表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/74

23 極悪非道エルフとフォールンエルフ 1

異扉ゲートを通って魔女の安息所に戻ったルナリアを待っていたのは豪華な食事と温かい笑顔だった。

だが、ルナリアはそれらに目もくれずにリリに歩み寄ると首元にナイフを突き付ける。


「な、何するのさ!」


「黙れ、この間干し肉を騙し取った罰だ」


「わ、悪かったよ姉御!お願いだからナイフをしまってよ!」


リリが必死にそう訴えると、ルナリアはニィッと笑ってカインの方に振り返る。


「ダウトだ。カイン!あれを使え」


「うん!わかったよ。【 うろこをはがれたりゅうのごとく、ししをおとされたけもののごとく、かのものにせいののろいあれ 】」


途端にリリはその場に倒れ伏し、恨めしそうにルナリアを見上げた。

だが、ルナリアはそんなことはどこ吹く風というように涼しい顔をして詠唱を始める。


「【我が前に、卑しき魔花は、散華せり】」


詠唱を終えると共にルナリアから桜が散るように魔力が放出され、リリに纏わりついた。

赤く光るルナリアの魔力がリリに触れる度に彼女の姿が蜃気楼の様にユラユラと揺れる。

ものの数秒で認識偽装の魔法が崩壊し、リリの代わりに黒髪のエルフの女が姿を現した。



$$$



「で?お前は誰だ」


ルナリアは黒髪のエルフを足蹴にしながら、怠そうに聞く。


「あ、貴女に教える積もりなんて無いわ!」


キッとルナリアを睨み付けると、エルフは吐き捨てるようにそう答えた。

怒るかと思いきや、ルナリアは冷静に頷いてカインにニヤッと笑いかける。


「カイン好きな指折ってやれ」


「うん!」


最高の笑顔を浮かべながらカインはエルフに近付くと、彼女の左手を持ち上げて中指を掴む。

するとエルフの女は困惑して目を見開いた。


「へ?う、嘘でしょ!?こんな子供が酷いことできるわけn―――」


「えいっ!」


メキッ。


言い終わるのを待たずにカインはエルフの指を反り返らせ、そのまま圧し折った。


「イギャァァァァア!!」


痛む指を押さえることもできず、かといって床を転げ回ることもできないエルフは痛みを発散するべく凄まじい叫び声を上げる。


「おねーさん、このひとうるさい」


「だな。もう一本逝っとくか?」


イカれた師弟はさも当たり前であるかのように頷き合う。

だが、比較的常識人であるアイテルがそれを許す筈もなく、二人の頭に本による打撃が炸裂した。


「いたっ!?」


「痛ぇな!」


不服そうに見上げてくる二人に呆れた眼差しを向け、アイテルは溜め息を吐く。


「止めなさい、ルナリア。そして色々説明してくれないかしら?」


「時間がないかもしれないから却下だ。ほら名前くらい自分で言えるだろ?」


そう言ってルナリアはエルフの頭を小突く。


「あ…………ぁ―――あ、ぁ」


エルフの必死の応答にルナリアは目を吊り上げ、彼女の胸ぐらを掴んだ。


「ああああ、だと?ふざけるな!そんな名前の奴がいてたまるか!」


我を忘れて叫び散らすルナリアを叩いてエルフから引き剥がし、アイテルは憂鬱そうに溜め息を吐く。


「そう決めつけないで頂戴。もしかしたらアーア・アアさんかもしれないでしょ?」


「んな名前あるか!」


噛みつくようにして言い返す師を横目に、カインはエルフの側に腰を下ろすと、彼女にニパーッと笑いかける。


「なまえ、きいてもいい?」


「あ…………り、な」


顔を青くしてアリナは絞り出すように、そう答えた。

苛立ち紛れにアイテルを叩いていたルナリアは、アリナという名前を聞いて目を丸くする。


「何だ、フォールンエルフの王女か!」


それを聞いてアイテルが凍りついたのは言うまでもない。



$$$



その後、アリナが王女であることを知ったアイテルはすぐにカインに魔法を解かせ、自分で彼女の指を治療した。

そしてアリナを丁寧に金の鎖で縛り、椅子に座らせて今に至る。


「で?この子はルナリアの知り合いなのかしら?」


「いや、こいつが赤ん坊の時に顔を見ただけだ。知り合いじゃない」


気だるそうにそう言うとルナリアは紅茶を一口飲む。

お前も飲むか?とルナリアがアリナにジェスチャーで伝えると、彼女は殺意のこもった視線をルナリアに返した。


「貴女、一体何をしたの?あの目は親の仇を見る目よ」


「あいつの両親と親兄弟を皆殺しにしただけだ。普通だろ?」


「…………いつの話かしら?」


頭を抱えてそう聞くアイテルに対し、ルナリアは自慢気に胸を反らして上機嫌に話し始める。


「ざっと100年くらい前だ。腹が減って森で狩りをしてたら、いつの間にかフォールンエルフが崇めてる神獣を食べてたらしくてな。そのせいで軍を送り込んできたんだ。で、私はただ喧嘩を売られたと思って軍と王族を皆殺しにした。こいつ以外な」


そこまで話すとルナリアは文字通り目を光らせてアリナに向き合った。


「今は殺しておけば良かったと思ってるけどな…………正直に答えろ、リリはどこだ?」


「あの娘なら家で寝ている」


悔しそうに歯噛みするアリナを嘲笑うように鼻を鳴らすと、ルナリアは手をパンパンと二回叩く。

すると厨房でマシュリと隠れていたホルトが嫌々ながらエントランスに出てきた。


「御呼びでしょうか?」


「一番街一区に行ってリリを連れてこい。寝てたら担いできてくれ」


「分かりました」


一礼するとホルトは駆け足で宿から出ていった。

【フォールンエルフ】

通常のエルフが精霊に力を借りて魔法を行使するのに対し、

フォールンエルフは悪魔の力を借りて魔法を行使する。

魔法を行使する度に魂を削られるので、大抵人族と同じくらいしか生きられない。

魔法を使わなければエルフと同様長生きできる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ