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20 極悪非道エルフと騎士団長の秘密 6

騎士団長は直感的に理解した。

今目の前にいる少女には敵わないと。

彼女が発する魔力と殺気は、およそ人間が持つものではない。

ルナリアがエルフであることを差し引いても、明らかに彼女は異常だ。


「衰えたんじゃなかったのか……?」


カタカタと震える騎士団長に対して、ルナリアは邪悪な笑みを浮かべて彼を見据えている。


「衰えた?あぁ随分昔にそんな噂を流させたことがあったな。まぁガセネタだけどな」


一昔前に突っ掛かって来る馬鹿が居なくなって退屈した際に流した覚えがある。

残念な事に当時は一切効果がなかったが。


「ば、馬鹿な!大金を払って得た情報だぞ!?」


「もう少しマシな売り手を選んだ方が良かったな。で?言いたいことは他にあるか?」


そう言うとルナリアは弓を構えて矢をつがえ、騎士団長に狙いを定める。

魔力を籠められた矢は赤く光りだし、不気味にその光を揺らめかせた。


「くっ……!」


この時、騎士団長は心の底から神に願った。

何を犠牲にしても生かしてくれ、と。

その時、綺麗で厳かな声が部屋に響き渡った。


『願いは聞き届けられた。人の子よ、力を貸そう』


幸か不幸か、彼の願いは神々に届いたらしい。


一方、部屋に響いた声を聞いたルナリアは目を剥いて怒りを露にした。


「またお前かっ!フェルディーア!」


怒声と共にルナリアからほとばしる魔力は砂嵐の如く周囲にある物体を巻き込み、蝕んでいく。

檻は一瞬にして錆びた塊になり、中に居た人間は骸骨に姿を変えた。

床の石は砂に変わり、天井も徐々に崩れ始める。


唯一の例外はルナリアの側に居たカインだけだ。

カインがルナリアの魔力に触れた途端に彼の目は青く光り出し、彼の体を包むように魔力を放出した。

そのお陰でカインは退屈そうに欠伸をしていられる。



十分後―――。


どうにか魔力を落ち着かせたルナリアは目の前で未だに生きている男を見て溜め息を吐いた。


「神の加護でも受けたのか?普通なら骸骨と鉄屑になるんだけどな」


呆れ顔のルナリアに対して、光り輝く鎧に身を包んだ騎士団長は、剣と盾を構えて自慢気に高笑いを響かせる。


「フハハハ!これこそ神の力!信仰の証!貴様の力は私には通用しないぞ!」


「そうかよ。【禁弓二式 杜若】」


簡易詠唱と共に放たれた矢は、神の加護を受けた盾によって弾かれ、ルナリアを驚かせた。


「ギャァァァァア!!」


……筈だった。

少なくとも騎士団長の予定としては。


「痛い痛い痛い痛い痛イィィィィイ!?」


ルナリアの放った矢は、神の加護(笑)を受けた盾を貫き、同じく神の加護(笑)受けた鎧を貫いて騎士団長の足を貫通した。

痛みに馴れていないのか、騎士団長は剣と盾を放り出し、無様に砂の上を転がり回って叫び続けている。

ルナリアは芋虫のようにひたすら転がり続ける騎士団長を蹴り飛ばして動きを止めさせると、冷たい目で彼を見下ろした。


「お前、馬鹿だろ?私が神々と戦った頃には禁弓は存在してないからな?高々加護程度で防げるわけ無いだろ」


「痛い痛い!助けてくれっ!死にたくないっ!」


「おい、聞いてるのか?聞いているならもう一回、聞いてないなら痛いと言え、それ以外の言葉を話したら殺す」


ルナリアが再び矢をつがえると、騎士団長は歯を食い縛って何とか声を絞り出す。


「も、もう一回……!」


「そうか、もう一回か。それならお望み通り、【禁弓二式 杜若】!」


「ムギイィィィィイ!?」


再び矢が足を貫通すると騎士団長は聞くに耐えない叫び声を上げて再び転がり回る。


「ハッハッハ!いい気味だ。私は神と神を崇める奴等が嫌いなんだよ。分かったか?」


何とか声を出そうとした騎士団長に向かってルナリアは笑いかけると更に続けた。


「あぁ、言い忘れてたな。返事は痛いかもう一回のどっちかにしろよ?」


鎧越しでも彼が絶望したのは目に見えた。



$$$



その後騎士団長はもう二回悲鳴を上げる事になり、今は満身創痍の状態で、抵抗せずに鎧を剥がされている。

まあ、四肢を貫かれれば抵抗できる筈もないが。


全ての鎧を剥ぎ終え、最後に頭の部分を取り外したルナリアは彼の顔を見て眉をひそめた。


「うわ、思ってたよりもオッサンだな。やっぱり晩婚化してるな貴族は」


「ぅ…………ぁ、ク……ズが」


「まだ人を罵倒できるのか。逆に尊敬するぞ?」


そう言ってルナリアがナイフを振り上げた、その時―――。


「おねーさん!やめてよ!おとうさんがしんじゃうよ!」


カインが檻の残骸から這い出してルナリアの手に飛び付いた。

ルナリアは困った顔をしてナイフを下ろすとカインに向き合う。


「おい、カイン。こんなクズを庇うのか?」


騎士団長は目を見開いて我が子を凝視し、嬉しさの余り涙を流し始めた。

やはり子供は自分の事を愛してくれているのだと。


だが、無情にもカインはルナリアの問いに対して首を横に振った。


「かばう?ちがうよ。おとうさんはぼくがころすから、おねーさんにころしてほしくないだけだよ?」


途端に騎士団長の涙の意味が変わった。

喜びから絶望に、だ。

ルナリアは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにニィッと笑ってカインの頭を撫でる。


「いいだろう。それならお前にこれを貸してやる」


そう言ってルナリアはカインにナイフを手渡した。

まるで誕生日プレゼントを貰うかのように、カインは嬉しそうにそれを受け取るとニパーッと笑った。


「ありがとう、おねーさん!」


ナイフを握り直すとカインはクルリと騎士団長に向き直り、目を閉じる。


「【うろこをはがれたりゅうのごとく、ししをおとされたけもののごとく、かのものにせいののろいあれ】」


「ヒイィィィィイ!!」


騎士団長が悲鳴を上げるのも無理はない。

カインが使ったのは拷問用の禁術だ。

体の自由を殆ど奪い去り、どれだけ血を流そうとも死ぬことができなくなる。


「おい、カイン。どこでそんな悪趣味なものを覚えた?」


「おとうさんたちがおかあさんにつかってた!」


「あぁ成る程な。それじゃ、後は好きにしていいぞ。私はお前の母親を殺してくる」


「うん、わかった……」


そう言って寂しそうに俯くカインの頭を撫でると、ルナリアは彼に微笑みかける。


「……何か伝えたい事はあるか?」


カインは精一杯笑顔を作って顔を上げると、ルナリアに笑いかけた。


「おやすみなさいってつたえておいて!」


そう言うカインの目からは涙が流れていた。

【フェルディーア】

主に人族が信仰している女神。

創造神と呼ばれているが、彼女が造ったのは世界に存在する生物と物体だけであり、世界そのものは別の神が創った。

軍神サルスウォーグの妻であり、彼を殺したルナリアを目の敵にしている。


【禁弓二式 杜若】

矢の鋭さと推進力を魔力によって引き上げる術。

これによって矢はありとあらゆる物を貫通するようになる。

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