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1 極悪非道エルフの帰還

ここは表通りを歩けない者達が集う街。

お尋ね者や亡国の王族、殺人鬼が闊歩する。

ここは俺等の安息の地。

その名はモルガル。

どんな者でも受け入れる坩堝るつぼの街。

―――酒盛りの定番曲より



$$$



夜になり、昼間はひっそりとしていた街に活気が戻ってくる。

都市の地下街であるこの街に光は届かないため、時間でしか昼夜を判断できない。

石造りの街並みは血と酒の臭いで満ちていた。


夜の合図である地下時計の鐘が鳴り響くとモルガルの人々は本格的に商売を始める。

臓器売りが威勢よく声を張り上げ、闇医者が客引きをし始めた。

商品を盗もうとしたコソ泥が店主に殺され、死体が臓器売りに転売されるのも珍しくない。

初めてここに来た奴は大抵、目を白黒させている内に財布を摺られて文無しになる。

それがこの街、モルガルだ。


そんな物騒な街に一人のエルフの少女が帰ってきた。

尖った耳、光輝く白銀の髪、大理石のように白い肌、血のように赤い目。

手には大きな弓を持ち、腰には矢筒と沢山のナイフが吊るされていた。


その姿を見ると街の者達は悲鳴を上げ、街の中心へとつながる道をあける。

人々はヒソヒソと話したり、泣き声を上げたりとお祭り騒ぎだ。

彼女はそんな事に目もくれず街の中心へと向かっていく。



$$$



街の中心にある高級宿―――魔女の安息所には名だたる犯罪者が集まることで有名だ。

帝国の金庫破りや、連続殺人の犯人など、ありとあらゆる犯罪者が留まっている。


その為大抵のお客には慣れているが、彼女が来たことは意外だったらしい。

フロントの受付嬢は彼女が入ってくるなり悲鳴を上げて支配人を呼びに行った。

人相が悪い覚えは無いんだが……。


しばらくすると支配人が現れ、オーナーの部屋に案内すると言った。

彼女が返事をする間もなく支配人は案内を勝手に始める。

面倒だと彼女は思ったが、これから世話になるであろう場所で厄介事は起こしたくないので黙って着いていくことにした。



$$$



オーナーの部屋に入ると彼女は溜め息を吐いた。

かつて共に戦った魔女がそこに座っている。

綺麗な金髪、青い目、無駄に豊満な胸。

見ているだけでムカムカする。


「何故まだ生きてるんだ?お前は」


「もう少し女の子らしい話し方をしたらどうかしら?」


オーナーは不敵に笑って彼女に抱きつく。

するとオーナーの豊満なそれが当たり、彼女の怒りのメーターが振り切れた。

彼女は冷静にビンタでオーナーを引き剥がし、首もとにナイフを突きつける。


「相変わらずみたいだな、アイテル」


「そういう貴女もね、ルナリア」


オーナー改めアイテルは嬉しそうに笑い、魔法でナイフを蛙に変えた。

後ろ足を捕まれた状態の蛙はルナリアの手の中で暴れ回り、必死に逃げようとしている。


やってくれたな?

ルナリアは顔をしかめ、蛙をアイテルの顔面に投げつけた。

蛙は楽しそうにゲコゲコいいながら素晴らしい速さでアイテルの顔に飛んでいく。

ビチャッという音と共に蛙はアイテルの顔に張り付き、彼女は悲鳴を上げて部屋を駆け回った。


「イヤァァァァア!!」


「ハッハッハッ、相変わらず面白い奴だ」


ルナリアはしばらくその様子を笑って見ていたが、すぐに飽きたのかアイテルの足を引っ掛ける。

アイテルは盛大に転び、顔に張り付いていた蛙はナイフに戻って持ち主に拾われた。


「ひ、酷い……」


「お褒めに預り光栄だ。それで?幾ら掛かる?」


アイテルが息つく間もなく、ルナリアはナイフを手で遊ばせながら聞く。


「一部屋、銀貨20枚よ」


アイテルは涙目でルナリアを見上げて言った。

へぇ、と興味無さ気にルナリアは相槌を打って彼女の方を目だけで見下ろす。


「全部屋借りるとしたら?」


服に付いた埃を払い、アイテルは算盤で計算を始める。

やがてその結果を紙に書き、ルナリアに突きつけた。

ルナリアはそれを引ったくるとザッと目を通す。


「1日金貨10枚。他の奴を追い出すなら違約金として追加で金貨100枚必要……か」


「払えるの?」


どうせ無理だというように薄ら笑いを浮かべるアイテル。

そんな彼女を横目で睨みながらルナリアは床に小袋を投げる。

ドンッという重々しい音をたてて着地し、衝撃で口が開いた袋の中から金色の光が溢れた。


「へ?」


アイテルは恐る恐るルナリアの顔を見る。

ルナリアは小袋を蹴って彼女の方に寄越し、嗜虐的な笑みを浮かべた。


「ほら、中を確認しろ」


「嘘でしょ…………」


アイテルが5分程かけて数えてみると中には200枚の金貨が入っていた。

多すぎると言ってアイテルは金貨90枚を返そうとする。

対するルナリアはそれを押し戻して一言。


「これからの迷惑料だ」


「……何故こんなに大金を持っているの?」


アイテルが恐る恐る聞くと、ルナリアは自慢気に薄い胸を反らしてフフンと笑う。


「ボルナ公国ってあっただろ?あれを滅ぼして国庫から金貨を盗んできた」


もっと吹っ掛ければ良かったとアイテルは後悔した。

【硬貨の金額換算】

金貨1枚=100万円

銀貨1枚=1万円

銅貨1枚=100円

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