは恐らく師の方だけだろう。



$$$



エントランスに戻るとアイテルとリリがチェスをしていた。

さっと盤面を覗いたルナリアはリリが劣勢だと気付き、素知らぬ顔をして一言。


「リリ、E3にナイトだ」


「ふぇ?あ、本当だ!!」


言われて通りにリリは駒を動かす。

するとアイテルが凄まじい形相でルナリアに掴みかかった。


「ルナリアァァァァア!!」


「煩い、喚くな」


「喚くわよ!人の真剣勝負を引っ掻き回さないでくれるかしら!?」


「知るか、あんな盤面にしたお前が悪い」


「なんですって!?」


「二人とも喧嘩は良くないにゃよ?」


離れた席でホルトとスコーンを食べていたマシュリはそう言ってヘニャッと笑う。


「喧嘩じゃない。こいつが因縁つけてきてるだけで、私は被害者だ」


「どの口が言ってるのかしら!?」


「黙れ、私は風呂に入るのに忙しいんだ」


アイテルの手を引き剥がしながらそう言うと、ルナリアはツカツカと自分の部屋に戻っていく。

カインはアイテルやリリに手を振るとルナリアの後についていった。



$$$



部屋に戻ったルナリアは、すぐに服を脱ぎ捨てると浴室に入った。

いつものようにシャワーを頭から浴びながら、様々な事を考える。


「…………私らしくない」


一通り情報を整理し終えると、ルナリアは思考を止めて湯船に体を沈めた。



全身が暖まり、そろそろ体を起こそうかと思っていた矢先、誰かに急に体を持ち上げられた。

パッと目を開けると泣きそうな顔をしたカインが目に映る。


「どうした、カイン?」


「のぞきにきたら、おねーさんがゆぶねにしずんでて…………しんじゃったのかとおもったんだよ!?」


捲し立てるようにそう言うとカインはルナリアに抱き付く。

このままだとカインの服が濡れてしまうな、と思いながらルナリアは、カインを抱き締め返して彼の背中をさすった。


「安心しろ、この程度じゃ私は死なない」


「そっか!」


安心したように息を吐くと、カインは抱き締めていた手を離してルナリアから顔を背けた。

今更顔を赤く染めている弟子の頭を小突き、ルナリアはとある疑問を口にした。


「所でカイン。覗きに来たってどういうことだ?」


「え?まーなはおんなのひとのおふろは、のぞくのがれいぎだっていってたよ?」


「…………そうか」


この後、マーナが散々説教されたのは言うまでもない。



$$$



【本日の評価】


評価対象

カイン


評価者

ルナリア


評価

運動能力 A+

戦術 C-

人間性 S

常識 F


備考

常識はマーナのせいで歪んでいる。

直すのに苦労しそうだ。

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