16 極悪非道エルフと騎士団長の秘密 2
【本日の依頼内容】
仕事内容
リリの手下の救出
騎士団長の跡継ぎの真相解明
依頼人
リリ
報酬
前金、金貨5枚(済)
一人救出するごとに金貨3枚
全員救出でボーナスとして金貨1枚
情報入手で金貨5枚
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「さーて、御仕事の時間だ」
異扉を通り、ルナリアはマリバル帝国へと容易く侵入を果たした。
辺りは日が沈んだばかりで薄暗く、通りを歩く人の影は殆ど無い。
念のためフードを深く被ると、ルナリアは豪邸の門の前まで歩いていく。
遠くから見た限り、どうやら門番が二人いるらしい。
騎士団長の邸宅なだけある。
まあ、そんなことはどうでもいいが。
ルナリアが彼等の存在を無視するかのように門に近付くと、案の定異様な来客に門番達は槍を構え、彼女に対して怒鳴り声を浴びせた。
「何者だ!顔を見せろ!」
何も言わずにルナリアは素早く弓を構え、矢を二本同時に放つ。
矢はドスッという音を立てて門番達の眉間を貫き、彼等の短い人生に終止符を打った。
「無視しておけば長生きできたのにな?」
門番の死体を邪魔だと言わんばかりに蹴って退かすと、ルナリアはナイフを取り出して門に突き立てる。
鋼鉄で出来たそれをバターのように軽々と切りながらルナリアは口元に邪悪な笑みを浮かべた。
「私が来た以上、ただで済むとは思うなよ?」
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門を切り裂いて庭園に侵入したルナリアを待っていたのはおびただしい数の兵士達だった。
槍を構えるのが三十人、弓を構えるのが五十人、杖を構えて魔法を放つのが二十人。
小規模な部隊を相手取るような気分だ。
ルナリアはニイッと口角を上げると、クルリと弓を回してから矢をつがえ、それに魔力を込める。
限界まで魔力を込められた矢は紅く光り、フードに隠れていたルナリアの顔を照らし上げた。
「ル、ルナリアっ……!」
槍を構えていた兵士は侵入者の正体に気付くと、手に持っていた槍を取り落とした。
「撤退しろっ!!」
隊長と思われる男が叫ぶと、衛兵達は我先にと撤退して行く。
根性なし、と心の中で罵りながらルナリアは逃げて行く兵士達の先頭に狙いを定めた。
「精々無様に倒れ伏せ。【禁弓四式 鳳仙花】!」
簡易詠唱と同時に矢を放つと、矢は瞬く間に分身を作り出し、百本程に増えて兵士達に雨の如く降り注いだ。
半数の兵士が矢に貫かれてその場に倒れると、矢から逃れた兵士達は悲鳴を上げながら散り散りになって逃げ去っていく。
ルナリアは辺りに人の気配が無くなったのを確かめて残念そうに溜め息を吐くと、再び歩き出した。
豪邸へと向かう道筋には呻き声を上げる兵士が転がっており、ルナリアが近くを通る度に恨み言を並べている。
煩いと言わんばかりに彼等を蹴りながらルナリアが歩みを進めていると、一人の兵士がルナリアの足を掴んだ。
「め、冥土の土産に教えてくれ……!あの矢は何だ?」
ルナリアはやれやれと言うように屈むと、そっと兵士に耳打ちする。
「エルフの禁術と弓術を融合させたものだ。中々見事なものだろう?」
「ハッ、違いない……!」
兵士は自嘲気味に笑うと目を閉じる。
すかさずルナリアはナイフを構え、彼の首にナイフを降り下ろした。
「来世で私に会いに来い。そしたらもっと詳しく話してやる」
絶命した兵士の髪を撫でながらそう言うと、ルナリアは立ち上がって再び豪邸に向かって歩き出す。
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「お客様、今宵はどのようなご用件でしょうか?」
「…………は?」
豪邸に辿り着いたルナリアを待っていたのは、拍子抜けするくらい平常運転のメイドだった。
決して遠くない所で人が殺され、殺した張本人が目の前に居るというのにこのメイドは全く動じない。
まさか知り合い……じゃないよな?
「如何なさいましたか?」
「いや、何でもない。それよりワナルバス公爵に用がある。至急お目通り願えるか?」
「申し訳御座いません。旦那様に会いたいと言う者は全員始末しろと仰せつかっておりますので……御覚悟願います」
営業スマイルを崩さずにそう言うと、メイドは鉄で出来た編み針を両手に構えた。
バックステップで距離を取ると、ルナリアはナイフを両手に構え、メイドの出方を伺う。
「マーダーメイドか……」
酷く懐かしい構えにルナリアは目を細める。
「では、参ります」
ルナリアの呟きを気にすること無く、メイドは大仰に一礼すると刺すような目でルナリアを見た。
【禁弓四式 鳳仙花】
矢に複製魔法をかけて放つだけという簡単(ルナリア基準)な術。
放たれた矢は自らの複製を作り、数多の仲間を引き連れて敵に襲い掛かる。