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17 極悪非道エルフと騎士団長の秘密 3

マーダーメイド―――。

長い歴史を持つ暗殺一族の俗称で、代々メイド服を着用し、日用品で犯行に及んでいた為この名前が付いた。

初代が活躍していたのは1600年程前で、ルナリアとも面識がある。

因みに初代マーダーメイドはスプーンを使って暗殺を行っていた。



そして目の前に居る当代のマーダーメイドは華麗な刺突でルナリアを感嘆させている。


「見事だな!だが少し遅い。そんな重そうな胸を揺らしてるからだ!」


突き出される編み針を敢えてスレスレに避け続け、ルナリアはそう言って不敵に笑った。


「誉め言葉として受け取らせて頂きますっ!」


対して返答するメイドの声にはあまり余裕が感じられない。

ルナリアが防戦一方な為、メイドは絶えず攻め続けており、体力も限界に近付いているのだろう。

二十分間本気で刺突を続ければ疲れるのも無理はない。

さて、あとどれくらい持つか……。



十五分後―――。



「ハァ……ハァ。負けました……」


体力を完全に使いきったメイドはそう言って、その場に膝を付いた。


「いやいやいや。負けました、じゃねぇよ!」


対するルナリアはナイフを仕舞うと呆れ顔で説教を始める。


「これは訓練じゃないからな?お前、私に殺されても文句は言えないぞ?」


「分かっております……」


「分かってないから言ってんだよ」


ゴッと鈍い音と共にメイドの頭に拳骨が落とされた。

メイドは涙目でルナリアに抗議の視線を向けるが、彼女は気にする事無く説教を続ける。


「攻撃もペース配分を考えないから、こうやって体力切れを起こしてるんだ。実戦じゃ体力切れを起こした奴は死ぬだけだぞ?」


「し、しかし……!」


反論しようとするメイドの額に手を置いて押さえつけ、ルナリアはニヤッと笑った。


「お前ら一族が暗殺特化なのは知ってるが、最低限白兵戦にも慣れておけ。良いな?」


「うぅ、はい……」


満足気に頷くとルナリアはメイドの頭を優しく撫でる。

照れているのかメイドはワタワタしていたが、すぐに頬を弛ませて大人しく撫でられていた。


一頻り撫でるとルナリアは手を止めてニヤリと笑い、メイドを見下ろす。


「腕を磨きたくなったらいつでも私を訪ねて来い。いくらでも稽古を付けてやる」


「あ、ありがとうございます!」


座ったままメイドはペコリと頭を下げた。

ルナリアが何も言わずにその場を立ち去ろうとすると、メイドは慌てたように彼女に声を掛ける。


「あ、あの!一つだけ聞いても宜しいでしょうか!」


ドアに掛けていた手を戻すと、ルナリアは嫌そうな顔をして振り返った。


「……一つだけだぞ?」


渋々ルナリアが了承すると、メイドはパアッと目を輝かせて胸の前で手を組む。

まるで神殿の巫女のような仕草に、神嫌いのルナリアは顔をしかめた。


「御名前をお教え下さい!」


「……ルナリア・フォルメールだ」


名前を聞いた途端にメイドは身を硬くし、そのまま気絶してコテンッと倒れてしまった。

さっきまで普通に話していたくせに、名前を知った途端にこれか。


やれやれというように首を振るとルナリアはドアに向き直り、一気に引き開けた。



$$$



ルナリアが屋敷に侵入してから一分経った。

エントランスから広間にかけて、頭に矢が刺さった使用人達が所狭しと倒れており、何があったのか容易に想像できる。


大量に転がる死体の中心でルナリアは退屈そうに欠伸をした。


「何だよ、強いのはマーダーメイドだけかよ。弓矢を使わなくて良かったじゃねえか」


山積みにした死体の上に優雅に座っているその姿は、魔王や悪魔神と見紛う程禍々しい。

さて、いつになったら騎士団長ヒーローは現れるんだ?



二十分後―――。



一向に騎士団長が現れる気配は無く、ルナリアはイライラしていた。

ポケットから干し肉を取り出し、ルナリアは苛立ちをぶつけるようにそれを喰い千切る。

唯一他人から教わったレシピである干し肉は程よい塩加減で、数種類のスパイスが独自に調合されているからか溜め息が出るほど美味しい。


肉を飲み込んで一息つくと、何処かのドアがキィッと音を立てた。

ルナリアは立ち上がって死体の山から降り、フードを深く被ると弓を構える。


少しするとルナリアの前に一人の騎士が現れた。

全身を銀色の鎧に包んだ彼は盾を構えて剣を引き抜き抜くと、低い声を辺りに響かせる。


「使用人が世話になったようだな?客人よ」


「私はなにもしてないぞ?こいつらは頭から矢が生えて死ぬ疫病にかかっただけだ」


「な、何だと……!それでは私は言い掛かりをつけてしまったのか!?」


騎士は思わず剣を取り落とし、ヨロヨロと後ろに数歩下がった。


「信じるなカス。私が全員殺しただけだ」


呆れ顔でルナリアがそう言うと、騎士は剣を拾い上げ、その切っ先をルナリアに向ける。


「……貴様、使用人を殺しただけでなく私を騙したのか!」


「あんな嘘で騙されるお前が悪い」


「う、うむ。確かに私も悪かった……。だが!貴様の行為は断じて許されるものではないっ!」


変に正直な男だ。

ルナリアは溜め息を吐くと弓を壁に立て掛け、ナイフを構えた。


「騎士なら決闘で白黒付けようぜ?勝った方が正義だ」


勝った方が正義。

地上の暴論は地下の常識なり、という諺があるが典型的な例がこれだ。


「良かろうっ!」


因みに、地上の正直者は地下のカモという諺もある。

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